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本篇・1年目後期
夜桜に願いを。弥生side
『不安でしかたない』...そういう表情をしている葉月に、私はどう声をかければいいのか分からなかった。
間違っても『頑張れ』とは言いたくない。
(というか、今頑張ってるから不安になってるわけだし...)
「今日、どんなことがあった?」
「え、えっと...なんだか沢山レポートが出ていて、勉強についていけるのか微妙で...それから、家庭科が不安、かな」
「家庭科?」
葉月は小さく頷いて、少し青くなった顔で続ける。
「調理実習があるらしくて...」
そこまで聞いて、なんとなく察した。
葉月は知らない人たちの中に一人で入っていくのが苦手だと、随分前に聞いたのを思い出す。
(知らない人ばかりとやるのは、たしかに不安かもしれない)
「...私も、発達と保育で一度だけ調理実習がある」
「そうなの?」
「私の場合は、楽しみだなって思ってた」
「...!」
楽しそうに料理をする人たちを見て、本当に羨ましかった。
私がその中に入れるという可能性は零だったわけだけれど...それでも、一度くらいはという憧れはあった。
「もしかしたら、これから葉月に私以外の友だちができるかもしれない。...もし調理実習までにそうなったら、また違うのかもしれない」
「弥生...」
「今はまだ、深く考えなくても大丈夫なんじゃないかな?」
もっと上手く言えればよかったのだけれど、これ以上の言葉が見つからなかった。
「それに、今の葉月は一人じゃない。...でしょ?」
(無意識のうちに傷つけてないかな...)
先生がいて、他の生徒たちがいて...私がいて。
だから葉月は、絶対に一人じゃない。
そのとき、ひらひらと花びらが舞い降りてきた。
「この木、桜だったんだ...」
「...そっか、葉月は初めてだもんね。この桜、なかなか散らないんだよ」
花びらを掴もうと手を伸ばしてみたけれど、するりと指の間を抜けていってしまった。
「...ね、知ってる?桜の花びらを掴めたら願いが叶うんだって」
「そうなの?」
(本気に捉えそうだな...)
「あくまで願掛け的なものだけどね」
葉月はそうなんだと言いながら、空に向かって手を伸ばす。
「掴めた...!」
「それならきっと、葉月の願いは叶うよ」
「あ...!お願いするの、忘れた...」
「掴めたなら大丈夫だよ。...多分」
いつものような和やかな会話が続く。
いちご大福もカツサンドもなくなってきた頃、ざあ、と風がふいて花びらが私の手のなかに吸いこまれるように入ってきた。
(どうか葉月が、楽しく過ごせますように)
「弥生、その花びら少しだけかりていい?」
「...?うん、いいけど」
「明日返すね」
明日?どういうことだろうと思いながら葉月に家に帰るよう伝える。
桜の下、また明日と言えるこの瞬間がとても心地よく感じる。
私は一人レポートを仕上げながら、もう少しここにいようと思ったのだった。
間違っても『頑張れ』とは言いたくない。
(というか、今頑張ってるから不安になってるわけだし...)
「今日、どんなことがあった?」
「え、えっと...なんだか沢山レポートが出ていて、勉強についていけるのか微妙で...それから、家庭科が不安、かな」
「家庭科?」
葉月は小さく頷いて、少し青くなった顔で続ける。
「調理実習があるらしくて...」
そこまで聞いて、なんとなく察した。
葉月は知らない人たちの中に一人で入っていくのが苦手だと、随分前に聞いたのを思い出す。
(知らない人ばかりとやるのは、たしかに不安かもしれない)
「...私も、発達と保育で一度だけ調理実習がある」
「そうなの?」
「私の場合は、楽しみだなって思ってた」
「...!」
楽しそうに料理をする人たちを見て、本当に羨ましかった。
私がその中に入れるという可能性は零だったわけだけれど...それでも、一度くらいはという憧れはあった。
「もしかしたら、これから葉月に私以外の友だちができるかもしれない。...もし調理実習までにそうなったら、また違うのかもしれない」
「弥生...」
「今はまだ、深く考えなくても大丈夫なんじゃないかな?」
もっと上手く言えればよかったのだけれど、これ以上の言葉が見つからなかった。
「それに、今の葉月は一人じゃない。...でしょ?」
(無意識のうちに傷つけてないかな...)
先生がいて、他の生徒たちがいて...私がいて。
だから葉月は、絶対に一人じゃない。
そのとき、ひらひらと花びらが舞い降りてきた。
「この木、桜だったんだ...」
「...そっか、葉月は初めてだもんね。この桜、なかなか散らないんだよ」
花びらを掴もうと手を伸ばしてみたけれど、するりと指の間を抜けていってしまった。
「...ね、知ってる?桜の花びらを掴めたら願いが叶うんだって」
「そうなの?」
(本気に捉えそうだな...)
「あくまで願掛け的なものだけどね」
葉月はそうなんだと言いながら、空に向かって手を伸ばす。
「掴めた...!」
「それならきっと、葉月の願いは叶うよ」
「あ...!お願いするの、忘れた...」
「掴めたなら大丈夫だよ。...多分」
いつものような和やかな会話が続く。
いちご大福もカツサンドもなくなってきた頃、ざあ、と風がふいて花びらが私の手のなかに吸いこまれるように入ってきた。
(どうか葉月が、楽しく過ごせますように)
「弥生、その花びら少しだけかりていい?」
「...?うん、いいけど」
「明日返すね」
明日?どういうことだろうと思いながら葉月に家に帰るよう伝える。
桜の下、また明日と言えるこの瞬間がとても心地よく感じる。
私は一人レポートを仕上げながら、もう少しここにいようと思ったのだった。
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