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リーベ台頭 編

第149話 聖王国グランツ

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 天から下りる光のカーテン、その名はアークバスティオン。

 その光のカーテンの前でテスティードを停車させた。越境が許されていない今の段階で突っ込めば、ミスリル合金で作られたテスティードであっても大破するのは目に見えていたからだ。

 全員降車し、両手を広げて光のカーテンに近いところまで歩いていく。すると、国橋の向こう側から2人の騎士がこちらに向かってきた。

「止まれ! お前達、何用でここに来た?」

「俺達は帝国からの親書を届けに来たんだ。聖女様にお目通り願いたい」

「ふむ、では親書とやらを拝見させてもらおう」

「いや、中身を見せるわけにはいかない。もしこの機密が漏れたらアンタは責任取れるのか?」

「……わかった。では封蝋だけで構わない」

 帝国王ヴォルガ・インペリウムが押印した封蝋を見せると、騎士は「少し待っててくれ、上に掛け合ってくる」そう言って関所の方へ戻っていった。

 俺は面倒なのが好きじゃない。最初から1発で通してくれる人間が来てほしいものだ。

 少しすると、先ほどの騎士より少し上等な鎧を身に纏った騎士がこちらに向かってきた。

「ふむ、お前達が帝国から遣わされたという集団か。ここは北門だ、お前達が通ってきたという道は帝国からなら、山道を通り、魔族領域最端を通過してここに来ていることになる。女子供ばかりの集団がそんな危険な道を突破してここに来ることが出来るのか、はなはだ疑問に思うばかりだ」

 どうやら俺達は警戒されているらしい。冒険者学校を卒業すると丁度18歳くらいになる。そんなデビューしたてのルーキーが随分と危ない橋を渡って来ている、か……俺もコイツの立場ならそう考えるだろうな。

 ロイは不敵な笑みを浮かべて一歩前に出た。

「なんなら、アンタが相手してくれても良いんだぞ? 斬って証明できるなら、これほど簡単なことはないからな」

 上官らしき騎士は歯噛みしたあと、手の平サイズの魔方陣を見せてきた。見たところ戦闘用ではなく、小さな仕掛けを動かしたりするタイプの魔方陣だった。

「良いだろう、お前達の通行を許可する。ただ、検疫は受けてもらうがな」

 その言葉と同時に光のカーテンの1部が開いた。どうやら、先ほどの魔方陣は通行を許可するためのものだったようだ。

 光のカーテンの中をテスティードと共に通過し、馬車の停留所にテスティードを置いたあと、御者のパルコも含めて関所に入った。

「これからここでお前達には検疫を受けてもらう」

「さっきもそんなこと言っていたが、この辺りで流行り病なんて聞いてないぞ?」

「ふん、帝国人は呑気なもんだな。お前達は魔族領域を通過してきたんだろ? ならあれを見たはずだ」

「あれっていうと、クリミナルのことか?」

「ああ、クリミナルだ。最近魔族領域で見かけ始めてな、あの領域の生物を片っ端から取り込んで汚染している。最初は小動物や弱い魔物を汚染していたんだが、ついこの間、とうとう小さな子供までやられたんだ」

 汚染だと? そんな話し、聞いたこともない。それに発見件数もこの近辺で増えてるのか? だったら、伝承保管機関に報告して直ちに調査してもらうのがセオリーだろ。

 ロイの表情を見て考えを悟った上官の騎士は、少し暗い表情になって言った。

「なぜ伝承保管機関に連絡しないか、そんな顔をしているな。私だってそれが正しくないことだってわかってはいる、だがな! ここはフォルトゥナ教の総本山、世界の精神的支柱、それが未知の生物によって脅かされてると知ったらどうなるか、わかるだろ!?」

「わかってる。信者は終末論を唱え始め、グランツの求心力は失墜し、各地で暴動が起きるかもしれないな。そうなれば、虎視眈々と狙うお隣さんレグゼリア王国がここぞとばかりに攻めてくる。だけど、伝承保管機関だってこの国を亡ぼすつもりなんてないだろ、彼らの最大の目的は人類の伝承を守り保管すること、伝承の宝庫である聖王国グランツに不利益をもたらさないように配慮するはずだ」

 ロイの言葉に叩きのめされた上官の騎士は押し黙った。他にも部外者には言えない理由があるのかもしれない、それを話してくれなければどうしようもない。

 その後、ロイ達は簡易的に検疫を受けたあと、王宮から迎えを待つために関所で待機することとなった。

Tips

伝承保管機関・組織

古の大戦後に発足された世界機関。影響力が非常に強く、魔術、スキル、遺跡、あらゆる伝承を記録して後の人類に活かす役割を持っている。組織メンバーの下っ端であっても、ポーン貴族以上の権力を有しており、有事の際は全力で伝承の保管活動に従事している。
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