ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.

文字の大きさ
565 / 1,117
獣人国編~中級冒険者試験~

試合開始

しおりを挟む
「に、兄さん!
あ、あの子、あの子が″【鬼神】のノア″らしいよ!」

「我ら種族の最上位存在の名を冠する新人冒険者が居るとは聞いてたが彼だったか…
確かに先程受付で彼を見た時何とも言えない気配を感じたが…
セルト、さっき彼と話をしていただろう?
何か感じなかったか?」

「まぁ、感じたよ…
君達の最上位存在かどうかは分からないが、″加護″とかの類いとは全く違う感覚…
何と言うか…彼の中に何か″居る″よ…」


試合場の側にある控え席に座る鬼人の兄妹と【神官】セルトの3人組パーティ。
彼らは大陸の南にある村の出身で、最近になって獣人国方面に足を伸ばしてきた為、北方のフリアダビアは愚か、ノアの事は全く知らないでいた。

獣人国方面に足を伸ばした理由の1つが、″【鬼神】の二つ名を持つ新人冒険者が居る″、と言う情報を聞き付けてやって来たのだ。

と言うのも、鬼人族にとって【鬼神】と言うのは神様の様な存在なので、例え二つ名であっても大した事無い者がその名を得ている事が非常に腹立たしいのであるとか。

そんな2人に引っ張られる形で付いてきた【神官】セルトの元に″神託″が降りた。

内容は″真なる者との邂逅″であったと言う。

それに心踊った鬼人兄妹だったが″何処で″と言うのが分からないので、一先ず足を伸ばした2つ目の理由である中級冒険者試験を受けに来たらしい。


「それじゃあ彼が【鬼神】の名を冠するに値する者かどうか見定めてやろう。」

「ちょ、変な気起こさないでよ?
兄さんただでさえ喧嘩っ早いんだから…」

「ガーウの言う通り、妙な気を起こさないでねオウガ。」

「わーってる、っての。
要はアイツが【鬼神】の名を冠するに値する奴だったら『ズズズ…』何の文…句も…っ!?」

「ひっ!?(ガーウ)」

「う、うわわわ…(セルト)」


見定める、と腕を組んで前を向いていた鬼人のオウガだったが、試合場の方から放たれた殺気混じりの威圧感に、同じパーティメンバーのガーウ、セルトと共に一気に縮こまってしまった。


「「「「………っ!?」」」」


セルトがチラリと隣を見ると、オウガと似た心持ちだった『四星の守人』の4人も、試合場を凝視したまま固まっていた。









「君と試合をするにあたり、試合場には結界が張られ、使用される武器や防具には″破壊不可″が付与される。
対戦者である我らと君含めて、でごわすがな。」

「それ故、存分に力を振るって良いでござる。
君からは何かあるでござるかな?」

「いえ、特に何も。」

「そうでごわすか。」『『ガチンッ!』』

「では直ぐにでも始めるでござる。」『ブゥンッ!』


ノアの言葉を聞くなりゴワスは拳同士を打ち付け、ゴザルは何も無かった手に刀を出現させた。


『ブンッ!ブゥンッ!』


するとゴワスには変化は見られなかったが、ゴザルの体に次々と武者鎧の各部位が装着されていった。


「その姿になるのはフリアダビア防衛の時以来でゴワスな!」

「あぁ。やはり身が『ズズズ…』引き締まる想い…だ…」


ゴワスは武者鎧を完装し終わったのとほぼ同時に、対面から殺気混じりの威圧感を受けて前へ向き直る。

そこには眼を赤黒く染め、赤黒いオーラを立ち昇らせたノアが仁王立ちしていた。


『準備が出来た様ですね。
さ、″死合″を始めましょうか。』

「「お、おぅ…」」


ノアは″試合″と言ったのだが、威圧を受けたゴワスとゴザルには″死合″と聞こえ、思わずたじろいでしまった。


「ミ、ミゼラ(職員の名前)、始めるでござる。」

「は、はい…」


ノアの姿を見た審判役のミゼラも思わず身構えてしまったが、漸く試合が開始される事に。


ギシリ…

チキ…

『……。』

「「「「「「「「「……。」」」」」」」」」


ゴワスは体勢を低くして身構え、ゴザルは刀を前方に構えて動きを止める。
赤黒いオーラを纏ったノアは何も言わず、2人の事を睨み付けていた。

観客席の者達は誰1人言葉を発さず、静かに見守っていた。






「は、始めっ!」

「ごわぁああああすっ!」ベリィッ!


開始早々、地面に指を突っ込んだゴワスは、試合場の石畳をひっぺ返した。


「でぁああああああっ!」ボッ!


その後垂直になった石畳に手を付き、ノアに向けて押し放った。


パガァッ!

「参るっ!」ドンッ!


飛来した石畳を、その場から動く事無く、左拳で叩き割った瞬間、刀を手にしたゴザルが駆け出した。


『『『ズルッ…』』』

『『『ヒュバッ!』』』


ノアの後方に飛散した瓦礫の影から音も無く真っ黒い3体の武者鎧が姿を現し、背後から猛然と斬り掛かる。


ガガッ!ガチンッ!

『ふぁんふぇんはっはら!(残念だったな!)』

(初見でこれを!?しかも一太刀は歯で受け止めやがった!?
…だがそれでこそ、でござる!)


斬り掛かってきた武者鎧の三太刀を、ノアは両手と歯で受け止め、そのままゴザルにぶん投げる。


『ぺっ!』ブンッ!ボッ!

「くっ…!?(しまった、視界を塞がれた…)」

「<影装>でごわす!」ボシュゥウッ!


ゴザルに追随する様にゴワスが並び、<影装>とゴワスが叫ぶと、ぶん投げられた武者鎧3体が霧散し、ゴワスの体に影を纏い、鎧と化す。


「でかしたゴワス!(<縮地>発動!)」ドゥッ!

「<影装>完装!加勢するでごわす!(<縮地>発動)」ゴンッ!


ゴザルは地を這うかの様に体勢を低くしたまま<縮地>を発動し、ノアの右足から左鎖骨を斬り抜くつもりで斬撃を放つ。

ゴワスも<影装>の装着を終えつつ<縮地>を発動。急速接近を図りつつ右拳を固め、ノアの左顔面目掛けて殴り掛かる。




ぐんっ!ヒョイッ。

「え?」
「ぬ?」


殴り掛かったハズのゴワスの視界からはノアが消え、それだけでなく全身に妙な浮遊感を得た。

ゴザルは、ノアの右足を斬り落とすつもりで斬り掛かったハズなのに、刀は空を斬り、そのまま宙を舞う。


『小手調べは済みましたか?』

「「!?」」


2人は宙を舞いつつ声のした方を向くと、既に拳を振り被った体勢のノアがそこに立っていた。


『ゴワスさん、先ずはあなたからだ。』

ガヂョッ!「ウブォアッ!?」

ドガガガガッ!

ズザザッ!「…っ、ゴワス!」


肘から先が見えなくなる程の速度で振り抜いたノアの拳は、ゴワスの腹部を直撃。
彼の纏う<影装>が粉砕し、防ぎきれなかったダメージがモロにゴワスを貫いた。

試合場に″破壊不可″が付与されていなければ、ゴワスの腹に風穴が空いていた事だろう。


「うぶっ!?ごぶっ!ぐぁあ…」

「おい!大丈夫でござるか!?」

『意気込みの割に手始めに遠距離攻撃を仕掛けてくるからおかしいと思ったんですよ。』

「「…!」」

『遠距離、近距離、奇襲…
どれが有効なのか調べてたみたいですが、如何でしたか?
恐らくさっきの連携攻撃も、特攻に見せ掛けて罠かカウンターを仕掛けてたのではありませんか?』

(くっ…ゴワスが仕掛けていた<影鬼>を見切ったでござるか…?)



<影鬼>…発動から3秒以内に対象に触れる事が出来れば、対象の影を介してその場に縫い付けるスキル。
類似スキルに<影縫い>があるが、対象に触れる分、効果はこちらの方が上。


「ぶふっ…み、見抜いていたでごわすか…?」

『いや。
妙に特攻気味だったのと、防御を取らせたそうな攻め方だったので、受けるでも攻めるでも無く″流す″事にしました。
都合良く2人とも″流し易かった″のでね。』


ノアが発動したのは通常の<受け流し>では無く、<受け流し・体術>である。

ゴワスとゴザルの両名は突進力を乗せた攻撃に打って出て来たので、その力の方向を操作して流したのであった。
しおりを挟む
感想 1,253

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...