満天の星空に願いを。

黒蝶

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本篇・春休み

ひたすら願いを。弥生side

独りになった部屋、私はそっと空を見あげる。
「...」
(流れ星、か)
望遠鏡を片づけようかとも思っていたけれど、やっぱりやめた。
空に目を向けると、流星群でもないはずなのに沢山の星が流れてきている。
(...どうか、葉月が幸せになれますように)
私を辛い思いから解放して、とは願わなかった。
そうならないことは、分かりきっているからだ。
「...今のうちに書き進めようかな」
原稿用紙を開くと、ぱらぱらと音をたてて崩れはじめる。
それはまるで、私の心のようだった。
実は私の心は限界ぎりぎりだったりする。
...本当は病院にだって行っている。
「は、」
息が苦しい。薬を飲まなければ。
(もう嫌だ)
こんなにも残酷な世界が、不公平不平等が当たり前な世界が、努力が報われない世界が...全部全部、なくなってしまえばいいのに。
「...っ」
望遠鏡を持つ手が震える。
葉月は眠ってしまったようで、本当によかった。
こんなにかっこ悪く泣いているところなんて、見られたくないから。
眠れなくてずっと体を左右に動かしていると、いつの間にか空には太陽が昇りはじめていた。
「おはよう...」
「早いね、葉月」
「そうかな?...私もご飯作るの、ちゃんとお手伝いしたい」
「それじゃあ、スープの具材を切ってもらおうかな」
葉月を見ていると、なんだか心安らかに過ごせるような気がする。
「...二人で作るとやっぱりあっという間だね」
「うん!それに、すごく楽しい...!」
さっきまで寝惚けていたはずの葉月は、何故かご機嫌だった。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
二人で黙々と食べすすめていると、葉月が口を開く。
「...美味しい」
「それならよかった」
「私、頑張って一回あそこに行ってくるよ」
「...うん、それがいいと思う」
あそこがどこなのか、言われなくても分かる。
たとえ分かりあえなかったとしても、戻ってこないとなると『行方不明』という扱いをされる可能性を否定できない。
(家族のことに干渉できない国家機関の人間に、まともじゃない奴等のことなんて分からないだろうに)
経験上、それはよく分かっている。
こういうときだけそんな親に限っていい子になることも...環境について質問してくるのに、介入できないと言ってくることも。
「駅まで送る」
「ありがとう」
葉月には傷ついてほしくないから。
だから私は、せいいっぱい笑ってみせよう。
...たとえそれが、偽りで塗り固められたものだとしても。
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