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リーベ台頭 編
第167話 ロイの動揺
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アンジュが聖女フィリアを連れてきた。
話を聞くと、怪しい人影に後をつけられて困っているのだとか。
女性には女性を、そう思ったのだが……今日はアンジュしか近くにおらず、そのアンジュもこれから用事があると言っていた。
仕方がない、そう思ったロイはフィリアを練兵所へと案内した。
フィリアの出で立ちを見ると、治癒術師の最高位らしい白いローブを着ている。
ユキノが着ているローブは、より動きやすいように改造が施されているから本場のローブは久し振りに見た気がする。
さて、練兵所で何を見せたものか……そうだ、イザベラに聞いた懸念を木人で再現してみるか。
駐在の魔道騎士に防衛魔術を頼み、より多角的に剣を斬り込んでいく。
物理障壁に剣を当てた時の感覚は、石壁に鉄の剣を当てたそれに近い。
だけど実際に斬っているのは、魔力で構成された半透明の壁。
何度それを斬り付けようとも、障壁はビクともしない。
ロイは後退し、次に神剣を射出した。
魔力で引き絞って放つから、直接斬るより遥かに威力が高い。何度か放ってようやく障壁が綻び始めた。
ふぅ、後は【影衣焔】を叩き込むか。
陽炎の如き黒いコートを身に纏い、強化されたスピードとパワーで障壁に斬りかかる。
剣が障壁に触れた途端、バリンッ!! と音を立てて障壁は割れた。間髪入れずに木人を真っ二つにすると、障壁を展開していた術者の何人かが膝をついていた。
軽く労ってフィリアの元へ戻ると、キラキラした眼差しをこちらに向けてきた。
「あれがこの国に起こり得る未来だ」
「えっ?」
フィリアは面食らったような顔をしている。
ふむ、伝わらなかったか。まぁ、口にしなければ分からないよな。
「木人はこの国、障壁をアークバスティオン、それぞれ準えて見せたんだ」
ようやく理解したフィリアは、木人を一瞥してから疑問を口にした。
「アークバスティオンは世界最高の守りを誇っています、破られるとは思えませんが……」
「新たな執政官イザベラ・ベルモンドに聞いた。魔を受け入れ過ぎたアンタは、アークバスティオンに充分な魔力を送れてないらしいじゃないか。そうなれば強度も低下し、それまで通らなかった攻撃も通るかもしれないだろ」
聖女フィリアは押し黙った。何故か涙を目尻に溜めていて、まるで俺が弱い者イジメをしているような光景になっている。
「……その、非難したつもりじゃないんだ。結界が危ないから何かあっても動けるようにしといてって、そう言いたかったんだ」
「……っ……うぅ、でも、でも! 上級魔術100発分は防げるはずです!」
「いや、その……テネブルという剣が敵に渡ってしまってな、あれは表向き魂と死体を吸収する剣だが……本来は魔力を吸い取る剣なんだ。わかるだろ?」
魔術の発動には色々と種類が存在する。地水火風のように、実際にあるものを具現化させる魔術もあれば、アークバスティオンのように魔力だけで物理的な守りを再現する魔術がある。
後者は魔力のみで構成されているため、例外を除いたら弱点となる属性が存在しないと言うことになる。
「その例外が【吸魂剣テネブル】かもしれないんだ」
フィリアに詳しく説明すると、顔はいつもの公務用の表情へと戻った。
「では、国境に騎士達を派遣して守りを強化せねばなりませんね」
「大丈夫だ、すでにイザベラへ打診して守りは厚くなっている。斥候として派遣したリーベスタの報告によれば、兵糧を国境に集めてはいるが目立った動きは特に無いと言っていた」
「ふぅ、安心しました。ロイ様は仕事が早いですね」
「盗賊を取り逃がしたのは俺の責任でもあるからな、出来る限りのことはするつもりだ」
聖女フィリアはホッと胸を撫で下ろしたあと、何か思い付いたのか顔を上げて言った。
「最近、この辺りの空気が暑くなってきましたね」
「そうだな、日中は汗をかくことも多くなった」
「先ほどの話を聞く限り、今すぐにどうこうという話でないのなら、気分転換も兼ねて【フォルトゥナの水殿】に行ってみてはどうでしょうか?」
「フォルトゥナの水殿……確か水練用の装備、水着というやつを着て沐浴を行う……そんな感じだったか?」
「ふふ、言い方が仰々しいですよ。なんだかんだで信徒の皆様は気楽に泳いだりしています。堅苦しいやつではないので、是非とも来て下さい」
「悪いが、俺はフォルトゥナ教を信仰してるわけじゃないんだが」
「私の権限において先行解放しますので、信仰とは別に楽しんでもらえればと思います」
「わかった。じゃあ、明日みんなを連れて中央区に行けばいいか?」
「はい、入口でお待ちしておりますね」
フィリアは嬉しそうにして踵を返す。
「フィリア! 怪しい人影に尾行されてたんだろ? イザベラが迎えに来るまでゆっくりしていったらどうだ?」
「……あ! そ、そうでしたね!」
忘れてた、みたいな顔してたな。ホントに追われてたのか?
