18 / 225
オーパーツ奪還作戦
第18話 アグニの塔 突入
しおりを挟む
ロイは物陰からサリナとマナブの様子を窺っていた。そして、"シャドーポケット"内が空になったのを確認して密かに笑みを溢した。
"こちらの攻撃が効くのか"、それを目的とした襲撃を行ったのだ。いざ戦いになった時に、刃が通らない程に差があってはどうにもならないからだ。
2人が去ったのを見計らってテントに戻り、夜食の準備をする。と言っても、パンを切り分けて干し肉に多少味付けをする程度だ。ユキノが後ろからヒョコヒョコと顔を出してくる。
「そんなにお腹減ったのか?」
「そうですよ~、昼間かなり汗が出て塩分が足りませぬ~」
「わかったからジっとしてろ。気が散る」
「うぅ~、そう言えばどこに行ってたんですか?」
「店に売れない不良品があっただろ?あれでストレス発散してきた」
「もしかして……あれ全部?」
ユキノが言ってる『あれ』とは先日ゴブリンを大量に駆逐した時に手に入れた短剣だ。モニック村に戻った時に安値で売り付けようとしたんだが、ゴブリンの自作短剣は不純物が多すぎると言う文句のために処分に困っていた。
そんな時にマナブが夜営地を離れるもんだから遊んでみたって訳だ。しかし、あの短剣……土やらゴブリンの糞尿やらが着いてて汚かったんだよな。
あれはある意味毒だ。あれで逝ってくれたら楽なのに……。
食事の後、互いに装備の確認をした。ロイは黒の外套に黒のシャツ、そして黒のズボンと言う出で立ちだ。
対するユキノはロイから譲り受けた黒の外套に胸元の開いた桃色のノースリーブ、下は青のジーパンだった。
「いつも思うけど、ロイさんは黒一色ですね」
「村の風習みたいなものだったからな。神殿以外は建物さえ黒だったろ?」
「ああ~確かに。最初来た時は邪教の村と思ってました」
「……フッ」
「ん~?ロイさん今笑った?」
ユキノはロイの前に回り込んで覗き込んでくる。ロイは少し体を引く体勢になり、女豹のポーズで接近するユキノに少しだけ注意した。
「肩から水色の紐が見えてるぞ?」
ひゃあっ!と脱兎の如く距離を取るユキノ、その顔は羞恥と困惑の表情を浮かべていた。そしてこれ以上追及されるのが面倒なロイは適当に話題を振ることにした。
「新しい服、ちゃんと付与措置されてるのか?」
「……はい、されてますよ?」
「なら良いんだ」
先日、モニック村で服を新調したのには理由があった。アグニの塔を攻略するためには暑さ対策が必要だ。
ロイ達のいるレグゼリア王国は、地図の南に位置する。その中でもモニック村はアグニの塔に極限まで近い位置にあるため、売られている服には耐熱魔方陣が布地に施されている。
ちなみに冒険者用の装備には防御魔方陣の付与措置が施されている為、大昔に比べて軽装が増えてしまった。
ロイとユキノは装備の確認が終わるといつも通り一緒に寝るのだが、今日も布面積の少ないユキノと心穏やかではない夜を過ごす事となった。
☆☆☆
翌朝、準備を終えた時にはすでに数パーティが中に突入していた。一先ず、アグニ攻略を目指すパーティを装うロイ達。
中に入ると喧騒で騒々しかった音が一瞬にして静寂に包み込まれる。50m程度の塔に複数のパーティが入ればごった返す事は明白だが、中は別の空間に繋がっていた。
ここはどうやら洞窟の中で溶岩が川のように流れており、離れた位置では他の冒険者がすでに魔物と交戦を始めていた。
ロイ達も最深部を目指して攻略を開始した。先頭はロイ、そしてユキノが続く形で進んでいった。
「ユキノ、火蜥蜴だ。あれでも一応竜種だから油断するなよ?」
「わかりました!……もしかして、火吐きます?」
「それはそうだろ?わかってると思うが、この直線通路で火球がきたら避けられない。俺の"シャドウシールド"では防げないかもしれないから──」
「私の"祝福盾"で防ぐんですよね?」
ロイは頷き、そしてじわりじわりと距離を詰めていく。ここはT字通路、火蜥蜴の位置は丁度突き当たり……もうすぐ影の射程に入る。と、その時──「助けてくれ~!」
T字通路の右の方から男が喚きながら走ってきた。その背後には数体の魔物が追従している。これはいわゆる"モンスタートレイン"と言うやつでダンジョン内で忌み嫌われるマナー違反である。
追い掛けられていた男はそのまま通路の左に駆けて行き、ロイ達が最初にマーキングしていた火蜥蜴は男が苦し紛れに振るった鎚がヒットした後こちらに吹き飛び、目があってしまった。
我に返ったロイはすぐに指示を出す。
「ユキノ、気付かれた!頼む」
「わかりました!"祝福盾"!!」
ユキノのスキル発動と同時に火蜥蜴の首は盛り上がり、それはやがて口に至って放たれた。
ロイと火蜥蜴の間に盾が出現し、火球の衝突と共に爆音が轟いた。ロイはそのまま地を這うように火蜥蜴に接近し、第2射を放とうとするその口を”シャドーウィップ”で縛った。
発射直前で行き場を失った火球は火蜥蜴の体内で爆散し、内蔵をやられた火蜥蜴はそのまま息絶える事となった。
「ロイさん!」
ユキノが遅れて駆けつける。
「大丈夫だ。怪我はしてない、それよりも──」
「はい、先程の方を追いかけましょう!」
