ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~ダンジョン『宝物庫』~

『宝物庫』

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街の南東エリアの一区画に、石造りの古めかしい大扉がデンっと設置してある場所があり、設置してある看板には『宝物庫』と書かれていた。

その大扉の前には犬獣人の兵士が2人立っており、受付も兼用している様だ。

そして何故か大扉の脇に体の大きな羊獣人(羊寄り)が寝そべっていた。   


「…何でここに寝そべってるんだろう、ご丁寧に"これは仕様です"って立て看板も立ってるし…」

「気にはなるけど取り敢えずダンジョンに入ってみよーよ!
ちょーど誰も居ないみたいだし!」


ロゼが言う様に、『宝物庫』の近くに冒険者は居ない様だ。
まぁ時間的に言えば夜である為、皆宿にでも居るのであろう。 


「おや、君達は『宝物庫』に挑戦するパーティかな?」

「はい、ちょーせんしまーす!」

「はは、やる気満々の様だね。
それでは取り敢えずこのダンジョンの説明をするとしよう。」



~ダンジョン『宝物庫』~

・『宝物庫』は地下5階まであり、特に時間制限は無し。実力があるなら最下層まで向かって貰って構わない。

・『宝物庫』内にモンスターは居ないが、あらゆる罠が設置してあり、それに触れてしまうと即座に大扉の前に弾き出される。

・罠の中には射出されてくるタイプの罠があるが、体に触れる前に掴んだ場合は弾き出される事は無い。

・中に設置されている罠は壊しても構わない。

・弾き出された者は、30分は中に入れない。

・進んで行けば宝石の他に魔剣等の武器も手に入るかもね。



「と言う事だが、他に聞きたい事はあるかな?」

「「「「無いでーす!」」」」


クロラ達はどうやら既に準備満タンの様で、皆浮き足立っている様に思う。


「楽しみなのは分かるけど、色んな罠があるみたいだから直ぐに戻されない様にね。」


先に入るクロラ達に注意する様に伝えるノア。
ジェイルはリーダーらしく皆に指示を飛ばす。


「あぁ、皆、注意深く進もうな。」
「「「おー!」」」

ゴ、ゴンッ…

「さ、それでは『宝物庫』に行ってらっしゃい。」


兵士が重々しい大扉を開けると、中は水銀の様に景色がうねっていた。
4人は恐る恐ると言った様子で手、足の順番で体を入れていき中へと入って行った。


パッ!「うぇ?」モフッ。

「お疲れ様、残念だったね。」


4人が大扉に入った直後、脇に寝そべっていた羊獣人の近くにポーラが現れ、そのまま羊獣人のモッフモフの体毛にダイブ。

羊獣人は労いの言葉を掛け、また静かに寝出した。


「…お疲れ、ポーラ…」

「へ?…え?」


どうやら入った直ぐ後に罠を受けたのか、ポーラが弾き出されてきた様だ。

当の本人は何が起こったのか分からないと言った様子である。

その直後

パッ!ガンッ!カランッ!
パッ!「うおっ!?」モフッ。


ジェイルの持っていた盾と剣が大扉の前に現れたかと思うと、ジェイル自身も弾き出され、羊獣人に突っ込んで行った。


「くっ…2発は防いだのに…」


どうやら説明にあった射出タイプの罠を受けた様だ。

(なるほど、武器で受け止めた場合、武器も弾き出されるのか…)


パッ!カランッ!カランッ!
パッ!カシャンッ!

パッ!「きゃっ!?」モフッ。
パッ!「のわーっ!?」モフッ。


ロゼの持つ短剣、クロラの弓が次々と弾き出されたかと思うと、最後に2人仲良く弾き出されてきた。

という訳でクロラ達4人は、『宝物庫』に入って僅か10秒足らずで大扉の前に戻って来たのであった。


「「「「……。」」」」

(く、空気が重い…)

僅か1分程前まで夢と希望に溢れていた皆の面持ちが嘘の様に、どんよりと沈み込んでいた。

兵士2人も居た堪れ無いのか、明後日の方向に目を逸らしていた。


「…ま、まぁ最初はそんなもんじゃないの?」

「「「「……。」」」」


ノアもどんよりとした空気に堪え切れず何とか言葉を掛けるも、やはり空気は重い。


「つ、次は僕が行くよ…」

「あ、ボクも…」
「私もにゃ…」


ヴァモスとベレーザも掛ける言葉が思い付かないのか、ノアと共にダンジョンへと向かう様だ。


「ノ、ノア君頑張ってね…」

「う、うん…」


唯一苦笑い状態のクロラだけが声を掛けてくれた。
ノアはそれに応えつつ大扉の前まで向かう。

この段階で何と無く察したが、この場に他の冒険者が居ないのは夜だからとか関係無く、難しいからなのでは?と思うノアであった。




「つ、次は君と…ほぅ、君達が例の…
頑張るんだぞ。」


兵士はヴァモスとベレーザの事を見て色々と察した様だ。
恐らく先程ハナが配っていたビラを見たのであろう、「頑張るんだぞ」には2つの意味が込められている様に思われた。


ゴ、ゴンッ…

「さ、それでは『宝物庫』に行ってらっしゃい。」


大扉が再び開き、ノアとヴァモス、ベレーザは、ほぼ同時に入り込む。
中は人が3人並べば多少狭く感じる程の広さである。



ガコッ!ガッションッ!

