ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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旅立ち~オードゥス出立まで

戦慄を覚える

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バーサークベアは突如として首元にいる存在の増幅した気配に戦慄を覚える。

首元に立つノアは眼を赤黒く染め、赤黒いオーラを身に纏い右手を振り上げていた。


ガヂュンッ!グォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?


首元に突き立った阿羅亀噛の柄を狙って振り下ろす。
剣の中程まで一気に突き進み、大量の出血が噴出する。
激痛でバーサークベアの体勢が崩れた為バランスを崩したノアが地面に下り立つ。

大量の出血により再び『吸血樹』の根が活性化し始めたが、バーサークベアが大木を脚で踏みつけ、力付くで根ごと体から引き剥がす。


ブヂブヂグヂブヂッ!グ、ゴ、ガァアアアアッ!


「…うわぁ…」


自分でやった事だがこれは流石にドン引きする。
対するバーサークベアは引き剥がした大木を爪に刺し、ノアに向けぶん投げた。


これは体勢を低くして潜り抜けるが、足元に影が入る。
咄嗟に後ろに下がるとそこにバーサークベアが落下してくる。
土砂を巻き上げる程の威力の中を進み、ノアは懐に入ると<渾身>を発動して全力で腹をぶん殴る。

ズドン!    グゴァッ!?


「くそっ!やっぱり硬ぇな!」


ダメージは入っている様だがやはり素手では分厚い皮と脂肪に阻まれ痛打には至らない。
その証拠に直ぐ様バーサークベアが爪を振り回し反撃を仕掛ける。

敢えて前に踏み込み腹の下に潜り込み、先程突き立てた鉄製の矢を狙い、拳を打ち込む。


ドチュッ!      グゴァッ!?


バーサークベアは左腕を振りノアに向け裏拳を繰り出す、これをノアは真正面で受け、左腕に刺さった矢も殴って押し込む。

激痛で顔を歪めながらも顔を突き出し、噛み付きに来るバーサークベアの顔を避け、始めに突き刺した右目の刺突武器に拳を振るい更に押し込む。


ドズッ!グギャアオオオオオオオオオオオッ!


聞いた事の無い悲鳴を上げ後退するバーサークベアの首に突き立った鉄製の矢に掴まって頭のの上に登る。

<渾身>を発動して深く突き刺さった阿羅亀噛の柄を踏み、柄の部分まで突き入れる。
バーサークベアは口から大量に血を吐き出す、どうやら内臓に剣先が達したのだろう。


グボォアアアアアアアアッ!


バーサークベアの動きが止まる。

出血量もある為、力尽きたかと一瞬ノアも動きを止めるが嫌な予感を感じ、正面の少し離れた位置に着地する。


バーサークベアは首に深々と刺さった阿羅亀噛に手を掛け、苦悶の声を上げながら爪を引っ掛け引き抜く。
更に大量の血を噴き出していると体に変化が起きる。

徐々に身体中の筋肉が盛り上がり、体が一回り大きくなり、血を噴き出していた傷も盛り上がった筋肉で塞がり出血が止まる。
刺さっていた矢も押されて傷口から次々落下していく。

バーサークベアの目は紅く染まり、それと同じく紅いオーラが立ち昇る。
殺気も更に増大し、ノアを真っ直ぐ睨み付ける。


「嘘だろ…」


遠くで見守る事しか出来ないジェイルが呟く。

ノアも全く同じ事を呟いていた。


ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!


圧力が更に増した咆哮を上げ、地面を蹴る。
あっという間に距離を詰められ先程とは段違いの速度で腕を振るう。
避けきれないノアは迎撃目的で拳を振るう。
僅かに拮抗するも自重がそもそも違い過ぎる為、吹き飛ばされる。

空中で身を翻して着地しようとするも既にノアの元まで接近していたバーサークベアが腕を振り下ろし、地面に叩きつけられる。

ドガンッ!           「うぐぁっ!」

続けて右腕を振り下ろして来るので直ぐに立ち上がり懐に潜り込んで腹に連擊を繰り出す。


ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!バチィッ!


