宇宙人の憂鬱

こみつ

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本格侵攻 序章

宇宙人の憂鬱 43.

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わたしはゾンビの目を観察した。

ゾンビは眼球を動かさなかったから、目で見て目標を攻撃するようなものではないようだ。

わたしはゾンビが何を目標に移動しているのか、確認したかった。
おそらく何も目標など無いのかもしれない。
わたしはゆっくりと後ずさりながら、手の届く位置にあったお玉を放り投げてみた。

大きなスプーン、お玉は、ゾンビの後ろに飛んでいった。
狙って投げた方角よりも、少しズレてしまった。
あわよくば、ゾンビの行動を阻害できると思い、ゾンビの右側に向かって投げたつもりが、手元が狂って真後ろに行ってしまった。

業務用の冷蔵庫に当たって、カランと音を立ててから、床に落ちた。
床でも跳ねて、音が鳴った。

ゾンビの動きが一瞬止まって、方向転換した。

音で判断している?

2体のゾンビがお玉に興味を示しているすきに、わたしは距離をとって、出来るだけ音を立てないように、店の玄関へと急いだ。

足をひっかけて、大きな音を立ててつまずいてしまった。
ゾンビの注意がこちらに向いた。

やはり音で狙いを定めているようである。
ルクスがわたしとのシンクロを強めてきた。

わたしの身体がほんの一瞬、白く輝いた。
自分自身驚いていると、ルクスの声が、頭に響いた。

ーこの死体、今はあんなだけれど、もう少し時間が経つと、頭が良くなるし、動きも良くなる。ここで倒しておかないとー

倒すっていってもどうやって?

ー 弱点はある。先ず一つ。死体を焼く事。それともう一つ。塩を口にすり込んで。そうすれば、取り憑いた悪霊が逃げ出すはず ー

簡単に言ってくれる。
その他に注意点は?
例えば噛まれるとゾンビになるとか。

ーその心配はないわよー
ルクスの返事に、わたしは少しだけ安心した。

ーゾンビにはならないけれど、死んでしまう。そして、魂は地獄へ持っていかれるのよー
わたしの安心を返せ!と叫んでも詮無き事。

噛まれるとそうなるの?
どうやって口に塩をすり込むのよ。

ー死体を燃やすってのは、考えないの?ここはガスもあるしー

ルクスって、悪霊なんじゃ無いかって、時々思う。

それは無いわ。
それをやったら、火事になってしまうじゃない。
ダメだよ。
火事はダメ。

ーそう言うと思った。あなたが店ごと吹き飛ばそうって言う人間だったら、わたしは教えなかったけれどねー

ゾンビの動きがまだゆるいうちに、手近にあったフライパンや鍋を投げて音でゾンビを誘導しながら、わたしは塩を探した。
中華料理店だから、塩など必ずどこかにあるはずだ。
調理台の引き戸や、戸棚を探してゆくと、そこまでしなくても良い位置に塩の入った袋が置いてある事がわかった。

調理をしているときに取りやすい所に置かれていた。
わたしは素早く塩入の袋を取った。
これをどうやってゾンビの口の中に放り込むか。
しかも2体いるのだから、考えないと。
頭をフル回転させても、わたしのセンスでは、妙案が浮かばなかった。
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