「「「お?」」」


と、足元から何かの仕掛けが作動する音が聞こえ、背後から何かが外れる音がした。


「あ!伏せ!」

「わっ!?」
「にょぉおっ!?」

ブォンッ!…カッションッ…


ノアの指示を受けた2人は思いっきり身を屈めると、3人の頭上を木槌が通過。
空振りに終わった木槌はと言うと、振られた方向の空きスペースへと収納された。

恐らく先程のポーラはこれを食らって弾き出されたのだろう。


「あ、危なかったのにゃ…
ノア様が指示してく『ガコッ!』れにゃけ『ブォンッ!』れば『バシッ!』

「「あーっ!?ベレーザァッ!?」」


ベレーザがその場から立ち上がる際、別の場所に膝を付いて立ち上がった所、頭上の木槌が再び作動。
振られた木槌がベレーザに当たると直ぐ様姿が見えなくなった。


「ヴァモス!その場から動くな!
壁にも触るなよ!?周囲に意識を張るんだ!」

「は、はい、分かりました!」


ノアがヴァモスに檄を飛ばす。
目の前でベレーザが弾かれたのを見たヴァモスは体が縮こまっている。

カシュッ!カシュカシュッ!

道の奥から乾いた音が響く。
音からして矢が飛んで来たのだろう。


「うわわっ!?」

「止せヴァモス!避ける事に専念しろ!」


音を聞いたヴァモスは徐に掴み取ろうとして身構えるが、それは悪手である。


「くっ、受け身取れよ!」ヒュバッ!バシッ!

「う『ガクッ!』わっ!?」ドサッ!

ヒュォッ!パパパパンッ!


体勢を低くしたノアは足払いを繰り出してヴァモスを転かす。
そのまま勢いを殺さずに地面を蹴り立ち上がりつつ飛んで来た矢篦(やの)を手で払う。

カランッ、カランッ!…カコンッ!

パシッ!パシュンッ!

地面に矢が落下するとそれにすら反応し、また通路の奥から矢が発射された様だ。

(落とした矢にも反応するか…なら…)


「オ"ォオ"ア"ア"ア"ッ!!!」ゴォッ!!

パンッ!パパンッ!


ノアは<猿叫>を発動、狭い通路と言う事もあり、音は通路全体に響き渡る。

そして飛んで来た矢は音圧に負けて勢いを失い落下した。

ノアは何も、飛んで来た矢を防ぐだけの為に<猿叫>を発動した訳では無く


ア"ア"アァァ…

「よし、矢が放たれている場所が分かった。」

(『突き当たりの壁際、天井、床の隅の3ヶ所だな。
てかこの通路、割と長さがあるのな。』) 


<聞き耳>で<猿叫>の反響音を聞き取り、通路の形状、突き当たり迄の大体の距離を割り出す。

するとノアの居る場所から50メル程先の突き当たりに、発射装置の様な物がある事が判明し、直ぐ様行動に移す。


ヒュォッ!

パシッ!パシッ!パシッ!


飛んで来た矢を掴み取ったノアは、背中から弓を取り出し、先程割り出した発射装置の様な物へ向け<集中><渾身><洗練された手業>を発動して狙いを定める。

バヒュッ!ボヒュッ!ドヒュッ!

ガショッ!ドキュッ!ボキャッ!

通路の奥から破壊音が聞こえてきた。
ノアは手応えを感じていたが念の為確認を行う事にした。




カラン、カランッ…カショッ、カショッ…

「…どうやら反応している様だけど、発射装置を壊したからか矢が飛んでくる事は無いみたいだな…」


その後もその辺の石や飛んで来た矢を地面や壁、天井に向けて投げてみたが、反応は無かった。


「ふぅん…ここは初っぱなの木槌2発と矢の発射装置だけみたいだな。
まぁ1階だからこんな物だろう。
さ、ヴァモス次行こうか次。…ってあれ?…ヴァモス?」


ピクピク…

「…あー…僕の<猿叫>を諸に食らっちゃったみたいだな…」


ヴァモスは開始地点で口からヨダレを垂らし、ぐったりと横たわっていた。


「…戻ったら謝るよ。お疲れ様。」

バシッ!

ノアは手に持っていた矢の矢尻をヴァモスの体に軽く当てると、音と共に弾き出された様だ。


「さて、次の階に向かうとしますか。」
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