精一杯のエゴイスト

宮内

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 出口が近づいて行き交う人の人数が多くなり始め、もう二人をとらえるのは無理だとあきらめた時、入口近くの雑貨屋から二人は出てきた。

先ほど見た後ろ姿同様に触れ合わんばかりの二人がいた。

私は周りに気づかれないように深く息を吸い込み
「こんばんは。」
彼に向って声をかけた。

驚いた様子の三島さんとかわいらしいく彼をのぞき込む彼女。

「こんばんは。」
明らかに驚いた顔で私をみながら挨拶をした。
「平日なのに人が多いですね。」
あれほど、息巻いていたのになんて言ってよいのかわからずそう絞り出すのが精いっぱいだった。

「修二さん。お知り合いですか。」
ポニーテールを傾けながら彼女が訪ねた。

パフスリーブにマスタードカラーのフレアスカート。
腕に抱えられたグレーのカーディガン。
それは私には決して届かない手出しできない甘く弾けそうな若さ。
それを惜しみなく見せつけられるような姿の彼女はいくつぐらいだろう。
二十四?二十五ぐらいだろうか。
あり余る若さとかわいらしさを最大限に披露する彼女はただただ眩しい。
彼女の質問に三島さんは何と答えるのだろう。

私と三島さんの関係は何なのだろう。

ずっと私が知りたくてでも聞けなかったことをいとも簡単に彼女は尋ねた。
彼女と私に見入られながら、三島は彼女の方を向いて
「ああ。知り合い。」
と答えた。

頭の中で何かが弾けた音がした。
彼が知り合いと答えたことに。
覚悟していたつもりだったのに落胆した。
そして、彼女に向って答えたことにも。
 

そうだったんだ。
私たちは「知り合い。」
何度か映画をみて食事をして手をつないで、キスして、一度ねただけの、ただの知り合い。

私は何を期待していたのだろう。
気を抜くと涙がこぼれそうになった。
これが自分の望んだ結果だと自分に言い聞かせ撤退することにした。

今回は前回と違ってちゃんと自分でとどめを刺した。
くすぶることもないほどはっきりと自分と三島さんとの関係を確認したのだ。

誤解も淡い期待もない。
あるのは、また選ばれなかったという現実だけ。
勘違いして浮かれてはしゃいだ自分。

でも、今回は妥協でも打算でもなく私はただ彼が好きだった。
結果は同じだったけれど。
それだけはわかっていた。

大丈夫。
心配しなくてもどれほどみじめでも必ず明日は来る。
それだけは経験からわかっている。

「知り合いを見かけて思わず声をかけちゃいました。お買い物中にお邪魔してしまってごめんなさい。」
彼女に向けてできる限りの笑顔を向け
「では。失礼します。」
と二人に一礼して出口に向かって必死で歩いた。

二人から見えないところに消えてしまいたい。
自分で望んで招いた結果なのに受け入れられず傷ついてなんて馬鹿なんだろう。
この期に及んで自分をかわいそうだなんて思いたくはない。
それなら、勘違いして期待して現実を知って落ち込んだ学習しない年増の女とみじめな気分になる方がずっとましだった。

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