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帝国への亡命

第31話 思わぬ依頼

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 御者のパルコを休ませるためにロイ一行はラカン村に辿り着いた。

「どうやら、ここに手配書は無いようだな」

「雑な手配書に検問も無し、追手は黒兜の部隊だけ……噂通り、黒騎士カイロは真面目に仕事しない人のようね」

「ああ、取り敢えずは宿に行くか」

 宿で部屋を取る。そして大きな出費にロイは頭を抱える。

 ロイとユキノ、ソフィアとサリナ、パルコとマナブで3部屋……ここでせめて後3日分は稼いでおかないとマズイ状況だ。

「ロイさん、どこに行くんですか?」

 ロイが荷物を部屋に置くとユキノが話し掛けてきた。ちなみに、全ての荷物をユキノのアイテムボックスに預けるのは危険なためロイのパーティでは、自分の物は自分で持つルールとなっている。

「明日クエストを受けようと思ってな。それの下見だ。後は……パルコに奢る約束もあるしな」

 ギュッ

 ユキノがロイの袖を握って上目遣いで見てきた。

「私も、行きます!その、なんと言いますか……ダメ?」

「酒を飲むんだぞ?お前の世界ではまだ未成年だろ?」

「うぅ~」

 |ロイの世界エスクートでは18歳で成人、だがユキノの世界は20歳で成人、自身のためを思っての発言に唸る事しか出来ないユキノ。

「……はぁ。わかった、俺に考えがあるから着いてこい」

 こうしてロイとユキノはギルドに向かった。

 クエストボードを眺めるが、どれもこれもゴブリンゴブリンゴブリン……大した報酬もないクエストばかりだった。

「ロイさん……ゴブリンなら2人1組で当たればそれなりに───」

「いや、確かに分散して当たれば明日1日でかなりの額を稼げるだろうが、万が一を考えてクエストは全員で受けた方がいい」

 全員の能力を把握しきれていないこの状況で分散して当たるのは危険だ。特にソフィアとサリナの能力を理解してないからだ。

 ロイは基本的に不測の事態を物凄く嫌がる、それは暗殺故の特性でもあった。

「てかユキノ、それってパルコも人数に入れてないか?何気に酷いこと考えるな……」

「ええ!?いや、あの!仲間外れは嫌だと言いますか……私でも杖でえいっ!て倒せるので大丈夫って思ってました。うぅ、ごめんなさい」

「ハハ、タイマンで子供でも倒せるから大丈夫だろうがな。ただ、ゴブリンを甘く見るなよ?油断すればBランクの冒険者でも殺されるからな」

「わ、わかりました。この事は、パルコさんには──」

「アイツなら別に気にしないと思うけどな。わかったよ黙っておく」

 ユキノと雑談しながらボードを眺めていると年配の職員が話し掛けてきた。

「アンタら、こんな閑散とした村だから良いクエスト無いだろ?そんなアンタらに朗報だ。じゃじゃーん!」

 そう言って女が手に持ったクエストはハイゴブリンの討伐依頼だった。"緊急クエスト"と言うやつで通常よりも高く報酬が設定されるクエストだ。

 だがその反面、書かれてる内容をきちんと精査しなければ痛い目を見ることになる。

「何々……肌の色は黒、冒険者ランクDの防具に武器、頭部から胸にかけて傷のあるハイゴブリン。魔方陣を用いた初級魔術を使う上に人語を解する……おい、これ──」

「はい、もしかするとあの時のハイゴブリンかもしれません」

 少し前、ロイとユキノが冒険者ランクEに上がる為に、ゴブリン狩りを行った時に逃がしたハイゴブリンの可能性が高い。

 特に頭部から胸にかけての傷はロイの"シャドーエッジ"による傷だからだ。

「俺達、それを受けようと思う。居場所を教えてくれ!」

「緊急だけど、そこまで急がなくていいさ。この村から少し北上したところにラカン寺院があって明日の朝、そこで迎え撃つ事になってるからね。幸い、冒険者が王都から派遣されるからソイツらと共闘しておくれ」

「わかった。俺の仲間にも伝えておく」

「助かるよ、しっかり儲けてきな!」



 ロイとユキノはギルドを出たあと、宿でパルコを誘って酒場でテーブルに着いた。

「ロイの旦那、その依頼受けたんすか?」

「ああ、もしかすると俺達のせいかもしれないからな」

「律儀っすねぇ~、もしかしたら違うかもしれないじゃないですか」

「付き合わせるようで悪いな」

「いやいや、気にしないでくだせえ。ところで、なんでロイの旦那はミルクを?もう18と聞いていたが……」

「ああ、俺は下戸なんだ。気にするな」

「え、そうかい?にしてもユキノちゃんもミルク……あ~なるほど、これ以上は突っ込まない方が良さそうだ」

 パルコはロイの意図に気付いてそれを肴にグビグビとビールをあおる。

 ユキノはロイと乾杯をして少し大人になった気分でミルクを一緒に飲む。他の常連客もその光景を肴に微笑ましく眺めながら酒を呷るのだった。
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