精一杯のエゴイスト

宮内

文字の大きさ
40 / 63

40

「お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした。それに巻き込んでしまって本当に申し訳ありませんでした。」
こんなに恥ずかしい事は無い。

そんなことがあるまで私は彼の話も聞かずに逃げるようにあてもなく電車に乗り、追いつかれそうになると慌てて電車を降りた。

そしてあの騒ぎ。
彼に元カレのことを話した事は無い。
まともな恋愛もできない。
話もできない最低な女だ。
恐ろしく惨めでこんな女に三島さんはきっと愛想尽かす。
いや、もともとつかされる愛想なんてないのだけど。
呆れられても仕方ない。消えてしまいたかった。

出来る限りの声で私は彼にお礼を言い自分のアパートに向かおうとした。
すると彼は私の手を引き
「帰したくない。一人にできないよ。お願いだから俺の家に来て。」
と静かに言った。
私は黙って首を振った。

行けるわけがない。
彼の家にこんな姿で、こんな惨めなところを見られて行けるわけがない。

「本当に今日はありがとうございました。それにさっきは話も聞かずにごめんなさい。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
深く一礼し立ち去ろうとする私の腕を彼はつかみ

「帰したくないんだ。俺の話もまだ聞いてほしい。それに帰って君が一人で泣くのなんて耐えられない。俺の家に来て一緒に食事をしよう。話を聞いてほしい。俺は君に疑われるような事は本当に何もしてないから。とりあえず、その恰好じゃ帰らせれないから。ね。」


 私は、はだけてしまった胸元を抑えてうつむいた。
進む気力も戻る気力もなく『ね。』と覗き込む彼の優しさに流されて私は手を引かれるまま進む。

部屋に入るとすぐに三島さんはティーシャツを出してくれた。
私はバスルームを借りボタンが飛んで胸元がはだけてしまったブラウスを脱ぎ彼から借りたティーシャツをきてバスルームを出た。

彼は私をソファーに座らせると飲み物を出してくれた。
そして隣に座り、少し前に聞いた話を同じようにしてくれた。

同僚の結婚祝いを買いに行っていただけで本当に彼女とは何もない。
そんな気もないことを信じてほしいと。

私はその話を信じるかどうかではなく、今日の一連の全ての事が遠い昔のような今この場で起きているようなどこにも行けないような気持ちでいたたまれなくなりながら彼の話をただ聞いていた。

彼は私の手を握り
「信じてほしい。本当に何もないから。」
「分りました。ごめんなさい。話も聞かずに逃げ出すようなことをしてすみませんでした。」
「よかった。」

彼はそう言って微笑み、大きく息を吸った後
「ピザでいい?」
食欲などなかったが私はうなずいた。

努めて明るく聞く三島さんの気遣いが苦しい。
三島さんはピザを注文し、私は水滴を帯びたグラスを握ったままずっと下を向いていた。
さっき起こったことの説明を三島さんにしなくてはいけないだろう。
何も聞かずに三島さんは私を助けてくれた。
でも、どう見たって男女の修羅場だ。
それも恐ろしく低俗な。
こんなことに巻き込まれる女なんてどう思われるだろう。
男を見る目がまったくない女?
それとも横恋棒?男を見る目がない女と言うのは確かに正しいかもしれない。
ただ横恋棒をした覚えは無い。むしろされたほう。
そしていつでも私は選ばれない女。
それだけだ。

あなたにおすすめの小説

綺麗な彼女

詩織
恋愛
憧れの人はモデルの彼女がいる。ずっと片思いなのが辛すぎて・・・

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

一目惚れ、そして…

詩織
恋愛
完璧な一目惚れ。 綺麗な目、綺麗な顔に心を奪われてしまった。 一緒にいればいるほど離れたくなくなる。でも…

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

見栄を張る女

詩織
恋愛
付き合って4年の恋人がいる。このままだと結婚?とも思ってた。 そんな時にある女が割り込んでくる。