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オーパーツ奪還作戦

第6話 旅立ち

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 村を出ようとすると村長が待ち構えていた。

「本当に行くんじゃな?」

「ああ、オーパーツは取り返さないといけないからな」

「ワシらの使命は守ることだけじゃよ?奪われた時点でもう存在意義がない。その娘とこの村で余生を生きるのも良いと思うがの……」

 その言葉にユキノが驚いた。

「え!わ、私?……私は……」

 ユキノが喋るとややこしくなりそうだったので、ユキノの言葉の上から重ねて否定する。

「ユキノ自身が居づらいだろうし、何よりコイツには恋人がいるんだぞ?」

「別にお主と暮らすなら苛めたりせんよ……冷たいかもしれんが、死んだ者は皆使命で死んだんじゃ。過去よりも、これからのことをワシらは話し合うつもりじゃ」

 みんな強いな。悪いが俺はハルトを殺さないと気がすまない。オーパーツ奪還よりも本当は復讐の方が気持ち的に勝っている。

「察してくれ、俺に残っているは復讐だけだ。それにユキノにそう言う感情は抱けないしな」

「……はぁ。わかった。達者でな……」

 村長はそれ以上止めることもなく手を振っている。
 少しだけ恥ずかしかったロイは後ろ手に手を振りながら影の一族の村を旅立った。

 しばらく街道を進むと、ゴブリン達が往生しているのを発見したので近くの大岩に隠れた。数は5体か……2体くらいなら影魔術による奇襲で片付くが……。

「ユキノは攻撃手段あるのか?」

「うぅ、実はずっと後ろで見てただけなので戦ったことないんです……すみません」

 これでよく勇者パーティにいられたな……。口に出すとさらに落ち込むので止めておいた。
 仕方ないのでロイは予備の短剣をユキノに手渡す。

「これは?」

「自決用だ」

「ふぇ~~~私死ぬ前提なんですね……うぅ……ぐすん」

「冗談だ。そのスタッフじゃ組伏せられたとき使い物にならないだろ?ゴブリンは女を狙うからな。殺さず犯すという慢心を突いて首を掻き斬れ」

 え?もしかして、ロイさんは緊張した私を落ち着かせる為に冗談を?ユキノはロイの言葉に少しだけ好感を抱いた。

「今回は俺一人で戦う。そこで見てろ」

 ロイは聖剣グラムを呼び出した後、自身の影を伸ばしてゴブリンの背後まで移動させる。そして自分の影に聖剣グラムを沈ませる……影に入った聖剣グラムは影の中を移動してゴブリンのところで止まった。

 ロイはタイミングを見計らって聖剣グラムを射出した。談笑をしていたゴブリンは自身の胸から剣が突き出たのに驚いたあと、事切れた。

「まずは1体目だ」

「凄いです!……えっ!?なんで聖剣が手に?」

 ユキノはゴブリンの胸を突き刺したはずの聖剣が、いつの間にかロイの手元に戻ってることに驚いた。

「これが聖剣の固有能力『召喚』だ。いつでも自由に手元に呼び出せる能力だ」

 ゴブリン達はロイ達が隠れている大岩を包囲して徐々に近付いてくる。

「ここからは真っ向から戦うからそこを動くなよ?」

「が、頑張って下さいぃ~」

 ロイが飛び出すとまず最初に槍を持ったゴブリンが反応した。

「遅いッ!」

 "シャドウエッジ"

 聖剣グラムに影をまとわせて刀身を延長し、槍の穂先を払ってゴブリンを斬り伏せた。

「これで2体目だ」

 続けざまにビュンと飛んでくる弓矢を死体でガードしながら疾走し、距離を詰めて3体目を斬り伏せる。

 残りは斧を持ったゴブリンと杖を持ったゴブリンか。相手は流石に不利だと判断したのか陣形を組始めた。
 前衛が斧、後衛が杖。前後の位置を決める、実はたった2体でもそれをするだけで脅威度は格段に上がってしまう。

 杖を持ったゴブリンが魔方陣を展開し始めた。そして斧を持ったゴブリンがニヤッと笑って斧を振りかぶる。魔術を発動するには魔方陣に魔力を満たさないといけない、その間の時間稼ぎをするつもりか。

「"祝福盾ブレスシールド"!!」

 ユキノの声が聞こえた瞬間、光で出来た盾が斧を防いだ。すかさずロイは胴をすれ違いざまに斬りつけ、そのまま投擲とうてきして最後のゴブリンの頭に剣を生やした。チッ!……ユキノめ、余計な真似を。

 ユキノが岩から飛び出してジャンプし始めた。

「や、やった!初めてスキルが使えました!……え?」

 斧を持ったゴブリンが最後の力を振り絞って立ち上がる。ロイの攻撃は思いの外浅かったようで、斧を持ったゴブリンはユキノだけでも道連れにしようと前進する。ユキノは恐怖のあまりガクガクと震え始める。

 だから動くなと言ったのに……。ロイは頭を抱えつつ影魔術を発動させる。影魔術は影が魔方陣の役割を果たしているのでほとんどノータイムで発動できる。

 "シャドウシールド"

 ユキノの前に黒い盾が出現し、斧を防いだあと盾から黒いトゲが突き出してゴブリンを串刺しにした。

「良かったな、スキル使えて。でもな、元々こういう倒し方をするつもりだったんだよ」

 ロイはユキノに余計なことをするなと嫌みのつもりで言ったが、当のユキノは顔をパッと明るくしてロイの両手をブンブンと振りながら感謝を述べた。

「怖かったです~本当にありがとうございます!」

 ロイは毒気を抜かれてハイハイと流した。
 そして───。

「ユキノ、俺の前に立て」

「え?こうですか?」

 ロイはユキノの左胸を掴んだ。

「ひゃああああああ!!な、何を!?」

「浄化だ。次の戦闘を少しでも楽にするためだ。我慢しろ」

 むにゅりとドンドン沈んでいく、そしてロイとユキノは互いに発光し、浄化を始めた。

 ユキノの声が次第に変化していく。

「……ッ!……ン……ぁ……」

「あと少しだ。……ハァハァ……」

 流石のロイも年頃の男子なので息も荒くなる。最後に一際発光したあとロイは手を離し、剣から浮かび上がる文字を見た。

 グラム+6
 総合力600

 テュルソス+6
 総合力550

 ロイと同じく確認していたユキノが呟いた。

「レベルじゃないんだ……」

「レベルってなんだ?」

「ハルト達の武器はレベル制なんです。影の一族の村で確認したときは40でしたよ?」

「ちなみに、レベルの時の数字は?」

「レベル5でした……でもロイさんに浄化してもらってから今回のような表記に変わりましたね」

 闇武器と聖武器の強さの指標が違うため、どの段階まで上げればいいかわからないが、これだけは言える。───今のままでは全然届いてないと。

 すぐに強くなれないことに苛立ちながらも夜営の準備をするのだった。
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