208 / 225
ハルモニア解放編
第209話 商人の話し
しおりを挟む
ユキノ達女性陣はハルオーネ村の装備屋に入っていった。
魔術裁縫の普及しているこの世界において、装備屋といえば硬い鎧とかアクセサリーというよりは、布で構成された戦闘用の服が主となっている。
ユキノ達の話によれば、田舎の装備屋は可愛いデザインが少なくて正直困ってるのだという。それに加え裁縫師の腕も悪く、装備に付与する効果が一つしか付与できないこともある。
ただ、ロイは今回ユキノ達と行動を共にすることはなかった。というのも、ユキノ達の言葉尻から考えるに下着も一緒に購入する可能性が高いからだ。男にとってあの時間はあまりにも地獄過ぎる。感想を聞かれても、ユキノ達ならよほどの色物でない限りはなんでも似合うだろうし、こういう店は決まって女が店員の可能性が高い。
あの気まずい視線に晒されるよりかは、手分けして買い物をした方が効率の面でも優れているはずだ。
ロイは踵を返して食材屋に向かおうとしたが、村の入り口でキャラバンが停留しているのが見えた。
俺達の時と同様、槍を突き付けられて詰問されている。だけど少し会話をしたあとすぐに通された。護衛らしき取り巻きが冒険者ではなくて”傭兵”だったから、俺達に比べてすんなり通ることが出来たのかもしれない。
冒険者への異常な敵対心……何故そんなことになっているのかどうしても気になったロイは、キャラバンの商人に話を聞くことにした。
商人が食材屋に入るのを確認した後、ロイも少し遅れて中に入る。
「なぁ、少しいいか?」
「ん? なんだね?」
「この村ってさ、冒険者に対して警戒心強いよな。昔なにかあったのか?」
そう言ってロイは商人の手にいくらかの金貨を握らせた。商人という相手に対して無償で何かを聞き出そうとすれば嫌な顔をされる。ましてや、この村の警戒心に対して嫌な顔せずに入っていけるほどの商人となれば、恐らくやり手であることは間違いないだろうから。
商人に対しては、このやり方が一番効果があるんだ。
ロイの心付けに気を良くしたのか、商人は髭を撫でながら答えた。
「この村の過去か……うちらも所詮は余所者だから、噂程度のことしか知らないけどいいかね?」
「ああ、それで構わない」
「二十年ほど前だったか、まだ帝国とレグゼリア王国の国交が盛んだったころ……村にとある冒険者が訪れたそうなんだが、その冒険者が村にいたアリシアという女性に惚れこんでしまってね。結婚間近だったアリシアを無理やり奪って王国に帰っていったそうなんだ」
「……そんな横暴が出来るってことは、その冒険者は王国貴族だったわけか?」
ロイの質問に商人は静かに頷いた。村娘に惚れこんだ貴族が権力で強奪していく、なんて話はよく聞く。独身であれば王子様に見初められたっていう玉の輿のような話になるが、婚約をしていたのなら村人全員から恨まれたことだろう。
「アリシアが帝国の馬車に乗り込む寸前、婚約者であった少年は貴族に斬りかかったそうだが……逆に返り討ちになってしまい、逆上した貴族の召使によって村全体に呪いをかけられたそうな」
「呪い?」
「どんな呪いかはわからんよ。彼らはその一件から頑なに口を閉ざしているからね。この村を訪れるたびに力になりたいと申し出てはみたけど、全然話しを聞いてはくれなかったよ。君も私と同じ口かい?」
「いや、ただの興味本位で聞いてみただけなんだ。今の俺達にはそこまで余裕もないからな」
「そうか……ただ、この辺りの魔物のランクが低いのには訳があるはずだ。何事もなく通り過ぎたいのなら、彼らの言う通り夕刻までにここを発つことだね」
「ああ、そうさせてもらうとするよ」
ロイと商人の交渉は終わり、必要な食糧を買い足したあとロイはテスティードでユキノ達が帰ってくるのを待つことにした。
Tips
ロイの外套
剣と盾の刺繍が施されたロイの黒い外套。リーベの証でもあり、魔術裁縫によりセットされた効果は"速度向上"と"隠密性向上"だった。
(人によりビルドは異なる)
