ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~中級冒険者試験~

気配を殺す

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「……握手?」

「そ、握手。友好の現れよ。(リーパー)」

「ふむ…」


手を差し出されたノアは顎に手を当てて少しの間考え込む。


「ま、いっか。」キュッ…


と、一言呟き差し出された手を握ると


バシュゥッ!モワァッ…


リーパーの手首から紫色のモヤが噴出し、一瞬の内に全身を包まれる。


「何かしら仕掛けてくるだろうと予想してたみたいだけど、これは予想「イービルバイパーの毒特有の甘い芳香、差し出した手は義手。
中に刃物か棒状の物を仕込んでますね?」

「っ…(毒が効いてない…?断続的な激痛が走るハズ…というか義手を外せない…!?)」

ミシミシミシミシ…ビキンッ!ビキッ!


噴出された毒のモヤを物ともせず、ノアはリーパーの義手を中に仕込んだ刃物ごと握り潰している為、リーパーは逃げ出す事が出来ずにいた。


「今の行動は開戦の合図と捉えて良いんですよね?」


紫のモヤから覗いたノアの表情は普段通りだが、所々が紫色に変色していた。
だがそれも直ぐ様元の肌色に戻っていく。

と、ここでリーパーの近くで待機していた夫のジャックが一瞬の内に間合いを詰めて来る。


ザッ!

「ブッ!」

ビチャッ!「ぬっ!? 『ジュッ…』ぐぉっ!?」


ジャックが動き出したと同時にノアが口内に含んでいた″ある物″をジャックの顔面に吐き出す。
それは紫に変色した塊であった。


「チッ!(リーパー)」シュバッ!

ボギンッ!ギュルッ!ズンッ!ズズンッ!

「かふっ!?(リーパー)」


逃げ出せないと判断したリーパーは、空いてる手に仕込んでいたナイフを振り、ノアに斬り掛かるも、<刃断ち>を発動してリーパーの義手と中に仕込んでいた刃物ごと破壊するノア。

リーパーの斬り掛かりを回転しつつ回避すると、脇の下、脇腹に肘鉄を合計3発打ち込み、呼吸困難に追い込む。


ヒュドッ!「がっ!?(ジャック)」

ボッ!ドゴッ!「ぶっ!(ジャック)」


その流れでノアは、吐き出された塊に怯んだジャックの目に軽く手刀を打ち込んで一時的に視力を潰しつつ、先程破壊したリーパーの義手を<投擲術>を発動してジャックの腹部にぶつけ、更に怯ませたのであった。

その後


シャキン!ジャキッ!

「【暗殺】相手に何の準備も無しに挑む訳無いでしょう?
取り敢えず勝ちましたがまだやりますか?」


怯んで体勢を崩した2人に、ノアは荒鬼神ノ化身を抜き、2人の喉元に突き付けた。
この間、僅か10秒の出来事であった。


「げほっ…
あはっ、【鬼神】のノア…君はやはり最高だわ!(リーパー)」

「あぁ、最高だ!
今の一連の流れなんて理想的だな!(ジャック)」

「…何でボコられて喜んでるんです…?」


リーパーは脇腹を、ジャックはノアに紫に変色した塊を当てられ、少し爛れた顔を押さえているが、2人共嬉々とした表情であった。

ちなみに先程ノアがジャックに吐き出した紫に変色した塊というのは、顎に手をやった際に口に含んでいた毒消しである。
毒のモヤが体内に吸収される前に毒消しに吸着した物を吐きつけたのであった。


「【暗殺】と言う適正は、多種多様なスキルや技術を身に付ければ必要があるけど、全てを出し切れずにその生涯を終えると言われているわ。(リーパー)」

「【暗殺】とは言え、基本的には闇討ち、奇襲等の小狡い手を用いたモノが殆ど。
計画も練りに練るモノだから最小限の動きで最大限の結果を出す。
今の様に真正面から、しかも事前計画も一切無しの状態から殺り合う事は普通では有り得ないのだよ。(ジャック)」

「今この場は、私達の全てを出し切れる唯一無二の場とも言えるのよ!
こんな機会はそう簡単に得られるモノじゃ無い!嬉しくって痛みなんか感じない位よ!(リーパー)」

「そ、そうですか…」チラッ…


嬉々として話す2人の反応に、ノアは『暗殺対象』と書かれた札を下げ、近くの椅子に座る職員のミゼラに目線を送る。

するとそれに気付いたミゼラがノアの意図を察して返答する。


「今お聞きした様に、【暗殺】のジャックとリーパー夫妻はこの街で3本の指に入る程の戦闘狂です。
熱中するあまり、腕や足の骨1本折れた位じゃ止まらないので見ているこっちはヒヤヒヤモノですよ。
良いですか2人共!あくまで試験ですからね!やり過ぎない様にして下さいね!(ミゼラ)」

「「分かってるって!(ジャック、リーパー)」」

『『ジャキッ!』』


ジャックは両の手にナイフを2本ずつ、リーパーは新たな義手を装着して再びノアへ向けて走り出した。


「…いたぶる趣味は無いんだけど…仕方無いか…」


相手が戦闘狂、しかも多少のダメージ位では怯まないと知ったノアは、やれやれといった様子で構え出した。








(…姿も気配も無い…
今の今まで誰も居なかったかの様な静けさだ…)


構えたノアだったが、意気揚々と駆け出した2人の姿が忽然と消え去った。

この場に居るのはノアと、少し離れた場所に座る職員のミゼラだけであった。


スパッ!ツゥ…

「……。」


ノアの頬に僅かな斬り傷が出来、そこから血が垂れる。
だがノアは動かない。


ドッ!ブシュッ!

「……。」


今度は肩の防具の隙間を縫う様に指の第2関節分の刃物が突き刺さり、鮮血が噴き出す。
だがそれでもノアは動かなかった。


サッサササッ。

(…ねぇどうしたの?急に動かなくなっちゃったけど…?(リーパー))

ササッ。サッサッ。

(…分からん、探りを入れてる様だが俺達は今″気配を殺している。″
幾ら彼でも俺達を探り当てられんだろう。
だがこの状況を彼がどう打破するか見物ではあるがな…(ジャック))


と、お互い息を止め、手話で会話をするジャック、リーパー夫妻。

これは【暗殺】が持つ固有スキル【黒子(クロコ)】と言うスキルである。



【黒子】…【暗殺】の固有スキル。
息を止めている間、自身の姿、気配、体臭から体温まで全てを遮断するものである。



サササッ。

(卑怯にも程があるかもしれんが、彼に対抗出来る唯一の方法とも言える。
もう2、3撃入れたら解除し、時折挟んで彼を翻弄しよう。(ジャック))

サッ。

(了解。(リーパー))


と、伝えた後ジャックはゆっくりとノアへ近付き、ナイフを首目掛けて振り下ろした。





ガッ!ミキッ!ボキッ!ガコッ!ガゴッ!

「おぶぇっ!?(ジャック)」

シュゥウ…

「なっ!?(リーパー)」


不可視のナイフを掴み取ったノアは、続けざまに手首と腕をへし折り、ジャックの顎に掌底を2発打ち込んだ。

その一連の攻撃でジャックは戦闘不能に陥った。

あまりの衝撃に息をしてしまい、ジャックと共にリーパーも姿を現してしまった。


「初めの2発で致命傷与えとけば良かったのに…
たかだか姿と気配と体臭と体温消した位で油断したらダメでしょ。」
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