ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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取り敢えず南へ編

侵入

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~高級宿『羊の数え歌』~


バチンッ。(荒鬼神ノ化身を腰から外す。)

《良いかい契約者様、トラウマの原因はボク達で対処するけど、その間契約者様は悪夢を見続ける事になる。
変な言い方になるけど、起きたらまた1からになっちゃうから、″寝る事だけに集中″してね?》

「…分かった…
分かってないけど分かった事にするよ。
『クリーン』。」

シャララ…(全身に生活魔法『クリーン』を掛ける。)

《うん…
クリストフさんは起きそうになる契約者様を寝かせる様に頑張って欲しい。》

「了解した。(クリストフ)」

《主人、もう一度おさらいだよ。
夢の中では″喜・楽の感情″が好ましい。
最低″普通″で、絶対ダメなのが″怒・哀″だ。
夢への介入は精神的なリンクが大事だから、感情の変動が激しい″怒・哀″はリンクが切れる恐れがあるからね。》

「うん、分かってる。(ミダレ)」

《それに″感情が変動すると、夢の中で行使出来る事″が限られちゃう。
夢の中では″神″になれるかどうかは当人次第だからね。
一応ボクの方でもリンクが切れない様に頑張るし、主人の感情が変動しない様に逐一観察するよ。》


宿に戻った一行、特にノアは武装を外して寝支度を始める。
他の者達は夢魔のイスクリードの指示や事前の取り決めの再確認を行っていた。

そんな中


「ニャーゴ、出て来てくれる?」

ズズズ…にゃーご。

《あれ?抱き枕的要素がいるの契約者様?
精神的リンクを強くする為にボクがその役買う?》

「あ、いや、悪夢を見ると体に力が入っちゃって、物理が効かなそうなニャーゴじゃないと耐えられないんだ…
だからイスクリードを抱いちゃうと多分抱き潰しちゃう…」

《ひぇ…》

にゃーご。


ノアは抱き枕要員であるネコクラゲのニャーゴを招集。
地味にアニマルセラピーとして日頃の癒しとなっていたり、ヒンヤリとしているので単に抱いているだけでも良いものである。(当のニャーゴはたまに嫌がるが。)

寒天の様な身体をしている事から物理が効き辛く、本気でノアが抱き付いても呑気な鳴き声を発している。


モフ…(ベッドに腰掛け。)

「ぅわ…これ気持ちよく寝れるベッドじゃん…」

《それじゃあ契約者様、<睡眠耐性>を切って貰って良い?
寝に入ったのを確認したらボク達が侵入を開始するから。》

「…分かった。
ミダレさん、イスクリード、宜しく頼む。」

「うん。(ミダレ)」
《任せて。》

「ただ…」

「《ん?》」

「″昔の僕を見て、嫌いにならないでね″。
『ガクッ。』」

ボフッ、ズモモ…(フッカフカのベッドに埋もれる。)

「おっとっと…(クリストフ)」


ニャーゴを抱き抱え、2人に後を託したノアは今まで掛け続けていた<睡眠耐性>を解除してベッドに倒れ込んだ。

ずっと耐えていたのだろう、睡魔に身を任せたノアはピクリとも動かず、クリストフがその後の姿勢を正したりシーツを掛けたりしていた。





《凄い。この短時間でもう夢を見始めてる。
ただ、長い間無意識的に意識して直ぐに覚醒出来る様に心掛けていたからか、頭はしっかり働いていて眠りが浅い。
つまり契約者様は気絶でもしない限り、どう頑張っても夢を見てしまうんだな。》

「なる程、長年の無意識が良くない方向に至ってしまったのですな。(クリストフ)」

「それじゃあ一刻も早くトラウマを解消してあげないと…
イスクリード、早く夢の中へ入ろう。(ミダレ)」


ミダレが急かす中、眠りについたノアを観察し、夢の中へ入るタイミングを窺うイスクリード。

だが夢への介入は割りと直ぐにやって来た。


《よし、それじゃあ侵入しよう。
主人は契約者様の近くに腰掛けて手を握って目を瞑って。》

「うん、良いよ。(ミダレ)」

《じゃあ″呪文″を唱えて。》


「《『″夢を共に(エヴィ・アンサンブル)″』》」











~夢の中・上空150メル~


ヒュォオオオオッ!(落下中。)

「!?!?!?(ミダレ)」

《主人、落ち着いて。
″あり得ない展開″が起こるのが夢の中だよ。
取り敢えず鳥にでもなったつもりで飛んでみると良いよ。》

「と、飛んだ事無い…(ミダレ)」

《じゃあ契約者様(ノア)に抱き抱えられて飛んでる所を意識して。》

「う、うん…(ミダレ)」

スゥウウゥゥゥ…(減速。)

「あ、なる程…(ミダレ)」


夢の中へ侵入したミダレとイスクリードは、何故か地上150メルから落下している所からスタートした。

訳が分からずいきなり感情が不安定になり掛けるが、イスクリードの助言で″飛んでる″事をイメージした事で落下死は免れるのだった。


『『ふよふよ…』』(地上50メルを浮遊中。)

「…にしても何でここから…?(ミダレ)」

《契約者様が見ている夢だからね…
何だろ、何かの依頼中かな?》


空を浮遊中の2人は眼下を見回し状況を確認。
何処かの山中の様だが当のノアの姿は何処にも無かった


ヒュンッ!(何かが横を高速で通過。)

「《え?》」


かに見えたが


ドズンッ!(着地。)

「た、高い…高すぎるよおとーさん…(5才位のノア)」

「はっはっは!そうかそうか!
じゃあ今度は200メル位まで跳んでみようか?(父レドリック)」

「いやーだ!山より高い所やーだ!」



「わ、わー!ちっちゃなノア君だぁ、可愛い!(ミダレ)」

《あぁ、あの人が契約者様のお父さん…
契約者様の無茶苦茶さって、お父さん譲りだったんだね。
…あれ?2人の後ろを何か高速で近付いてる…》

「え!?モンスターかな!?(ミダレ)」



ズザザッ!

「ほーらレド、ノアちゃんが怖がってるでしょ、下ろしてあげなさいな。(母アミスティア)」

「はっはっは!すまんすまん。(レドリック)」



「…あ、アミスティアさんだ。(ミダレ)」

(《契約者様の無茶苦茶さは家系なんだね…》)


5才位のノアを肩車して地上150メルへと跳躍する父レドリックと、山中を疾走して着いてくる母アミスティア。

家族3人で一体何をしているのかと言うと


「あ~晴れて良かったわ~。
絶好のピクニック日和ね。(アミスティア)」

「森の番人の依頼も無事終わったし、謎の魔力切れも解消されたし、言う事無しだ。(レドリック)」



《どうやらピクニックに来た時の夢を見てるみたいだね。》

「じゃあ今ノア君は楽しい夢を見てるっちゃね。(ミダレ)」

《…だと良いけど…》



トテテ…

「おとうさん、おかあさん待ってよぉ…」

「あ、ごめんごめん。(アミスティア)」
「ほら、もうちょっとで頂上だ、頑張れ~ノア。(レドリック)」

「うん!…っ、コホコホッ…」


父レドリックとの高高度肩車から下りたノアが2人の後を追い掛ける。
砂埃を吸ったのか、ノアは小さく咳をする。


「あら?ノアちゃん風邪?(アミスティア)」

「もしかして昨日お腹出して寝たんじゃないか~?(レドリック)」

「そんな事…ゴボッ!」ビチャチャッ!


咳き込んでいたノアは口から大量に血を吹き出した。
この場面は、ノアの病気が発症した時のモノであった。



《…始まったね…》
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