ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~【勇者】アーク・ダンジョン『時の迷宮』~

強制労働の内容

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時刻は天頂の月が煌々と照っている頃。

アーク以外の【勇者】パーティである3人に精神力強化の特訓を終え、街に戻ったノアは、ヴァンディット、ラインハードを連れ立って屋台通りにて遅めの夜食を摂っていた。(ラインハードは何か制作中。)

だが少しして、その輪の中にもう1人加わる事になる。
【勇者】アークと共に牢に居た『犬姫』のハナであった。
 

「強制労働2ヶ月…あの人がその程度で改心出来ますかねぇ…
こう言ったら何ですが、性格と言うのはちょっとやそっとじゃ変わらないモノですからねぇ…」ムグムグ…

「まぁ無理でしょう。
私が『犬姫』に入団し、厳しい訓練を受けて性根を鍛えた時ですら軽く3ヶ月を要しましたし…」ハグ…

「私が思うに、強制送還を断る名目と、かといって今まで通りのさばらせていた場合、また問題を起こされても困るので、この地に縛り付けたのが本命でしょう。」カチャカチャ…

「あ、ライちゃん鋭い考察。流石元女王様ですね。」チュルリ…

「むふふ。(照)」


お互いを愛称で呼び合う仲の2人。
ラインハードはヴァンディットに褒められてドヤ顔をしていた。


「…ちなみに、強制労働の内容は聞いても良いですか?
簡単な肉体労働じゃ処罰にならないでしょ?」

「えぇ、そうですね。『ガサガサ…』
こちらが【勇者】アークに渡した、"表向き"の通達書です。」

「ん?"表向き"?」


ハナは懐から羊皮紙を取り出してノアに手渡す。
"表向き"と言うのが気になったが、一先ず通達書に目を通してみる事にした。



~通達書~

貴君【勇者】アークに『時の迷宮』にて素材採取、モンスター討伐等の強制労働を命じる。

1日10時間。
期間は2ヶ月。
監視として『犬姫』より団員を2名派兵する。



ガサガサ…

「…それでこちらが本来の内容となります。」

「えーっと…」



~通達書~

貴君【勇者】アークに『時の迷宮』第4層にて素材採取、モンスター討伐等の強制労働を命じる。

1日10時間。
期間は2ヶ月"分"。
監視として『犬姫』より団員を2名派兵する。



文言はほぼ変わらないが、階層指定と、期間に"分"と言うのが追加されていた。

ノアは、どういう意図があるのだろうかと思考を巡らせていると、ハナが説明を開始した。


「ノア君はもう『時の迷宮』には行きましたか?」

「いや、まだです。
そろそろ行ってみようかとは思っているのですが…」

「先に言ってしまうと、『時の迷宮』と外とでは時間の流れが違います。
『時の迷宮』は1~5階層あり、1層では外の10倍、2層では外の20倍といった感じです。
更に1度に潜っていられる時間は外の1時間となります。」

「あぁ~…
獣人国に来る時、クロラさんにそんな説明受けた気がする…
…あれ?そうなると、期間の2ヶ月"分"ってどっちの事になるんですか?」

「勿論"外の2ヶ月"になりますよ。」

「わぉ。」


つまり【勇者】アークが受ける"強制労働2ヶ月"と言うのはあくまで"外"での話であって、アークにとっては2ヶ月では済まないのだ。

『時の迷宮』第4層は、外の40倍時間の流れが違い、1日10時間の強制労働を2ヶ月である。

単純計算でアークは1000日潜る事になるのだ。


「うーん…通達書の本当の意味を理解した時、あの人は改心するか"壊"心するかのどっちだろうな…」

「あちら側(イグレージャ・オシデンタル)の考えとしては、"無駄に3年過ごして来たのだからその分の3年を取り戻させたい"様です。」

「まぁ最悪"壊"心してしまっても今より大分マシだろうしな…
5層まであるのに4層で止めたのは、やはりあの人の実力的な問題ですか?」

「えぇ。
1層は新人冒険者。2~4層は中級冒険者。5層が上級冒険者に適しています。
【勇者】補正もあるでしょうから4層が妥当かと思われます。」

「なる程ね。
それよりも大丈夫なのですか?
"監視として『犬姫』より団員を2名派兵する。"ってありますけど…」


【勇者】アークは精神干渉系のスキルを多用していた為、今度はハナ達『犬姫』の者達が操られるのでは、と心配しているのである。


「大丈夫ですよ。
一応精神干渉スキル封じの枷を取り付けてますし、アークの使っていた金色の魔法陣も精神干渉系の一部だったみたいですから。」


ハナはドンと胸を叩いて問題無い事をアピールしている。




「精神力強化の特訓します?」

コトッ…「これ、一時的に精神力を上げる錬金薬です。」

「ハナさん待ってて、もう少しで精神干渉耐性のある装飾出来るから…」カチャカチャ…

「ちょ、皆さん何で信用していないんですか!?
と言うかラインハードさん、さっきから何か作ってると思ったらそんな凄いの作ってたんですね!?」


ノアは『ブレイカー』として依頼を請けていたせいか、盛大なフラグと思っている様だ。
それはヴァンディット、ラインハードも同様で、心配になって色々と世話を焼きたくなったらしい。




キュッ。

「ハナさん、腰に差してる剣を貸して頂けますか?」

「え?剣をですか…?
『スラッ…』はい、どうぞ…。」


ラインハードが何やら締め付けを行い、手を止めると、ハナが腰に差しているロングソードを所望し出した。


パシッ。チャキ。


ラインハードは徐に受け取ると別の工具を取り出し


カチッ、パゴッ!

「「え?」」

「あーっ!?私の剣がぁっ!?
ちょ、何するんですかラインハードさん!?」


剣を受け取るや否や、工具を剣に嵌め込まれていた宝石との境に噛ませ、無理矢理外したのである。


「まぁまぁ御心配無く…『カチッ、カチカチ…』よし、出来ました。
はいハナさん、受け取って下さい。」

「もう…支給品とは言え結構するん…
…ってあれ?何か少し変わって…」



騎士団『犬姫』専用ロングソード…ごく一般的なロングソードに『犬姫』の団章と装飾があしらわれた物。



忠義の聖剣…ネウトロメカニコ(機兵中立国)女王ラインハード製の精神力増幅フィールド発生機構のある装飾が施されたロングソード。

魔力を流せば精神力が大幅に上昇し、周囲に居る者にも聖属性が付与される為、悪魔や霊、死霊の類いに対して絶大な効果が期待される。



「な、何かすんごい性能の武器に変化してるんですけど…
こ、こんな…受け取れません!」


剣の説明文を見てワナワナと体を震わせるハナ。
魔剣の様な性能に、受け取れない、と判断した様だが


「じゃあハナさん頑張って下さいね~。」

「「頑張ってね~。」」


ノアとヴァンディット、ラインハードは食事を終えて席を立っており、既に遥か前方を歩いていた。


「あ!待って!まだ食べ終えて『カッカッ!』ない『ガツガツ…』あの、ちょっ…」


急いで手元の食事を掻き込んで後を追おうとするも、既に3人の姿は見えなくなっていた。






『時の迷宮』の元ネタは直ぐに分かったかと思いますが、『懲役30日』です。
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