ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~救出作戦~

採算度外視、超効率重視の移動方法

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ノアは現在、採算度外視、超効率重視の移動方法でヒュマノ聖王国へと戻っていた。
何故なら、流石のノアでもヒュマノ~スロア領を20往復、約80ケメル相当をひたすら走り続ける事は厳しい。


シュバッ!ブォンッ!シュバッ!ブォンッ!


なのでヒュマノに戻る際は体力を温存する為、荒鬼神を駆使してヒュマノ上空を目指して転移を繰り返していた。


『よし…っと…』バチンッ!


ヒュマノ聖王国上空、ある程度の高度に達した所で荒鬼神を腰に戻したノアは、地面に向けて落下を開始。

ヒュォォオオッ…

ザクッ!ムシャムシャ…
クピッ…ゴクゴク…


補給する時間すら惜しいノアは、地面に落下しながらも体力とスタミナ、魔力の回復を図るべく携行食を手早く食らい、ヴァンディットが日頃から小まめに作製していたマナポーションを湯水の如く空け、胃に流し込む。

ただ移動する為だけにマナポーションを使うなど、【飛脚】ですらやらない事であろう。

ゴォォオオッ…

(2割、3割、3割、2割…それ以外は全て空か…
次からは小まめにマナポーションを補給しないとなぁ…)

(『おい、そろそろ地面だぜ?準備しな。』)

『了解。』


軽く腹を満たしたノアは、余剰魔力を溜めておく指輪に目を落とし、魔力の残量を確認。

途中『鬼神』から報告が入ったので準備に入る。


『リベラ。』ドゥッ!


徐に下方に向け手を翳したノアは、防具に溜め込まれていた衝撃を放出し、減速を図る。
これで多少は減速したが、このまま突っ込めば只では済まない。

なので

ドッ、ガッ、ダッ、ガッ、ガッ、ゴロ…ズザッ!

赤黒い腕4本を生成し、地面に次々と手を付いて衝撃を分散しつつ地面を転がり、勢いそのままに近くの建物の影に滑り込んだ。





ズルッ…スタッ!

「うひゃっ!?」
「ふおっ!?」

『ミミさん、ララさん、こちらの方はもう完了ですか?』

「あ、うん…西と南側の尖塔に居た子供達は運び出し終わってる。」
「東側も後僅かだから、残りの人員は皆北側に向かってるよ。」

『了解しました、予定だとそろそろ海霧が晴れて撤退せざるを得なくなる頃。
僕は先に向かいますので2人も急いで下さい。』


ノアが先程から何やら急いでいる描写があったが、その理由というのが、ヒュマノ聖王国に侵入する際に利用した現象 、海霧が晴れ始める時刻が迫ってきているからであった。

この海霧があった為、1000人と言う大規模な人数での侵入、探索、救出が可能であった。

幾ら警備がザルなヒュマノ聖王国の兵士とは言え、視界が良好になってしまっては見付かるリスクが上がってしまう。

そしてこの海霧が晴れる兆候が出てきた時が、このヒュマノ聖王国から全員"撤退"する合図でもあった。


ズルンッ…

影の中に入っていったノアを見送ったミミとララはポツリと呟く。


「…ノア君のあの姿…」
「うん…1度徹底的にボコボコにされてるから突然現れるとまだ心臓に悪いね…」

「「…行こっか。」」

ズルン…

ノアの姿にバクバクと高鳴った鼓動を抑えつつ2人も影の中に入っていった。






~ヒュマノ聖王国外縁部~

ヒュォオオオ…

「…海霧が晴れる時刻が迫ってると言うのに風が出て来たな…」

ヒュォオオオ…フッ…

「っ!?晴れるのが早過ぎる!」

チカッ、チカカッ!


アルバの仲間はランタンを振り、王城にいるアルバへ向けて連絡を発する。






~王城・バルコニー下~

チカッ、チカカッ!カカッ!「」

「嘘だろ…もう兆候が現れたって『ヒュォオオオ…』…くそっ!風が出て来たからか…」

チカッ、チカカッ!


アルバは早まった兆候に驚きつつも、市街や他施設で活動している仲間に向けて連絡を発した。






~ヒュマノ聖王国・市街『影移動』地上待機班~

("海霧が晴れる兆候が現れた、5分後には撤退出来る様に準備を進めよ"…か…
早過ぎるが見付かる訳にもいかないし応じるとしよう…)




~同市街・民家の一室~


「くっ、もう兆候が…ヴァンディット嬢、5分後に撤退出来る様に準備を。
だがそれまで影移動を展開し続けてくれ。」

「はい、分かりました。」


広範囲の影移動を展開し続けているヴァンディットの護衛を担っていた諜報部のにゃんこさんがアルバからの報せを確認。
直ぐ様指示を出し、撤退の準備を始める。

(最後の報せではまだ残り100人程残ってるとの報告があったが大丈夫だろうか…
自然が相手故、仕方の無い事ではあるが…)


