精一杯のエゴイスト

宮内

文字の大きさ
31 / 63

31

 仕事帰り、観たかった映画の最終日に間に合い夕食には少し遅い時間に映画館を出た。

家に帰って夕食を作るのも面倒でどこかで済ませて帰ることにした。
明るい光を放つカフェには平日にもかかわらず多くのカップルや友達同士賑わいを見せている。
夏は終っているはずなのに熱さは衰えを知らず、季節の堺目がわからない。
一人でも入れそうな店を捜しながらふらふらと歩いていると、賑わいの中に見たことのある姿を見つけた。

長身のすらりと伸びた手足と細身の体に似合わないたくましい腕。
暑さが揺るぐことがないのに半袖でなく長袖のワイシャツを少しだけたくし上げ大き目の腕時計とつややかな黒髪。 

三島さんだ。

思わぬ偶然に嬉しくて心が弾んで駆け寄ろうとしたその時、彼が一人ではないことに気が付く。

彼の横には、惜しむことなく披露された白く細い二の腕とまっすぐに伸びた足におれそうな細いヒール。
腕こそ組んでいないものの二人の間に隔たりなどないほどの近距離で寄り添い歩いていた。
女性はポニーテールを揺らしながら何度も三島さんを見上げ楽しそうに微笑んでいた。
彼の方も彼女の歩みに合わせ彼女をみながら微笑んでいた。


先日別れたあの日、三島さんはしばらく忙しくて会えないと言っていた。
それなのに目の前で若くかわいらしいポニーテールの女の子と笑いあっているのは紛れもなく彼だった。

予想できなかったことではないのにひどく落胆している自分がいた。
それが滑稽で情けなく臍をかんだ。

舞い上がって変われるかもしれないなんて期待して懲りない自分に気が付き泣き出しそうで慌てて踵を返して化粧室へ走った。
駆け込んだ化粧室で鏡を見ると、目の下にはくまができ、映画館で少し泣いたせいもあり化粧もはげ、よれよれな自分がいた。
大きく息をつき、できる限り化粧を直し鏡に向かって自分の中での最大級の作り笑いを浮かべた。

もう、二度と期待しないために自分に現実を突きつけるべきなんだ。
もう間に合わないかもしれないけれど化粧室を飛び出し、もと来た道を足早に戻った。

二人の姿は見えなかったが、私はそれでも二人が進んだであろう方向に背筋を伸ばして進む。

あなたにおすすめの小説

綺麗な彼女

詩織
恋愛
憧れの人はモデルの彼女がいる。ずっと片思いなのが辛すぎて・・・

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

一目惚れ、そして…

詩織
恋愛
完璧な一目惚れ。 綺麗な目、綺麗な顔に心を奪われてしまった。 一緒にいればいるほど離れたくなくなる。でも…

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

上手に騙してくださらなかった伯爵様へ

しきど
恋愛
 アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。  文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。  彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。  貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。  メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…