互いに頷き合い、2人は逃げた男を追うことにした。
"こちらの攻撃が効くのか"、それを目的とした襲撃を行ったのだ。いざ戦いになった時に、刃が通らない程に差があってはどうにもならないからだ。
2人が去ったのを見計らってテントに戻り、夜食の準備をする。と言っても、パンを切り分けて干し肉に多少味付けをする程度だ。ユキノが後ろからヒョコヒョコと顔を出してくる。
「そんなにお腹減ったのか?」
「そうですよ~、昼間かなり汗が出て塩分が足りませぬ~」
「わかったからジっとしてろ。気が散る」
「うぅ~、そう言えばどこに行ってたんですか?」
「店に売れない不良品があっただろ?あれでストレス発散してきた」
「もしかして……あれ全部?」
ユキノが言ってる『あれ』とは先日ゴブリンを大量に駆逐した時に手に入れた短剣だ。モニック村に戻った時に安値で売り付けようとしたんだが、ゴブリンの自作短剣は不純物が多すぎると言う文句のために処分に困っていた。
そんな時にマナブが夜営地を離れるもんだから遊んでみたって訳だ。しかし、あの短剣……土やらゴブリンの糞尿やらが着いてて汚かったんだよな。
あれはある意味毒だ。あれで逝ってくれたら楽なのに……。
食事の後、互いに装備の確認をした。ロイは黒の外套に黒のシャツ、そして黒のズボンと言う出で立ちだ。
対するユキノはロイから譲り受けた黒の外套に胸元の開いた桃色のノースリーブ、下は青のジーパンだった。
「いつも思うけど、ロイさんは黒一色ですね」
「村の風習みたいなものだったからな。神殿以外は建物さえ黒だったろ?」
「ああ~確かに。最初来た時は邪教の村と思ってました」
「……フッ」
「ん~?ロイさん今笑った?」
ユキノはロイの前に回り込んで覗き込んでくる。ロイは少し体を引く体勢になり、女豹のポーズで接近するユキノに少しだけ注意した。
「肩から水色の紐が見えてるぞ?」
ひゃあっ!と脱兎の如く距離を取るユキノ、その顔は羞恥と困惑の表情を浮かべていた。そしてこれ以上追及されるのが面倒なロイは適当に話題を振ることにした。
「新しい服、ちゃんと付与措置されてるのか?」
「……はい、されてますよ?」
「なら良いんだ」
先日、モニック村で服を新調したのには理由があった。アグニの塔を攻略するためには暑さ対策が必要だ。
ロイ達のいるレグゼリア王国は、地図の南に位置する。その中でもモニック村はアグニの塔に極限まで近い位置にあるため、売られている服には耐熱魔方陣が布地に施されている。
ちなみに冒険者用の装備には防御魔方陣の付与措置が施されている為、大昔に比べて軽装が増えてしまった。
ロイとユキノは装備の確認が終わるといつも通り一緒に寝るのだが、今日も布面積の少ないユキノと心穏やかではない夜を過ごす事となった。
☆☆☆
翌朝、準備を終えた時にはすでに数パーティが中に突入していた。一先ず、アグニ攻略を目指すパーティを装うロイ達。
中に入ると喧騒で騒々しかった音が一瞬にして静寂に包み込まれる。50m程度の塔に複数のパーティが入ればごった返す事は明白だが、中は別の空間に繋がっていた。
ここはどうやら洞窟の中で溶岩が川のように流れており、離れた位置では他の冒険者がすでに魔物と交戦を始めていた。
ロイ達も最深部を目指して攻略を開始した。先頭はロイ、そしてユキノが続く形で進んでいった。
「ユキノ、火蜥蜴だ。あれでも一応竜種だから油断するなよ?」
「わかりました!……もしかして、火吐きます?」
「それはそうだろ?わかってると思うが、この直線通路で火球がきたら避けられない。俺の"シャドウシールド"では防げないかもしれないから──」
「私の"祝福盾"で防ぐんですよね?」
ロイは頷き、そしてじわりじわりと距離を詰めていく。ここはT字通路、火蜥蜴の位置は丁度突き当たり……もうすぐ影の射程に入る。と、その時──「助けてくれ~!」
T字通路の右の方から男が喚きながら走ってきた。その背後には数体の魔物が追従している。これはいわゆる"モンスタートレイン"と言うやつでダンジョン内で忌み嫌われるマナー違反である。
追い掛けられていた男はそのまま通路の左に駆けて行き、ロイ達が最初にマーキングしていた火蜥蜴は男が苦し紛れに振るった鎚がヒットした後こちらに吹き飛び、目があってしまった。
我に返ったロイはすぐに指示を出す。
「ユキノ、気付かれた!頼む」
「わかりました!"祝福盾"!!」
ユキノのスキル発動と同時に火蜥蜴の首は盛り上がり、それはやがて口に至って放たれた。
ロイと火蜥蜴の間に盾が出現し、火球の衝突と共に爆音が轟いた。ロイはそのまま地を這うように火蜥蜴に接近し、第2射を放とうとするその口を”シャドーウィップ”で縛った。
発射直前で行き場を失った火球は火蜥蜴の体内で爆散し、内蔵をやられた火蜥蜴はそのまま息絶える事となった。
「ロイさん!」
ユキノが遅れて駆けつける。
「大丈夫だ。怪我はしてない、それよりも──」
「はい、先程の方を追いかけましょう!」
互いに頷き合い、2人は逃げた男を追うことにした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる