ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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ヴァリエンテ領・大規模氾濫掃討戦編~街(前哨基地)建設~

到着

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~6時間後・ヴァリエンテ領東門前~


「…結局何だったんでしょうね、さっきの光は…(カルル)」

「お婆様の【霊視】では凶兆の類では無いと言っていたし、教会の【修道女(シスター)】の方々は『暖かな光』と言っていたから心配は無いだろう…
そうであって欲しい…ってのが本音だがな…(兵士)」

「そう…ですね…
何せ″あの光″が現れてからというものの…(カルル)」

「…っと、その話はまた後だ、誰か来たぞ。(兵士)」


薄暗く、人気の無い街道を前にして佇む2人の影があった。
彼等はヴァリエンテ領へと続く門の番をしている兵士であった。

その内の1人、名をカルルと言い、ヴァリエンテ領領主ヴァリエンテ・ルルイエの子息である。

本来なら一般の兵に混じって業務をこなしている事等あり得ない事なのだが、最近″やらかした″罰として一般兵に混じって訓練の日々を過ごしている。

ヴァリエンテ領はアルバラストを中心とした場合、西の端に位置し、数千メル級の山々が連なる地域の麓から少し離れた場所にある謂わば辺境の地である。

街道があるとは言え、この地に訪れる者は限られている。
雑貨を積んだ商隊や北部から南下してきた旅商人、観光目的でやって来た冒険者位である。

ただでさえ人通りが少ないというのに、薄暗くなってきた夕暮れ時にヴァリエンテ領を訪れる者なぞ、以前までは皆無であったのだが、今は状況が違っていた。


ザッザッザ…

「どうされましたかこんな時間に…
確か貴方は先日″志願兵″に応募して下さった方では…?(兵士)」

「はい…そうです…
ですが、辞退しようと思って参りました…」

「「…そう…ですか…」」


2人の下を訪れたとある男性の言葉に、揃って肩を落とす。

このとある男性は、先日ヴァリエンテ領が広く呼び掛けていた″志願兵″の募集に応じてくれた者なのだが、本日″志願兵辞退″所か大荷物を抱えてこの地を去る決意をしたのだと言う。

残念そうにしている2人だが、『またか』という心境である。

何故なら″志願兵辞退″にやって来た者は本日だけで″12人″になるからである。





「申し訳ありません…
家族と話し合った結果、北に向かう事になりまして…」

「…事情は色々と御座いますでしょうから深くはお聞き致しません。
正直何人か貴方の様に辞退される方は居りましたので…(兵士)」


″【魔王】出現″が世界的に報じられた時は日常の変化は大して感じられなかった。

だが″【勇者】軍″が結成され、進軍を開始した後からヴァリエンテ領周辺地域では日常が音を立てて壊れていくのをまざまざと見る事になった。

【勇者】軍の進行先では常に黒煙が上がり、昼夜を問わず遠くから悲鳴や怒声、助けを求める声等が響く。
数日もすればそれらの声が聞こえなくなった代わりに、嗅覚でもってそれらの惨状のその後を知る事になった。

ちなみに、本当かどうか定かでは無いが、ヴァリエンテ領は辺境にある事から″旨味″が無いと認識され【勇者】軍が迫ってくる事は無かったという。

ヴァリエンテ領では、熱りが冷めた頃合いで生存者の捜索並びに救助を行おうとしたのだが、正にその時、イグレージャ・オシデンタルが【魔王】からの報復を受けたのである。

ヴァリエンテ領は、旧イグレージャ・オシデンタルから3時間程の距離である為、直接的な被害は無かったものの、イグレージャ・オシデンタルへと続く街道の消滅、商隊のルート変更、地下水脈・農業・畜産用水の破壊や、アンデットモンスターによる被害等々、生存者の捜索並びに救助等と言ってられなくなった。

被害軽微なヴァリエンテ領でこれなのだから周辺地域での被害は計り知れない。

甚大な被害で故郷を離れる者、【魔王】の報復を恐れて別の地に移る者、理由は様々あれど、ヴァリエンテ領の一問題に付き合ってられる訳が無いのである。





ペコ…(申し訳なさそうに頭を下げて去る男性。)


「…これで12人…
今日までで180人全員が辞退しましたね…(カルル)」

「…仕方無いと言えば仕方の無い事ではある。
それを見越してルルイエ様が方々に協力を仰いでくれている。
…とは言え、志願兵が望めない状況で予想されている″大氾濫″のモンスターは″タチの悪い虫系モンスター″。
今回はそれなりに覚悟が必要であろうな。(兵士)」


本日までに応募は180人おり、そして先程180人目の志願兵辞退者が出て来てしまった。

ただでさえ大氾濫に対しては雀の涙程度の人数であったのに、それが0となったのだ。
その事実に暗い表情となる2人。




「始まる前からそんな暗い表情でどうする。
その表情を見た領民が不安がるでしょう?」

「「っ!?」」


人の気配が一切無いと思っていた薄暗い街道の少し先に、ぼんやりと2つの影が見える。

1つは小柄な人影で、もう1つは大柄なエリンギの影であった事に、一瞬2人の体がビクついた。

だが、ルルイエから事前に聞いていた協力者の特徴を思い出し、直ぐに冷静さを取り戻す事になる。

とは言え


「いやいや…ルルイエ様が手紙を出したのはつい先日だぞ…?
馬でもそれなりの日数掛かると言うのに明らかに早すぎる…(兵士)」

「走ってきました。」

「え?(カルル)」

「走ってきましたぞ。(クリストフ)」

※本当に走ってきました。


【魔王】と【魔王】擬きの件を早々に切り上げてきたノアは、旧イグレージャ・オシデンタルを発ち、走ってヴァリエンテ領を目指し、夕暮れ頃に到着した。


『『『ズズズズズ…』』』

「それじゃ各々身分確認の方済ませて下さい。」

「「「「「はーい。」」」」」


影の中から姿を現した一行に入門の許可を薦め、ノアはカルルの下へ向かう。


「アルバラスト振りですね。」

「…そのアルバラストで盛大にやらかしてしまったと言うのに、呼び掛けに応じてくれて感謝する。
″先に到着したお連れ方共々″ヴァリエンテ領はあなた方を歓迎します。(カルル)」

「え?″先に到着したお連れ方″…?
誰か先に到着してるのですか?」

「ん?会ってないのか?君の″両親とその連れ″が先程到着したんだが…?(カルル)」

「え…?」


前日の朝方村で会ったハズの両親が既に到着している?
と、一瞬困惑するノアだが、『走ってきた』ノア達に対し、両親は『真っ直ぐきた』ので間違いでは無い。
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