魔術裁縫の普及しているこの世界において、装備屋といえば硬い鎧とかアクセサリーというよりは、布で構成された戦闘用の服が主となっている。
ユキノ達の話によれば、田舎の装備屋は可愛いデザインが少なくて正直困ってるのだという。それに加え裁縫師の腕も悪く、装備に付与する効果が一つしか付与できないこともある。
ただ、ロイは今回ユキノ達と行動を共にすることはなかった。というのも、ユキノ達の言葉尻から考えるに下着も一緒に購入する可能性が高いからだ。男にとってあの時間はあまりにも地獄過ぎる。感想を聞かれても、ユキノ達ならよほどの色物でない限りはなんでも似合うだろうし、こういう店は決まって女が店員の可能性が高い。
あの気まずい視線に晒されるよりかは、手分けして買い物をした方が効率の面でも優れているはずだ。
ロイは踵を返して食材屋に向かおうとしたが、村の入り口でキャラバンが停留しているのが見えた。
俺達の時と同様、槍を突き付けられて詰問されている。だけど少し会話をしたあとすぐに通された。護衛らしき取り巻きが冒険者ではなくて”傭兵”だったから、俺達に比べてすんなり通ることが出来たのかもしれない。
冒険者への異常な敵対心……何故そんなことになっているのかどうしても気になったロイは、キャラバンの商人に話を聞くことにした。
商人が食材屋に入るのを確認した後、ロイも少し遅れて中に入る。
「なぁ、少しいいか?」
「ん? なんだね?」
「この村ってさ、冒険者に対して警戒心強いよな。昔なにかあったのか?」
そう言ってロイは商人の手にいくらかの金貨を握らせた。商人という相手に対して無償で何かを聞き出そうとすれば嫌な顔をされる。ましてや、この村の警戒心に対して嫌な顔せずに入っていけるほどの商人となれば、恐らくやり手であることは間違いないだろうから。
商人に対しては、このやり方が一番効果があるんだ。
ロイの心付けに気を良くしたのか、商人は髭を撫でながら答えた。
「この村の過去か……うちらも所詮は余所者だから、噂程度のことしか知らないけどいいかね?」
「ああ、それで構わない」
「二十年ほど前だったか、まだ帝国とレグゼリア王国の国交が盛んだったころ……村にとある冒険者が訪れたそうなんだが、その冒険者が村にいたアリシアという女性に惚れこんでしまってね。結婚間近だったアリシアを無理やり奪って王国に帰っていったそうなんだ」
「……そんな横暴が出来るってことは、その冒険者は王国貴族だったわけか?」
ロイの質問に商人は静かに頷いた。村娘に惚れこんだ貴族が権力で強奪していく、なんて話はよく聞く。独身であれば王子様に見初められたっていう玉の輿のような話になるが、婚約をしていたのなら村人全員から恨まれたことだろう。
「アリシアが帝国の馬車に乗り込む寸前、婚約者であった少年は貴族に斬りかかったそうだが……逆に返り討ちになってしまい、逆上した貴族の召使によって村全体に呪いをかけられたそうな」
「呪い?」
「どんな呪いかはわからんよ。彼らはその一件から頑なに口を閉ざしているからね。この村を訪れるたびに力になりたいと申し出てはみたけど、全然話しを聞いてはくれなかったよ。君も私と同じ口かい?」
「いや、ただの興味本位で聞いてみただけなんだ。今の俺達にはそこまで余裕もないからな」
「そうか……ただ、この辺りの魔物のランクが低いのには訳があるはずだ。何事もなく通り過ぎたいのなら、彼らの言う通り夕刻までにここを発つことだね」
「ああ、そうさせてもらうとするよ」
ロイと商人の交渉は終わり、必要な食糧を買い足したあとロイはテスティードでユキノ達が帰ってくるのを待つことにした。
Tips
ロイの外套
剣と盾の刺繍が施されたロイの黒い外套。リーベの証でもあり、魔術裁縫によりセットされた効果は"速度向上"と"隠密性向上"だった。
(人によりビルドは異なる)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる