ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.

文字の大きさ
245 / 1,117
王都編

お呼びしました

しおりを挟む
「ノア様、アグナス家の職人をお呼びしました。」

「早過ぎない!?」


朝方、キエフからの追っ手が退いたお陰で伸び伸びと屋台でケバブを貪っていたノアの元に、ジョーの護衛のラーベがやって来た。

【防具】ギルドでの要請の話から6時間も経っていないにも関わらず、もう来たというのだ。


「『今は丁度閑散期で暇してた所だぜ、へへへ。』だそうです。」

「貴族の割りに結構軽いですね…」

「ノア様も御存知の方々ですよ?
もう既に【防具】ギルドの方へ向かっておられますが、どうしましょう?」

「何ですって!?急がなきゃ!
という訳ではい、ラーベさんこれ食べて下さい。」

「え?」


ノアからケバブの包みを渡されたラーベは困惑している。


「ずっと働きっ放しだったのでしょ?
少しお腹鳴ってましたよ。」

「んな!?」


顔を赤らめたラーベがノアを追い掛けるが、ギリギリ追い付かない速度で走るノアの後を着いていく事しか出来なかった。





ズザザァッ!「すいません、お待たせしました!」

ノアが【防具】ギルド前に滑り込むと、既に建物の前にジョーが立っていた。


「おや、大分早かったね。
それにしてもラーベは大丈夫かな?」

「も、問題ありません…」


ノアの後ろには膝に手を付け、肩で息をしたラーベが立っていた。
とても大丈夫そうには見えないが、それならばとジョーは話を続ける。


「アグナス家の者達は既に中に居るから挨拶してくると良いよ。」

「あ、ありがとうございます。」


ノアは、扉を開け、建物の中に居るというアグナス家の者達の所へと向かった。







「ほぅ、流石王都だ。
中々良い道具揃ってんじゃねぇか!」

「俺らの居るオードゥス何かボロっちぃ道具しかねぇもんなぁ?」

「ボロいんじゃねぇよ、年季が入ってるって言えや!
それを言うならお前ぇの愛用のハンマーもボロボロで、また一歩オークに近付いたんじゃてぇかぁ?」

「んだと、コラ!」


工房の奥から口喧嘩が聞こえてくる。
でも何故だろう、この口喧嘩の言い合いに何処と無く心当たりがあるのは。

とにもかくにもノアは意を決して工房の奥へと向かい、即座に頭を下げる。


「ほ、本日は僕の防具作成の為にご足労頂きありがとうございます。」


と頭を下げたノアに


「あれ?ノアじゃねぇか!」

「お?お前さん王都に来てたのか!」


と声が掛かったので頭を上げると、オードゥスの街で武器、防具の店で職員として働いていたデオとガーラが立っていた。


「あれ?デオさんに、ガーラさん。何で2人がここに?」

「何でって、オードゥスに居たら、王都から防具製作依頼の要請が入ったから来ただけだ。」

「え?と言う事はアグナス家の貴族の者って2人の事だったんですか?」

「貴族の出ではあるが、そう言った振る舞いが苦手で出家したんだがな…
ってかお前さんボロボロじゃねぇか…」

「ええ、昨日色々ありまして…
それで、防具の新調をお願いしようとした訳なのですが…」


と、そこまでノアが言った所でジョーが話に入って来た。


「ノア君が素材を持ち込んだのですけど、【防具】ギルドの方々では何の素材か分からず、かといって替えの素材がある訳でも無いのでお二人を頼った、と言う訳ですよ。」


ジョーを先頭に商会の従業員兼護衛のルーシー姉妹、ドゥ、【防具】ギルドの面々が工房の中に入ってくる。
尚、カサグリアは王命の為不在。


「なる程な、それで防具製作に特化した俺達に依頼した訳か。
…にしても何の素材を持ち込んだんだ?お前さんは…」


そう、
話の肝はそこなのだが、ここでノアは周囲の者に頭を下げる。


「申し訳ありませんが、素材の名前や出所は今回伏せさせて下さい。
元々【防具】ギルドで製作可能だった場合も他言無用でお願いするつもりでしたので、ご容赦下さい。」


このノアの発言に【防具】ギルドの面々は「え?何で」と言う顔をする。
それを代弁するかの様にジョーが問い質す。


「理由を聞いても良いかな?」

「えーっとですね…この素材の出所、入手方法、経緯含めて全てが『ややこしい』んです。」

「どう言う事?」

「素材の出所と入手方法に関して言えば、現段階では外交問題(?)に発展するかも知れないですし、素材を入手するのであればフリアダビア以上の戦力を整えて行かなければ絶対勝てないでしょう。
経緯に至っては突拍子も無い事の連続過ぎて理解されないと思います。
と言うか、今の感じで察して頂けると助かるのですが…」

「なる程ね、『現段階では』か…
分かった、そこまで言うなら私からはこれ以上言う事は無い。」


ジョーは色々と察してくれた様で、直ぐに身を引く。
それによって【防具】ギルドの面々は、思う所はあるだろうが、声が上がる事は無くなった。


「はい!という訳で本題に移らせて貰います。
デオさん、ガーラさん、素材をお渡ししますので、くれぐれも声を荒げる事の無い様お願いします。」

「分かってるっての。」

「安心しな、こう見えて場数は踏んでるから滅多な事じゃ驚かんよ。」


2人から何やらフラグが立った感じがしたが、一先ずアイテムボックスから『大海獣の柔肌』を1枚取り出して作業台に広げる。


「何だ?このでかくてブヨブヨな皮…は…」


『大海獣の柔肌』…海洋系最強種の一角、クラーケン(成体)の体表皮。
通常状態ではごく一般的な動物の皮と大差無いが、特殊な組織構造により、瞬間的な衝撃に対して圧倒的な防御力を誇る。
これを防具として用いれば、例え羊皮紙程の厚さでもバリスタの様な致命の一撃すらも防ぎきるだろう。


「「んなっ!?何じゃこりゃあっ!?」」


素材の説明文を読んだデオとガーラは目を見開き驚きの表情でノアを見る。


「おい!ノア!こりゃどう言う事だ!?何だクラ「シーッ!シーッ!」

「おいおい!何だってこんな伝せ「ガーラさん
!荒げてる!荒げてますって!」


その後もどうにか声を荒げる2人が発する単語に食い気味で言葉を被せ、周りに気取らせない様にしつつ、2人が落ち着くまでこの流れは続いた。






「見事なまでのフラグ回収でしたが落ち着きましたかお二方。」

「あ、ああ、すまない…」

「面目無い…
こりゃ確かに『ややこしい』素材だ。
こんな物おいそれと口に出したら色んな連中が根掘り葉掘り聞いてくるだろうな。」

「その分性能も凄まじいがな。
おぅノア、ちょっとこのナイフでこの皮ぶっ刺してみ?」


デオがノアに自身のナイフを手渡し、作業台に広げた『大海獣の柔肌』に刺す様に伝える。


「どうやら瞬間的な衝撃に対して圧倒的な防御力があるらしいからな、どのみちお前さんの防具にするんだから性能を確かめとくに越した事は無いだろう?」

「それはそうですが…」

「良いか?作業台を壊すつもりでやれ?
壊しても心配するな、弁償してやっから、ガーラが。」

「おい、待てデオ。」

「よーし…」

「少しは躊躇ってくれ少年よ…」


ナイフを握り込んだノアは、徐に振り上げ<渾身>を発動して勢いよく振り下ろした。
しおりを挟む
感想 1,253

あなたにおすすめの小説

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...