ロイは疑問に思いつつも、フィリアと練兵所で穏やかな時を過ごした。
話を聞くと、怪しい人影に後をつけられて困っているのだとか。
女性には女性を、そう思ったのだが……今日はアンジュしか近くにおらず、そのアンジュもこれから用事があると言っていた。
仕方がない、そう思ったロイはフィリアを練兵所へと案内した。
フィリアの出で立ちを見ると、治癒術師の最高位らしい白いローブを着ている。
ユキノが着ているローブは、より動きやすいように改造が施されているから本場のローブは久し振りに見た気がする。
さて、練兵所で何を見せたものか……そうだ、イザベラに聞いた懸念を木人で再現してみるか。
駐在の魔道騎士に防衛魔術を頼み、より多角的に剣を斬り込んでいく。
物理障壁に剣を当てた時の感覚は、石壁に鉄の剣を当てたそれに近い。
だけど実際に斬っているのは、魔力で構成された半透明の壁。
何度それを斬り付けようとも、障壁はビクともしない。
ロイは後退し、次に神剣を射出した。
魔力で引き絞って放つから、直接斬るより遥かに威力が高い。何度か放ってようやく障壁が綻び始めた。
ふぅ、後は【影衣焔】を叩き込むか。
陽炎の如き黒いコートを身に纏い、強化されたスピードとパワーで障壁に斬りかかる。
剣が障壁に触れた途端、バリンッ!! と音を立てて障壁は割れた。間髪入れずに木人を真っ二つにすると、障壁を展開していた術者の何人かが膝をついていた。
軽く労ってフィリアの元へ戻ると、キラキラした眼差しをこちらに向けてきた。
「あれがこの国に起こり得る未来だ」
「えっ?」
フィリアは面食らったような顔をしている。
ふむ、伝わらなかったか。まぁ、口にしなければ分からないよな。
「木人はこの国、障壁をアークバスティオン、それぞれ準えて見せたんだ」
ようやく理解したフィリアは、木人を一瞥してから疑問を口にした。
「アークバスティオンは世界最高の守りを誇っています、破られるとは思えませんが……」
「新たな執政官イザベラ・ベルモンドに聞いた。魔を受け入れ過ぎたアンタは、アークバスティオンに充分な魔力を送れてないらしいじゃないか。そうなれば強度も低下し、それまで通らなかった攻撃も通るかもしれないだろ」
聖女フィリアは押し黙った。何故か涙を目尻に溜めていて、まるで俺が弱い者イジメをしているような光景になっている。
「……その、非難したつもりじゃないんだ。結界が危ないから何かあっても動けるようにしといてって、そう言いたかったんだ」
「……っ……うぅ、でも、でも! 上級魔術100発分は防げるはずです!」
「いや、その……テネブルという剣が敵に渡ってしまってな、あれは表向き魂と死体を吸収する剣だが……本来は魔力を吸い取る剣なんだ。わかるだろ?」
魔術の発動には色々と種類が存在する。地水火風のように、実際にあるものを具現化させる魔術もあれば、アークバスティオンのように魔力だけで物理的な守りを再現する魔術がある。
後者は魔力のみで構成されているため、例外を除いたら弱点となる属性が存在しないと言うことになる。
「その例外が【吸魂剣テネブル】かもしれないんだ」
フィリアに詳しく説明すると、顔はいつもの公務用の表情へと戻った。
「では、国境に騎士達を派遣して守りを強化せねばなりませんね」
「大丈夫だ、すでにイザベラへ打診して守りは厚くなっている。斥候として派遣したリーベスタの報告によれば、兵糧を国境に集めてはいるが目立った動きは特に無いと言っていた」
「ふぅ、安心しました。ロイ様は仕事が早いですね」
「盗賊を取り逃がしたのは俺の責任でもあるからな、出来る限りのことはするつもりだ」
聖女フィリアはホッと胸を撫で下ろしたあと、何か思い付いたのか顔を上げて言った。
「最近、この辺りの空気が暑くなってきましたね」
「そうだな、日中は汗をかくことも多くなった」
「先ほどの話を聞く限り、今すぐにどうこうという話でないのなら、気分転換も兼ねて【フォルトゥナの水殿】に行ってみてはどうでしょうか?」
「フォルトゥナの水殿……確か水練用の装備、水着というやつを着て沐浴を行う……そんな感じだったか?」
「ふふ、言い方が仰々しいですよ。なんだかんだで信徒の皆様は気楽に泳いだりしています。堅苦しいやつではないので、是非とも来て下さい」
「悪いが、俺はフォルトゥナ教を信仰してるわけじゃないんだが」
「私の権限において先行解放しますので、信仰とは別に楽しんでもらえればと思います」
「わかった。じゃあ、明日みんなを連れて中央区に行けばいいか?」
「はい、入口でお待ちしておりますね」
フィリアは嬉しそうにして踵を返す。
「フィリア! 怪しい人影に尾行されてたんだろ? イザベラが迎えに来るまでゆっくりしていったらどうだ?」
「……あ! そ、そうでしたね!」
忘れてた、みたいな顔してたな。ホントに追われてたのか?
ロイは疑問に思いつつも、フィリアと練兵所で穏やかな時を過ごした。
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