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遡暮篇(のぼりぐらしへん)
番外篇『屋敷の主と遣い魔の話』
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私の主人は主人らしくない。
「シェリ、もし調子がよければ一緒にティータイムを過ごさない?」
「え、いい、ですか...?」
「勿論よ。さあ、どうぞ」
まだ怪我が完治した訳じゃない私を、ケイト様はいつもの柔らかい声で誘ってくれる。
それにしても、主人とお茶をする使用人なんて他にいるのだろうか。
そんなことを考えながら、頼まれたお茶の用意だけ済ませる。
「それじゃあいただきましょうか」
「は、はい...」
もう無理だと絶望していた頃のことを忘れたわけではない。
『あなた、私のところに来ない?』
そんな優しい言葉をかけられて、どれくらいの時が流れたのだろう。
今は辛いことよりも、そのときのことを思い出す。
遣い魔なんて使い捨てにされてしまっても仕方がないはずなのに、この方は私のことも他の子も決して見捨てたりしなかった。
『文字の書き方がとても上手になったわね。次は一緒に紅茶を淹れる練習をしましょうか』
『は、はい...』
ケイト様はその頃から変わらず綺麗な方だ。
誰にでも平等に接して、時には無慈悲な判断を下すこともある。
『あなたは人間を騙し傷つけた。...それは立派な犯罪行為よ』
ただ、いつだってそんなときのケイト様は悲しそうなのだ。
ぼんやりしていると、お皿いっぱいにカラフルなものがちりばめられて運ばれてくる。
「このマカロン私が焼いたの。以前よりは美味しくなっていると思うのだけれど...」
「い、いただき、ます」
相変わらず言葉はつまりながらでないと話せないのに、それでもケイト様は怒らない。
ずっと待っていてくれるし、最後までちゃんと言葉を聞いてくれる。
そのことがとても嬉しくて、これからもずっとできることをやっていこうと思えるのだ。
「...おいし、です」
「それならよかった。でも、お菓子はあなたみたいに上手に作れないわ...」
「今度、一緒に...」
「そうね。コツを教えてくれる?」
「...はい」
ふたりでするのはいつもそんな話で、基本的には可愛いものやもふもふした生き物...そして、最近は共通の知り合いの話をする。
「最近不便はない?」
「楽し、です」
「それならいいけど、何かあるときは遠慮なく休みをとってね」
「ありがとう、ございます」
私の主人は主人らしくない。
だからこそ、色々な人たちから慕われているのだ。
「シェリ、もし調子がよければ一緒にティータイムを過ごさない?」
「え、いい、ですか...?」
「勿論よ。さあ、どうぞ」
まだ怪我が完治した訳じゃない私を、ケイト様はいつもの柔らかい声で誘ってくれる。
それにしても、主人とお茶をする使用人なんて他にいるのだろうか。
そんなことを考えながら、頼まれたお茶の用意だけ済ませる。
「それじゃあいただきましょうか」
「は、はい...」
もう無理だと絶望していた頃のことを忘れたわけではない。
『あなた、私のところに来ない?』
そんな優しい言葉をかけられて、どれくらいの時が流れたのだろう。
今は辛いことよりも、そのときのことを思い出す。
遣い魔なんて使い捨てにされてしまっても仕方がないはずなのに、この方は私のことも他の子も決して見捨てたりしなかった。
『文字の書き方がとても上手になったわね。次は一緒に紅茶を淹れる練習をしましょうか』
『は、はい...』
ケイト様はその頃から変わらず綺麗な方だ。
誰にでも平等に接して、時には無慈悲な判断を下すこともある。
『あなたは人間を騙し傷つけた。...それは立派な犯罪行為よ』
ただ、いつだってそんなときのケイト様は悲しそうなのだ。
ぼんやりしていると、お皿いっぱいにカラフルなものがちりばめられて運ばれてくる。
「このマカロン私が焼いたの。以前よりは美味しくなっていると思うのだけれど...」
「い、いただき、ます」
相変わらず言葉はつまりながらでないと話せないのに、それでもケイト様は怒らない。
ずっと待っていてくれるし、最後までちゃんと言葉を聞いてくれる。
そのことがとても嬉しくて、これからもずっとできることをやっていこうと思えるのだ。
「...おいし、です」
「それならよかった。でも、お菓子はあなたみたいに上手に作れないわ...」
「今度、一緒に...」
「そうね。コツを教えてくれる?」
「...はい」
ふたりでするのはいつもそんな話で、基本的には可愛いものやもふもふした生き物...そして、最近は共通の知り合いの話をする。
「最近不便はない?」
「楽し、です」
「それならいいけど、何かあるときは遠慮なく休みをとってね」
「ありがとう、ございます」
私の主人は主人らしくない。
だからこそ、色々な人たちから慕われているのだ。
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