ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~森の番人~

魔蛸の眼石

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「えーっと…"魔蛸の筋繊維"に、"魔蛸の砕岩嘴"、"魔蛸の擬態墨"…あ!御座いました!
"魔蛸の眼石"、それも傷無しです!」

「「「「「「おおおっ!」」」」」」


"傷の無い魔蛸の眼石"があると知り、沸き立つ冒険者達。


「こ、これらの素材はどうされますか?」

「どうしましょう?」

「ええっ!?そこで私に振るのかい?
うーん…取り敢えず冒険者ギルドの方からウチに流して売買する流れとなるけど…『ペラペラ』今の市場価格だと"傷の無い魔蛸の眼石"は1個86万まで吊り上がってるね。」

「「「「「「「うへぇ…」」」」」」」


ジョーは自身の手帳をペラペラと捲り、市場価格を確認している様だ。

先程話していた内容よりもさらに吊り上がっていた事に、周囲の冒険者達からは溜め息が上がっていた。


「ただ、それなりの量が確保出来れば市場価格もそれなりに下がっていくよ。
そこでノア君が良ければ、の話なんだけど、私の方で"特別依頼"を出すから"傷の無い魔蛸の眼石"の供給に一役買って貰えないだろうか?
勿論報酬は弾むよ?」

「そうですね…最近散財しちゃいましたし、何か金策をと模索してたので丁度良いかも知れませんね。」


ジョーからの提案にノアは快く応じる事にした。
するとジョーは早速と言った感じで受付嬢の所へ向かい、何やら指示を出していた。




「イビルさん…でしたっけ?」

ビクッ!

「冒険者生活を送る上でアナタみたいな人と出会すのは仕方の無い事と割り切ってはいるつもりですが、あれだけ好き勝手に言われて黙ってられる程僕は優しくないんですよ。」

ズズズ…

静かに、だが徐々に殺気を漏らしていくノア。


「確かに多方面で地位の高い人達と仲が良いのは事実ですし、相談でもすればアナタ達のクランを潰す事も出来るでしょう。
ですがその人達の権力を使って潰す事は絶対しない。
やるならまどろっこしい事はせず真っ正面から
叩き潰してやる。何なら今からでもやってやろうか?言っとくが俺は主程優しかねぇぞ?』

ズズズズズズズズズ…

それなりに頭に来ていたノアは、尋常では無い殺気と赤黒いオーラを立ち昇らせつつイビルに凄む。

後半は鬼神が少し前に出て脅しを掛けた。

あまりの殺気に、周囲の者達は言葉所か身動き1つ取れずにやり取りを見守っていた。

すると


「…ひっ……」ズシャ…


間近で尋常では無い殺気に当てられたイビルは、短い悲鳴を上げた後に床に崩れ落ち、気絶した。




ズズズ…

「あ、あの…ノア様、依頼の処理が終わりましたが…」


未だ殺気を漏らしていたノアに受付嬢が恐る恐るといった様子で話し掛ける。
すると徐々に殺気が落ち着いていき


「………ふー…
柄にも無く腹を立ててしまい申し訳ありませんでした。
受付嬢さん、依頼の処理ありがとう御座います。」

「い、いえ…」

「ジョーさん、それでは依頼に行ってき「ノア君待った。少しその辺を歩こうか。」

「…はい。」


いつも通りの表情に取り繕い、足早にギルドから出ようとするノアをジョーが呼び止め、共にギルドを出ていった。






「いやね、急にラーベが"こっちからノア様を蔑んでいる発言が聞こえる"って言って走って行っちゃったから一緒に着いてきたんだよね。」

「お姉ちゃん、ノア様の事になると前が見「わぁああっ!ラベルタ余計な事を言うなぁっ!」


どうやら先程イビルが喚き散らしていたのが聞こえたらしく、ジョー一行は冒険者ギルドにやって来た様だ。

ラベルタが何か言い掛けたが、ラーベが大声を上げた為ノアにはイマイチ聞こえていなかった。

そんな2人のやり取りを見ていると、以前会った時と少し髪型が変わっており、2人共髪を1つ結びにして下ろしており、髪止めで留めていた。


「そう言えばお2人の髪飾りってもしかして…」

「あ、分かりましたか?
この間ノア様から頂いた宝石と魔石を組み込んだ簪(かんざし)になります。」

「普段お姉ちゃんてば全然おめかししないのに、ノア様から贈られたすぐ後に【彫金加工】のお店に駆け込んで作って貰ったんですよ?」

「そ、それを言うならラベルタだって同じじゃない!」

「はは、2人共似合ってますよ。」


クロラとポーラの時にも思ったが、贈り物を身に付けて貰えるのは何処と無く嬉しいものである。


「…どうやらいつもの調子に戻ってきたみたいだね?」

「やっぱり分かりましたか?」

「そりゃあ、ね。
私達は常日頃お客の顔色や機微の変化をつぶさに観察しているからね。
それになんだかんだノア君との付き合いもままあるから、君がどういった感情だとかは直ぐに分かったよ。」


ノアは内心では、怒りの火が燻っていたのをジョーが見抜き、冷静さを取り戻そうとしての行動だったらしい。


「さっきのクラン、何かしら罰は下るんですかね?」

「名が売れてない下位のクランであれば厳重注意や一定期間の活動停止とかあるけど、さっきのクラン『灰塵』みたいに名が売れてると冒険者ギルドからは精々注意位だろう。
名が売れてると言う事はそれだけ需要があるという事だ。
名が大きくなればギルドよりも力を持つ場合があるから、注意を受けて処罰を行うかどうかはそのクラン次第だからね。」

「なる程。
まぁ今となってはどうでも良いですが…」

「でもあのイビルとか言う冒険者は多分除名だろうね。」

「へぇ?」

「彼は以前もクランの名を出して脅迫紛いな事をやっていてね。
サブリーダーに改善命令が出されていたハズだがあの様子じゃ成されていない様だな。」

「ん?サブリーダー?
普通そういうのってリーダーに降される物じゃないんですか?」

「『灰塵』のリーダーは上級冒険者で各地を転々としているらしいからクランにはあまり顔を出してないんだとか。
まぁそう言う要因もあってクランの者達に目がいかなかったのかも知れないね。」

「上の目が無いとどうしても緩んじゃいますものね。」

「もしかするとそのクランのリーダーがノア君に謝罪しに来るかも知れないよ。」

「謝罪で済めば良いですけどね…」


と、話している間に一行は南門の付近までやって来ていた。
ノアはその頃になると、完全にいつもの調子を取り戻しており、燻っていた怒りの火も鎮火していた。


「それじゃあノア君気を付けていってらっしゃい。
依頼内容は"連続狩猟"だけどあまり無茶しない様にね。」

「「いってらっしゃいませノア様!」」

「えぇ、行ってきます。」


ジョーとルーシー姉妹の見送りを受けたノアは、一路『滅びの森』を目指すのであった。


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