満天の星空に願いを。

黒蝶

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本篇・1年目前期

久しぶりの月夜、なんだか懐かしく感じた。

記録
『最近、少しだけ調子がよくなってきた。
まだまだできないことの方が多いけれど、前期のレポートを少しずつやっている。
もうやったところで何の意味もないけれど、私にとっては意味のあるものにしたい。
後期に繋げる為に。
...もう一度、弥生に会う為に』

暑くて暑くて仕方なくなってきたこの頃。
「...アイス、食べたいです」
「はいよ。抹茶でいい?」
いつもの和菓子屋さんで、毎年食べるものを注文する。
この時期にしかない、特別メニューだ。
「ありがとうございます」
こだわりのアイス...堪らなく癖になるのだ。
毎年毎年、いつの間にか買ってしまっている。
(ここの店員さんとも、かなり仲良くなったな...)
大木の下、独りアイスを頬ばる。
「...やっぱりいい」
一口ずつ食べながら、初めてあの店に行った日のことを思い出す。
『あら、ずぶ濡れじゃない...!いいからここで休んでいきなさい』
『...ありがとうございます』
はじまりは、ある年の冬のそんなことからだった。
バケツの水を背中からかけられたのが原因だったけれど、それを誤魔化す為に傘もささずに歩いたのがきっかけだった。
タオルをかしてくれて、温かいお茶を出してくれて...。
何もしないのは申し訳なくて、だからいちご大福を買って食べてみた。
何の味もしないと思っていたのに、そのときの大福は涙が出るほど美味しかった。
...実際、帰り道で泣いてしまったのは衝撃的だった。
それ以降ずっと常連で、毎日のように通っている。
今では、店長さんや店員さんだけではなく、アルバイトの人まで全員の顔と名前が一致するくらいになった。
私が今も生きているのは、あのお店のおかげなのだ。
(...やっぱりこの時期になるとアイスもいいな)
夜、そんなことを独り考える。
勿論大福も食べるけれど、どちらも食べたかったのだ。
そうこうしているうちに、町は暗く塗りつぶされていく。
私にとっては、そちらの方が落ち着く。
物事を考えるときは、できるだけ暗い方がいい。
「...」
久しぶりに少しの灯りで書きすすめていく。
早く仕上げたくて、完成したものを誰かに見てほしくて...ひたすらに手を動かす。
口の中で大福が溶けて、一つ、また一つと胃袋に消えていく。
月明かりの下、そんな時間を過ごすのは...悪くない。
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