作戦が上手く行っているのか心配でソワソワと落ち着かない様子のにゃんこさん。
黒い装束を纏ってはいるが感情はだだ漏れである。

そんなにゃんこさんを落ち着かせる為、ヴァンディットは手を取って宥める。


「気持ちは分かりますが一先ず落ち着いて下さいにゃんこさん。
皆さん全力を尽くしています。」


ここで安易に"必ず成し遂げてくれます"と言わない辺り、それだけ突発的な状況の変化だった事が窺える。

ヴァンディットの言葉でハッとなったにゃんこさんは落ち着きを取り戻した後、ヴァンディットへと頭を下げた。


「ヴァンディット嬢…
…済まない、同族の事となるとつい…」

「歯痒いとは思いますが、私達は私達の出来る事を最後までしっかり務めあげましょう。」


事前に、"自身の仕事を全うする様に。救出はどうにか最後までやり遂げるから、指示を受けたらそれに従い脱出してくれ"と言われていたヴァンディットは、ノアからの言葉を信じての発言であった。






~尖塔・北側~

ズルッ…スタッ!

『こちらの状況は!?』

「おわっ!?あ、ミミララか。」
「お、それとノア君か、大分早い戻りだな…」
「残りは87人だ。
ここにいる人員1人当たり2人担げば40人を。
ノア君は6人担げば、残り40人と少しだ。」
「後はスロア領から誰かしら戻ってくれば完了だな。」


と、漸く作戦の終わりが見えてきた所で影の中から慌てた様子のアルバの仲間が飛び出してきた。


「皆聞いてくれ、マズイ事になった!
予定よりも早く海霧が晴れてきた!」


『何ですって!?予定よりも20分以上早いじゃないですか!』

「あぁ、だが確かな情報だ!
それとスロア領からこちらに向かっていた者達は報せを受けて早々に引き帰らざるを得なくなった。
俺達や残ってる人員も、後3分後には全員この国から撤退しなければならん!」

「「「「「さ、3分!?」」」」」

「撤退って事は影移動の道も使えなくなるじゃないか!」
「その上住民達を引き留めていた商隊何かも撤退するから皆、家や警備に戻るだろう…」
「流石に見付からずに、ってのは厳しいな…」
「そんな時間じゃスロア領所かこの国から出る事しか出来ないぞ…」


突発的な状況に慌てふためく一同。

そんな中


『全員運べるだけの子供達を担いで下さい!
そしてここから出たら1番近い防壁を越えて一先ず防壁の真下に集めて下さい!
俺が土属性魔法で地面に擬態させた囲いを作りますのでそこまで運んで!』

「「「お、おぅ!」」」


ノアの指示を受けた一同は直ぐに行動に移す。
特にミミとララは御前試合で見せた分身まで使用して運び出す事に。

それでも12人残ってしまったが時間が惜しい為、直ぐ様影の中に飛び込んでいった。

ズルッ…







ズバッ!トッ!タタタタッ!


北側防壁直ぐ近くの建物の影から勢い良く飛び出したノアは、6人の子供を担ぎながら<忍び足><縦横無尽><壁走り>を発動して垂直の壁を駆け登って行く。

タッ!ヒュオッ!ストッ。

防壁を登り切ったノアはそのまま通路を飛び越えて防壁の外に降り立った。

『『『『『そっ…』』』』』

ズズズズ…

慎重に、だが素早く子供を地面に寝かせると、即座に地面に魔力を流して囲いを作る。
雑草等はそのままなので、防壁の上から見ても地面としか思わないだろう。

『『『『『『『スタタッ!』』』』』』』
 
他の者達が防壁を越えて次々と降り立ってきた。
直ぐにノア同様囲いの中に寝かせていく。


『ミミさん、ララさん、行くぞ!』

「「う、うん!」」

『『『ダンッ!タタタタッ…』』』

先に作業を終えたミミとララを呼び、3人は防壁を駆け上がっていく。

ザッ!ザサッ!

『げ。』
「「うわっ…」」


防壁を登り終えた3人から思わず声が上がった。
何故なら東側の防壁の海霧が既に晴れていたからだ。

<気配感知>から、続々とヒュマノ聖王国から撤退していく冒険者の反応を感知。

その中にはアルバや、ブラッツを連れたヴァンディット、にゃんこさんの反応もあった。

つまりここから中に入ってしまえば、自力で、誰にも見付からずに外へ出るしかない。



「「『行こう!』」」『『『ダンッ!』』』


と、3人は決心して北側の尖塔へ向け駆け出していった。






~ヒュマノ聖王国外縁部~

「完全に晴れちまったなぁ…
俺も見付からん内にさっさとアルバん所に合流するか…」


アルバの仲間がその場から離れようとした時だった。


「…ん?何だあれ?」


視線の先に広がるのは静かな波音のする大海原であったが、その海上に青紫色の光を放つ人影があったのだった。
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