<渾身>を発動した上で繰り出した5連擊を動じる事無く受けきり、右腕を振り払って弾き飛ばす。
何とか防いだが今ので左腕の骨にヒビが入る。

アイテムボックスから回復玉を取り出し口に含み、じわりとではあるが回復が始まる。

「くそっ…!全体的な戦闘力に加えて機動力や耐久性まで上がって更に厄介な事になったぞ…」

対するバーサークベアは紅いオーラを纏ってノアに高速で襲い掛かる。


【熊王邁進(ゆうおうまいしん)】…バーサークベアが生命の危機に瀕した時に発動、生命力と引き替えに一時的に全能力値を上昇させる固有スキル。
裏を返せばこれを発動したという事は討伐まであと僅かである。


ズガァッ!


瞬間的に指先が見えない程の速度で腕の振り下ろしを繰り出す。
これをギリギリ回避し足元に着弾する。
しかし地面の足場ごと捲り上げ、ノアの体を吹き飛ばす。

「くっ…」

空中にいるノアに対して腕を振り落とし勢いそのままに地面に叩きつけられる。

「がふっ!」

勢いそのまま、跳ね上がったノアの体を左腕の薙ぎ払いを繰り出し後方の木まで吹き飛ばす。

ブチッ!                ズドン!バキバキッ!

運悪くバーサークベアの爪が左脇腹に刺さったまま振り抜かれ、肉が抉れる。

「うぐあああっ!うっ!?がふっ!?」

中も少し傷付いたか出血と共に吐血する。

脇腹を押さえつつ接近して来たバーサークベアの攻撃を回避しようとするも激痛が走り対処が遅れる。
突進を受け、木に衝突、1本薙ぎ倒し2本目で止まる。

蹲ったまま動けずにいるノアにゆっくりとした足取りで近付いて行く。


ノアはアイテムボックスから回復玉を2個取り出しぐしゃりと握り潰して無理矢理口に流し込む、口を開けるだけで腹に激痛が走るからだ。


(『おい、流石にヤバイだろ。俺が出るか?』)


「ごふっ…それは、最後の手段だ…ただどちらにしろ…回復手段が無い。
回復玉の回復量じゃ腹の傷が塞がるまで相当掛かる…ハイポーション、自分の分買っときゃ良かったな…」


(『確かにここまでとは流石に予想していなかったしな…』)


「俺1人だけならまだしも周りにはまだ皆がいる…げふっ…俺が死んだら間違い無くその矛先は皆に向かう。
それは、それだけは絶対にあってはならない!」


(『自分の事より周りの心配か…』)


「何だ急に…こちとらさっきからこの状況をどうするか策を練ってんだ…」


(『策なら無い訳じゃないぞ?ただ…』)


「寄越せ!何か頭の中に流れ込んで来たぞ?
反動?今のこの状態解除したって同じじゃねぇか!」


(『解除して別のを発動するんだぞ?倍の負担が掛かるんだぜ?』)


「そんな事でこの状況を打破出来るなら安いもんだ…」


(『…了解した。俺としても『俺』に死なれても困るしな。』)


「ありがとう。」



ノアの元まで辿り着いたバーサークベアは右腕を振りかぶる。
するとノアの体に変化が起きる、先程から立ち昇っていた赤黒いオーラが消え、直ぐ様蒼いオーラが発生する。

気配は先程より減少したが厄介な敵である事には変わり無い。
止めを刺す為一気に振り下ろす。

途轍もない威力で振るわれ、地面は大きく陥没し、近くの木を巻き込んで爆砕する。
ただバーサークベアの表情は優れない。


バーサークベアの目線の先には蒼いオーラを身に纏い、阿羅亀噛を手に持つノアがしゃがみ込んでいた。

剣を支えにゆっくりと立ち上がる。その間蒼い2つの眼でバーサークベアを睨み続ける。

先程の脇腹の傷を見ると淡く光り、回復効果を受けている様だ。

(『おう『俺』、早くしないと【一鬼呵成】が切れちまうぜ?』)


「分かってる。反撃開始だ。」
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