5 / 34
4頁
しおりを挟む
怪我をされたら困るとかで、体育の授業は基本座学になる。
別教室に移動していると、前から知らない人が歩いてきた。
「神子だかなんだか知らないけど、ひとりだけ姫待遇かよ」
すれ違いざま、そんな言葉をかけられる。
「ちょっと、そんな言い方──」
「私なら大丈夫です。ありがとうございます」
いつも笑顔で、上品に。
……できるわけない、なんて言える環境ではなかった。
「神子様のお力はこの村には不可欠なもので──」
座学というのは地獄だ。
神子の歴史や能力の使い方、細かい作法までみっちり教えこまれる。
(こんな窮屈な生活がお望みなら変わってあげたくなる)
「…神子様、お客様です」
「承知いたしました」
授業中だろうと呼び出され、いつも中途半端に終わる。
怪我や病気を治して喜んでもらえるのはいいけど、こんな綺麗な話ばかりではない。
「大金を払ってくれる者から順に治せばいいだろう」
「神子様に聞こえたら叱られますよ」
「あの小娘は俺たちの言うことならなんでも聞く。金のなる木だからな」
こんな強欲な男の血が流れていると思うと吐き気がする。
(今なら見張りが甘くなるよね)
昨日見たフードの人。
もしかしたら、今日も山にいるかもしれない。
もっと話してみたくて真夜中山道を走った。
××××
「……今夜はここで野宿しましょうか」
ルナに話しかけて焚き火を囲む。
ふたりでいる時間は本当に楽しい。
だけど、静寂は打ち破られた。
「こんなところで何してるの?」
「……別に」
フードをかぶっておいてよかった。
「どうして街に来ないの?」
まさか祟りを呪いの力で壊すために山を登っています、なんて言うわけにはいかない。
「僕にはここでの仕事がありますから」
「いいなあ、私もやってみたい」
……あんなに愛されて、僕が持っていないものをなんでも持っていて、祝福の加護を受けた人間が?
「お帰りください。ここは危険です」
「もうちょっとここにいさせて。息抜きしたらちゃんと戻るから」
…息抜き?
さっきだって呪いの影の力を使って邪気を喰らった。
村の人間たちとのうのうと暮らしている、世間知らずなお嬢様が来るところじゃない。
少なくとも、息抜きなんてする場所じゃないのに誰も教えていないのかな。
「休憩が必要でしたら別の場所へ行かれてはいかがですか?」
「ここだとあなたしかいないから、休むのに丁度いいんだもん」
ここは命のやりとりをする場所だ。
人間から追い回されたり捨てられたりした動物たちがひっそり暮らしていて、邪気を纏った相手から逃げ隠れしている。
僕は自分の陰で対処できるけど、神子の神聖な力で何ができるんだろう。
「…そろそろ休みたいのです。どうかお願いします」
「分かった、じゃあまた明日」
……明日はもっと奥へ進もう。
もう二度と檻の中の小鳥に会わなくてすむように。
──その日、村人がひとり不審な死を遂げた。
村長たちは事件を隠すことにしたが、不穏な噂が流れはじめる。
…もしかすると、あの穢れた娘が自分たちを呪っているのでは、と。
別教室に移動していると、前から知らない人が歩いてきた。
「神子だかなんだか知らないけど、ひとりだけ姫待遇かよ」
すれ違いざま、そんな言葉をかけられる。
「ちょっと、そんな言い方──」
「私なら大丈夫です。ありがとうございます」
いつも笑顔で、上品に。
……できるわけない、なんて言える環境ではなかった。
「神子様のお力はこの村には不可欠なもので──」
座学というのは地獄だ。
神子の歴史や能力の使い方、細かい作法までみっちり教えこまれる。
(こんな窮屈な生活がお望みなら変わってあげたくなる)
「…神子様、お客様です」
「承知いたしました」
授業中だろうと呼び出され、いつも中途半端に終わる。
怪我や病気を治して喜んでもらえるのはいいけど、こんな綺麗な話ばかりではない。
「大金を払ってくれる者から順に治せばいいだろう」
「神子様に聞こえたら叱られますよ」
「あの小娘は俺たちの言うことならなんでも聞く。金のなる木だからな」
こんな強欲な男の血が流れていると思うと吐き気がする。
(今なら見張りが甘くなるよね)
昨日見たフードの人。
もしかしたら、今日も山にいるかもしれない。
もっと話してみたくて真夜中山道を走った。
××××
「……今夜はここで野宿しましょうか」
ルナに話しかけて焚き火を囲む。
ふたりでいる時間は本当に楽しい。
だけど、静寂は打ち破られた。
「こんなところで何してるの?」
「……別に」
フードをかぶっておいてよかった。
「どうして街に来ないの?」
まさか祟りを呪いの力で壊すために山を登っています、なんて言うわけにはいかない。
「僕にはここでの仕事がありますから」
「いいなあ、私もやってみたい」
……あんなに愛されて、僕が持っていないものをなんでも持っていて、祝福の加護を受けた人間が?
「お帰りください。ここは危険です」
「もうちょっとここにいさせて。息抜きしたらちゃんと戻るから」
…息抜き?
さっきだって呪いの影の力を使って邪気を喰らった。
村の人間たちとのうのうと暮らしている、世間知らずなお嬢様が来るところじゃない。
少なくとも、息抜きなんてする場所じゃないのに誰も教えていないのかな。
「休憩が必要でしたら別の場所へ行かれてはいかがですか?」
「ここだとあなたしかいないから、休むのに丁度いいんだもん」
ここは命のやりとりをする場所だ。
人間から追い回されたり捨てられたりした動物たちがひっそり暮らしていて、邪気を纏った相手から逃げ隠れしている。
僕は自分の陰で対処できるけど、神子の神聖な力で何ができるんだろう。
「…そろそろ休みたいのです。どうかお願いします」
「分かった、じゃあまた明日」
……明日はもっと奥へ進もう。
もう二度と檻の中の小鳥に会わなくてすむように。
──その日、村人がひとり不審な死を遂げた。
村長たちは事件を隠すことにしたが、不穏な噂が流れはじめる。
…もしかすると、あの穢れた娘が自分たちを呪っているのでは、と。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―
くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。
「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」
「それは……しょうがありません」
だって私は――
「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」
相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。
「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」
この身で願ってもかまわないの?
呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる
2025.12.6
盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる