29 / 225
帝国への亡命
第29話 追手
しおりを挟む
夕食後、宿の屋上に向かうロイと、それを追うソフィアを見たユキノは後をつける。
そして、ロイが自身の笑顔の為に復讐を諦めた事を知ったユキノは扉の影で座り込む。
頬が熱く、頭の中が真っ白になり、気持ちの奔流に押し潰されそうになる。
それまで気にしなかった添い寝が途端に恥ずかしくなり頭を抱えるユキノ。
「うぅ……どうしよう。なんか、頭の中で色んなロイさんが溢れてくるよぉ~」
ハルトに告白された時を遥かに凌駕する感情がどういう感情かわからないユキノはただ戸惑った。
「じゃ、そろそろ戻るか」
ロイの言葉にハッと我に返ったユキノは急いでその場を離れた。
☆☆☆
昼間にユキノが買い物に行ってるのを目撃したロイは、寝る時についてユキノと話しをしてみた。
「昼間、外套無しで出掛けてたよな?」
「そうですけど、私、やらかしましたか?」
「いや、ハルトの事、踏ん切りついたんだなって思ってな」
「そうですね。あまり人の目が気にならなくなったかもしれません」
「そっか。じゃあ、今日から部屋は別々で良いな?」
……え?
ユキノはその言葉に愕然とし、口が震えた。
「───嫌」
「……そう言われてもな」
「べ、別に今まで不都合が無かったならこのままで良いじゃないですか」
ロイの袖を握り、涙目で懇願するその様子に折れてしまい、結局ロイの悶々とした夜は続く事になってしまった。
☆☆☆
エイデン・イグニア……貴族制撤廃を掲げる帝国貴族。そして組織のリーダーも兼任している彼はロイの亡命を支援してくれた。
現在、ロイの一行が乗っている馬車もエイデンからの支援でもらったものだ。
馬車に乗り、王都レグゼリアが小さくなるにつれてパーティの面々はそれぞれ感慨に耽っていた。
「サリナ」
「気安く呼ばないで」
「サリナ、お前どのくらい手持ちある?」
「……はぁ。昨日、防具新調したから残り100Gくらい」
そのやり取りにやれやれとジェスチャーをするソフィアとマナブ。
サリナの前の装備はお洒落と実用性を兼ねた装備だったが、それはハルトの好みに合わせた結果なのだろう。
現在は動きが阻害されない程度に革装備で固め、布の長袖にレザーパンツを着ている。
マナブは魔術師らしいローブ、ソフィアは変わらず白のお嬢様スタイル、ユキノはロイの外套を標準装備として、法衣に若干ゴスロリ調の装飾が施された装備だった。
それでロイ一行の問題が1つ、『資金不足』だ。計算上、全員合わせて5000G程度……宿代が食事込みで1600G、武器は手入れ不要の聖剣シリーズと隕石シリーズなのでその分は浮くが、防具はソフィアを除いて全員C~Dの防具なので割りと修理費が必要だ。
「なぁ、エイデンって人、お金の支援はしてくれないのか?」
「あのねぇ~、組織も資金が潤沢と言う訳じゃないのよ?貴族=金持ちとか思わないでちょうだい。まぁ……道楽でかなりお金を使ったエイデン"さん"も悪いのだけれど……」
「さん付けで呼んでるのか?」
仮にも組織の長であり貴族であるエイデンを「さん」で呼ぶのはあまりにも常識外れだったためロイは疑問を口にせざる得ない。
「貴族制撤廃を掲げてるのにそれに縛られるのを嫌がったのよ。だからあなた達も会ったら『さん』付けで呼んであげなさい」
変な貴族だなぁ~とロイが思っていると急に馬車が止まった。御者の隣で警戒をしていたマナブは前方を指差してロイに指示を求めた。
「ボス、進路上に壊れた馬車があるんですが、どうします?」
片方の車輪が壊れているのか馬車は傾いており、御者らしき人と冒険者と思われる人が腕を組んで往生していた。困った時はお互い様という事でロイとソフィアが降りて話しを聞くことにした。
「あんたらどうかしたのか?」
「ああ、これ見てくれよ。ここが壊れちまってよ~」
ロイが損傷箇所を見ようと近付いた瞬間、ソフィアが御者の胸へ槍を突き立てた。
「ロイ、下がりなさい!罠よ!」
見ると冒険者の男はしゃがんだロイの首を落とさんと、剣を振り上げ凶悪な顔で勝利を確信していた。
ユキノが馬車の中から叫び、マナブは土魔術の魔方陣を展開、サリナは読書中、ソフィアは───ジト目をしていた。
"シャドープリズン"
男は剣を振り上げた態勢のまま地面から出現した無数の黒い帯に縛られている。強化値の向上により本来は数年修行が必要な技もロイの年齢で使えるようになっていた。
「ロイ、気付いていたの?」
「いや、コイツが恐ろしく遅かっただけだ。正確には剣に手を掛けた段階で殺気が溢れたからな、これは何かしてくると思ったよ」
「フゴォッ!フグッフゴォ!」
男は口まで縛られているので上手く声が出せない。
「ロイ、剣を見て。『黒兜の紋章』よ」
黒兜の紋章、黒騎士カイロ直轄部隊の証で影の村とは違い、暗殺ではなく真正面から国の邪魔者に威厳を示すための掃除屋集団。
「喋らなくていい、合っていたら頷け、違ったら首を振れ」
「フグォ!!フゴォッ!」
ドゴォッ!
ロイは鳩尾に強打を加える。口が塞がれているから息がし辛い、そこに打撃が加わると言う効果的な尋問を行った。大体5発程で大人しくなり、男から情報を聞き出した。
カイロはロイがまだ王都にいると予想しており、この罠は念のため敷いていたという。検問ではなく善意を利用した罠であるだけに、奴の性格が滲み出ていた。
そして、ロイが自身の笑顔の為に復讐を諦めた事を知ったユキノは扉の影で座り込む。
頬が熱く、頭の中が真っ白になり、気持ちの奔流に押し潰されそうになる。
それまで気にしなかった添い寝が途端に恥ずかしくなり頭を抱えるユキノ。
「うぅ……どうしよう。なんか、頭の中で色んなロイさんが溢れてくるよぉ~」
ハルトに告白された時を遥かに凌駕する感情がどういう感情かわからないユキノはただ戸惑った。
「じゃ、そろそろ戻るか」
ロイの言葉にハッと我に返ったユキノは急いでその場を離れた。
☆☆☆
昼間にユキノが買い物に行ってるのを目撃したロイは、寝る時についてユキノと話しをしてみた。
「昼間、外套無しで出掛けてたよな?」
「そうですけど、私、やらかしましたか?」
「いや、ハルトの事、踏ん切りついたんだなって思ってな」
「そうですね。あまり人の目が気にならなくなったかもしれません」
「そっか。じゃあ、今日から部屋は別々で良いな?」
……え?
ユキノはその言葉に愕然とし、口が震えた。
「───嫌」
「……そう言われてもな」
「べ、別に今まで不都合が無かったならこのままで良いじゃないですか」
ロイの袖を握り、涙目で懇願するその様子に折れてしまい、結局ロイの悶々とした夜は続く事になってしまった。
☆☆☆
エイデン・イグニア……貴族制撤廃を掲げる帝国貴族。そして組織のリーダーも兼任している彼はロイの亡命を支援してくれた。
現在、ロイの一行が乗っている馬車もエイデンからの支援でもらったものだ。
馬車に乗り、王都レグゼリアが小さくなるにつれてパーティの面々はそれぞれ感慨に耽っていた。
「サリナ」
「気安く呼ばないで」
「サリナ、お前どのくらい手持ちある?」
「……はぁ。昨日、防具新調したから残り100Gくらい」
そのやり取りにやれやれとジェスチャーをするソフィアとマナブ。
サリナの前の装備はお洒落と実用性を兼ねた装備だったが、それはハルトの好みに合わせた結果なのだろう。
現在は動きが阻害されない程度に革装備で固め、布の長袖にレザーパンツを着ている。
マナブは魔術師らしいローブ、ソフィアは変わらず白のお嬢様スタイル、ユキノはロイの外套を標準装備として、法衣に若干ゴスロリ調の装飾が施された装備だった。
それでロイ一行の問題が1つ、『資金不足』だ。計算上、全員合わせて5000G程度……宿代が食事込みで1600G、武器は手入れ不要の聖剣シリーズと隕石シリーズなのでその分は浮くが、防具はソフィアを除いて全員C~Dの防具なので割りと修理費が必要だ。
「なぁ、エイデンって人、お金の支援はしてくれないのか?」
「あのねぇ~、組織も資金が潤沢と言う訳じゃないのよ?貴族=金持ちとか思わないでちょうだい。まぁ……道楽でかなりお金を使ったエイデン"さん"も悪いのだけれど……」
「さん付けで呼んでるのか?」
仮にも組織の長であり貴族であるエイデンを「さん」で呼ぶのはあまりにも常識外れだったためロイは疑問を口にせざる得ない。
「貴族制撤廃を掲げてるのにそれに縛られるのを嫌がったのよ。だからあなた達も会ったら『さん』付けで呼んであげなさい」
変な貴族だなぁ~とロイが思っていると急に馬車が止まった。御者の隣で警戒をしていたマナブは前方を指差してロイに指示を求めた。
「ボス、進路上に壊れた馬車があるんですが、どうします?」
片方の車輪が壊れているのか馬車は傾いており、御者らしき人と冒険者と思われる人が腕を組んで往生していた。困った時はお互い様という事でロイとソフィアが降りて話しを聞くことにした。
「あんたらどうかしたのか?」
「ああ、これ見てくれよ。ここが壊れちまってよ~」
ロイが損傷箇所を見ようと近付いた瞬間、ソフィアが御者の胸へ槍を突き立てた。
「ロイ、下がりなさい!罠よ!」
見ると冒険者の男はしゃがんだロイの首を落とさんと、剣を振り上げ凶悪な顔で勝利を確信していた。
ユキノが馬車の中から叫び、マナブは土魔術の魔方陣を展開、サリナは読書中、ソフィアは───ジト目をしていた。
"シャドープリズン"
男は剣を振り上げた態勢のまま地面から出現した無数の黒い帯に縛られている。強化値の向上により本来は数年修行が必要な技もロイの年齢で使えるようになっていた。
「ロイ、気付いていたの?」
「いや、コイツが恐ろしく遅かっただけだ。正確には剣に手を掛けた段階で殺気が溢れたからな、これは何かしてくると思ったよ」
「フゴォッ!フグッフゴォ!」
男は口まで縛られているので上手く声が出せない。
「ロイ、剣を見て。『黒兜の紋章』よ」
黒兜の紋章、黒騎士カイロ直轄部隊の証で影の村とは違い、暗殺ではなく真正面から国の邪魔者に威厳を示すための掃除屋集団。
「喋らなくていい、合っていたら頷け、違ったら首を振れ」
「フグォ!!フゴォッ!」
ドゴォッ!
ロイは鳩尾に強打を加える。口が塞がれているから息がし辛い、そこに打撃が加わると言う効果的な尋問を行った。大体5発程で大人しくなり、男から情報を聞き出した。
カイロはロイがまだ王都にいると予想しており、この罠は念のため敷いていたという。検問ではなく善意を利用した罠であるだけに、奴の性格が滲み出ていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる