精一杯のエゴイスト

宮内

文字の大きさ
36 / 63

36

「なんだよそれ。ただの知り合いってなんて言ってないだろ俺。」
「言いました。」
自分が言ったことなのに彼は怒るように
「佐和ちゃんに誤解されたくないから、わざわざここまで来て。時間もらって。メッセージしても全然読まないし。なんなんだよ一体。」
やり場のない気持ちと苛立ちからか言葉が勢いを増す。
「あなたが彼女に私のことをそう紹介したでしょ。
『知り合いだよって。』
それまでずっとわからなかったけど、私、その時わかったんです。私たちただの知り合いだったんだって。だからただの知り合いにこんなに労力使う必要ないです。大丈夫です。次はもう声かけたりしませんから。」

早くこの場から逃げ出したい。
こんな惨めな自分は嫌だ。
逃げ出そうとする私を再び彼は捕まえた。

「待って聞いて。違うんだって。あの子は本当にただの会社の後輩。佐和ちゃんの事ただの知り合いなんて言った覚えないけど、言っていたならごめん。それは、彼女が佐和ちゃんのことを紹介する必要がない程度の関係だから。信じてよ。」
私は何も言えずにその場に立ちすくみ彼の顔を見据え
「彼女はそうは思ってないと思いますよ。」
「彼女がどう思ってるかは知らないけど俺はなんとも思ってないんだって。」
これでは、堂々巡りだ。

あの日、あの時のことを思い出すと彼がいくら言葉を紡ごうと今の私は信じることなんて到底できない。
「分りました。」
自分の気持ちに蓋をしてつぶやいた。
でもその事が顔に出ていたのか彼は私の手を掴んだまま顔を覗き込む。
「本当にわかってくれた?」
「分りました。」
「何をわかってくれたの?」
「彼女はただの後輩だってこと。」
「そうだよ。」
彼は安堵したように息を吐き出す。
「分りました。」
呟くような声になった。
「じゃあなんで怒ってるの。」
幾分穏やかな声になった彼はさらに私の顔を覗き込む。
「怒ってないです。」
私は顔を逸らす。

「怒ってるよ。」
「怒ってないです。」
そんな押し問答を続け
「本当にただの後輩だから。」
「分りました。」
彼は少し長めに大きく息を吐き、私を抱き寄せた。

私は彼の腕からすぐに離れ
「でも、あのモール三島さんの会社じゃなくて、マンションのそばですね。会社の同僚と結婚祝いの買い物あそこなんですね。全然信じられない。」
私はもう泣いてはおらず、かわいげのかけらもない嫌味な笑みで彼をにらみつけ、その言葉を「さよなら」の代わりに今度は歩いて、でもうんと速足で彼の元を去った。

あなたにおすすめの小説

一目惚れ、そして…

詩織
恋愛
完璧な一目惚れ。 綺麗な目、綺麗な顔に心を奪われてしまった。 一緒にいればいるほど離れたくなくなる。でも…

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

離れて後悔するのは、あなたの方

翠月 瑠々奈
恋愛
順風満帆だったはずの凛子の人生。それがいつしか狂い始める──緩やかに、転がるように。 岡本財閥が経営する会社グループのひとつに、 医療に長けた会社があった。その中の遺伝子調査部門でコウノトリプロジェクトが始まる。 財閥の跡取り息子である岡本省吾は、いち早くそのプロジェクトを利用し、もっとも遺伝的に相性の良いとされた日和凛子を妻とした。 だが、その結婚は彼女にとって良い選択ではなかった。 結婚してから粗雑な扱いを受ける凛子。夫の省吾に見え隠れする女の気配……相手が分かっていながら、我慢する日々。 しかしそれは、一つの計画の為だった。 そう。彼女が残した最後の贈り物(プレゼント)、それを知った省吾の後悔とは──とあるプロジェクトに翻弄された人々のストーリー。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長 『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。 ノースサイド出身のセレブリティ × ☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員 名取フラワーズの社員だが、理由があって 伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。 恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が 花屋の女性の夢を応援し始めた。 最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。

「やり直したい」と泣きつかれても困ります。不倫に溺れた三年間で私の心は死に絶えました〜捨てられた元妻、御曹司の傍らで元夫を静かに切り捨てる〜

唯崎りいち
恋愛
三年間の夫の不倫で心も生活も壊れた私。偶然出会ったレトルト食品に救われ、Webデザインで再出発。過去に縛られず、自分の人生を取り戻す静かな再生の物語。