ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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アルバラスト編

街を出て2時間程

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街を出て2時間程、他の冒険者と会う事もモンスターと出会す事も無く、どこからか聞こえてくる牛の鳴き声を聞きながら黙々と道を歩き続けていた。


(『なーんも無いな!』)

「良いじゃないの、何も無くて。
寧ろ最近色々あり過ぎたんだよ、道歩いてる時位のんびりしたいよ。」

(『それにしたってよ…周りにあるのは青い空、白い雲、どこからともなく聞こえてくる牛の鳴き声、動物と戯れる子ど…お?』)
 
「戯れてないぞ、追われてる!」


道を外れた雑木林の手前辺りでウルフ2頭に追われている12才位の子供が、接近を拒むかの様に手に持った籠を振り回していた。

対するウルフは籠が煩わしいのか子供が持つ籠に齧り付き、頭を振って引き剥がしに掛かる。

急激に揺さぶられた子供は地面に倒れ伏し、立とうにも立てない状態の様だ。

子供が「やだ!いや!」等の大声を出すがウルフは怯む様子を見せず、じわりじわりと近付く。

子供まであと一歩という所で

チュドッ!    ギャウッ!?

突如として高速で矢が飛来、襲い掛かろうとしたウルフの首を貫き地面に縫い付ける。

もう1頭のウルフは何が起こったのか分からないと言った感じで辺りを見回している。

チュドン!    ギッ!?

ウルフのこめかみに矢が突き立ち、そのまま絶命した。

子供も何が起こったのか分からず座り込んでいると


「大丈夫かい?」


ノアが子供に声を掛ける。

(髪が短かったから気付かなかったけど女の子だったか。)


「う、うん。大丈夫、です。今のはあなたが?」

「ええ、君がウルフに追われてるのが見えたのでね、君はどうしてここに?」

「私は近くの村に住んでるのですがここの雑木林に野草を取りに来たんです。
そしたら徘徊していたウルフに見付かってしまって…」

「なるほどね…取り敢えず移動しよう。立てますか?」

「ご、ごめんなさい、腰が抜けて…」


ノアは背中の弓をアイテムボックスに仕舞ってその少女を背負う。


「す、すいません…村はあそこに家が数軒見える所です。」

「りょーかい。それにしてもいつも1人で野草を?危なくないですか?」

「前はこんな頻繁に遭遇する事も無くって…でも最近は餌を求めて徘徊してるって感じで…あ!?ウルフがまた…こっちに来ますよ!」


ノアと少女の視線の先からウルフ3頭が接近してくるのを確認。
少女は背中であたふたしているがノアは気にせず歩を進める。

ノアは<殺気放出>を強目に発動、ウルフらはノア達の手前で急停止し、踵を返して逃走する。


「…何か今ぞわっと来ましたけど…あなたが?」

「ちょっと殺気をね…おや、村の前で人が集まってますね。」

「あ!お父さんとお母さんだ!」


恐らくウルフが彷徨いていたのを心配して出て来たのだろう、不安そうな顔をしている為ノアは少し足早に村へと近付く。


「ミミ!大丈夫か!?」

「ウルフが彷徨いていたのが見えて心配で…」

「大丈夫だよ、腰が抜けちゃっただけだから。」


ノアは少女を下ろし、アイテムボックスから仕留めたウルフを地面に置くと軽く会釈をしてその場から離れようとする。


「待ってくれ!娘を助けたお礼がしたい、少しの間で良い、村にいて貰って良いだろうか?」


少女の父親からの厚意を無下にする訳にもいかないので休憩がてら留まる事にする。


「特に予定は無いので大丈夫です。
付かぬ事を伺いますがウルフは最近頻繁に現れるのですか?」

「ええ、ここ最近は見掛けない日はありません。
前はあの雑木林の向こうにある山を越えた先に生息してたんですが最近人里に下りてきたみたいで…」

「そうですか…後で確認してみるか…」


ノア達が話していると村の家々から住人が出て来て辺りが騒がしくなる。


「取り敢えず私の家にでも…」


誘われたので少女の父親の後を着いていく。

家に着くまでの間周囲を見渡す。
村を囲う様に背の高い柵が設置され、作りもしっかりしている様なのでウルフ程度では突破される事は無いだろう。

だが村の周りにウルフが彷徨いているのはよろしくない。
原因があるなら潰しといた方が良いだろう。


「こちらです。」


父親に促されて家に入る。
家の作りも内装もごく一般的な家庭の物で、暫く宿を借りて暮らしていたノアにとって実家に帰って来た様な安心感がある。

ちなみに家に入る際、腰の阿羅亀噛はアイテムボックスに仕舞った。重いからね。


「この度は娘を助けて頂きありがとうございます。」

「少ないですが、お礼の…」


母親が小さな小袋を出して来たので、ノアは手で制する。


「僕はお礼を求めて彼女を助けた訳じゃありません、お気持ちだけ受け取っておきます。」

「ですが…」

「それではこの村の周辺状況を教えて頂けませんか?」

「周辺状況ですか?
この村は大通りから外れた簡素な村です。
ここから少し離れた牧場で家畜を育てて生計を立てていますが、最近になって山からウルフや猪が下りてきて襲われる者が増えています。
その為商人も被害を恐れてここを通らなくなりました。
牧場の家畜も襲われる事があって、とてもでは無いですが食べ物が足りなくなってきたので野草を採りに行ったり、ウルフを狩ろうとしていますが、なかなか思うようには…」

「なるほど、ありがとうございます、取り敢えず自分は山の方に行ってみて原因を探ってみます。それで何か「うわーっ!?」


村の入口の方から叫び声が聞こえる。
<気配感知>の範囲内にギリギリウルフの反応を感知したノアは家から飛び出す。

入口へと向かうと大人の男性が腕を押さえしゃがみ込んでおり、腕からは出血、更に奥には仰向けで倒れてはいるが手に持った箒で何とかウルフの噛み付きを防いでいる男性がいた。

ノアはアイテムボックスから弓と矢を取り出し<集中>を発動して矢を射る。

ズバァン!    ギャウッ!?

ウルフの頭部に突き立った矢は勢いそのままに頭蓋を突破して体内の奥深くまで貫き絶命、仰向けに倒れた男性の上に崩れ落ちた。

その死骸の首根っこを掴んで男性の上からどかしてやる。
見た目で怪我は無さそうだが一応確認を取った後にアイテムボックスから取り出した回復玉2つを渡し、自分と腕から血を流した男性に口に含むよう促した。

グルルル!ガルルァッ!

村の入口にまだ4頭残っているのでノアは弓を背中に戻し、太腿からカランビットナイフを抜き、両手に持って構える。
<殺気放出>を発動、バトルベア並みの殺気を放つとウルフ4頭共身動き1つ取れなくなり固まってしまった。

その隙を見逃さず身を低くして急速に接近、振り上げる形でナイフを振るい2頭のウルフの喉を掻っ斬る。
勢いそのままに駆け抜け、すれ違い様に下から上へと振るい、その場で反転して両脇のウルフの後頭部にナイフを根元まで突き刺す。

2頭のウルフはもがくが強い力で押さえ付けられ何も出来ず、そのまま動かなくなった。



ウルフの死骸からナイフを抜き、周囲を見渡したノアは呟く。


「まだいるな…」


ノアの<気配感知>の中に反応は無いが視界の所々にウルフと猪の姿が見える。
が、今の戦いで各々ここから離れていくのが見える。


「こ、この数を1人で…」


先程の父親とは違う男性がノアの元にやって来る。


「すまない、私はここの村長と同等の立場を担っているハミルと言います。
村の者を救って頂き、感謝の念が尽きません。して、君は一体…」


そう言えば今の今まで名乗ってすらいなかったなと気付き、慌てて名乗る事にする。


「初めまして、新人冒険者のノアと言います。」
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