満天の星空に願いを。

黒蝶

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本篇・1年目前期

予測に願いを。弥生side

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「ああ、おはよう」
職員室で配布物の確認をしていると、背後から声をかけられる。
「...おはようございます」
一応答えはするけれど、どうしてずっと見つめているのだろう。
気にしすぎなのかもしれないけれど、そんなに知らない相手に見つめられるのは不快だ。
(ただ、それを言う訳にはいかないし...)
逃げるように職員室を出ると、そこには葉月が立っていた。
「弥生...」
「おはよう。ここで待ってるから、一緒に行こう」
「うん!」
初老の教師は葉月のことも見ていて、なんだか嫌な気分になった。
距離感が分からないのだろうなと思いつつ、何かおこりそうな予感はする。
(...自分に妙に自信があるタイプ、かな。何が間違っているのか直接言われないと分からない、場を察することができないタイプ...)
それが悪い方向に出ると、もう手がつけられない。
本人に悪気はないわけで...どうすればいいのか分からない。
ただ一つ分かるのは、通信制ここ向きではないことだ。
色んな事情の人たちが集まる通信制ここでは、ある程度察することが必要になってくる。
(家庭事情が複雑な人に平気で斬りこんでいきそうだし、いじめについても斬りこんできそうだな...)
『土足で踏みいられたくないことに踏みこみすぎるタイプ』としか表現のしようがない。
「弥生?」
「ああ、ごめん。...寝不足かもしれない」
「大丈夫?」
「もう平気。ありがとう」
変なことを言って、葉月の不安を煽りたくない。
そんなことを考えながら、体育館へと急ぐ。
朝から、それも二時限目ではなく一時限目というのが少し怠いような気がした。
「弥生、もういいよ」
「...それじゃあ打つよ」
体育はやっぱりバドミントンで、そこは少し安心した。
なれないものだと、運動音痴が目立ってしまうから。
『下手くそだな...』
相手にとって然り気無い一言でも、私にはぐっさりと刺さって抜けることはなかった。
そうとも知らずに、毎回ペアを組んでと言われるのが少し辛かった。
(お陰で少しはマシなフォームになったからいいけど)
重心を上手くのせ、スマッシュを放つ。
試合では、なんとかそういうことができた。
辛かったことがきちんと生きている。
今はそれだけで充分だった。
「はい、それじゃあ次回はスポンジみたいなのを使うテニスをやってみましょう」
...テニス?
嫌な予感しかしない。
けれど、このときはなんとかなると思っていた。
二人ならと、そう思っていた。
あんなことになるなんて、愚かな私はまだ気づいていなかった。
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