219 / 258
断暮篇(たちぐらしへん)
七海のお仕事
しおりを挟む
「中津君、ちょっといいかな?」
「はい」
終業時間間際、何故か店長に呼び出される。
もしかすると何か不備があったのか...不安に思っていると、予想外の質問がきた。
「こんな訊き方をするのはあれだけど、彼女は何をやっているのかな?」
視線の先には、沢山メモを取っている七海の姿があった。
よほど集中しているのか、こちらの状況にも気づいていないらしい。
「もしかして新聞記者さんとか...それならもっと綺麗な洋服で来ればよかったかな」
そんな冗談を口にしている店長にどう答えればいいのか迷ってしまう。
「記者ではないです。ただ...本好きとして、彼女の仕事を心から尊敬しています」
迷いなくそう告げると、店長はそうかと優しく笑った。
怪我の理由も七海の仕事についても詮索しないでいてくれたことに感謝しかない。
「...七海、おまたせ」
「え、あ、ごめん。集中して全然気づいてなかった...」
そのメモには細かくびっしりと物語の欠片が散りばめられていて、頬が緩むのを止められなかった。
「どうしたの?」
「やっぱり楽しそうだなって思っただけだよ」
向けられた笑顔に見とれていると、後ろから肩をたたかれる。
「木葉」
「柊、お疲れ様。どうかしたの?」
「...仲がいいのはいいことだけど、もう少し場所を考えた方がいい」
周りを見てみると、他の従業員たちから微笑ましいという視線がおくられている。
...全然気づいていなかった。
「し、失礼しました...」
頭を下げる七海につられて僕も一礼する。
店長に和やかな目で見つめられ、だんだん恥ずかしさが増していくような気がした。
お疲れ様でしたと声をかけ、そのまま夜道を歩く。
「どうして突然見学に来たの?」
「えっと...」
「柊、いきなり訊かれたら七海が戸惑うよ」
ちょっとした段差につまずきそうになった七海を支えると、ほっとしたような表情でじっと見つめられる。
「ありがとう。すごく参考になったよ」
「それならいいんだけど...」
「僕は邪魔になるから失礼するよ。...木葉、また明後日」
柊とも途中の道でわかれて、そのままふたりで真っ直ぐ歩いていく。
月光が背中を照らすなか、ずっと疑問に思っていたことを口にする。
「七海はいつもああやってメモを取ってるの?」
「うん。参考になりそうなこととか、どういう物語にするかとか...本当に単純なんだけどね」
ひとつのものに愛情を注げる、それが七海の強さなのだろう。
物語を創ることは容易ではない。
それを毎日必死で紡いでいる姿を、やはり僕は心から尊敬する。
「帰ったら何か飲もう」
「いいね。どんなものがいい?」
「...コンビニで買おう」
「新しいの出てるかな?」
七海の仕事はかなり頭を使うはずだ。
何か甘いものはないか...そんなことを考えながらこみあげてくる欲求を誤魔化した。
「はい」
終業時間間際、何故か店長に呼び出される。
もしかすると何か不備があったのか...不安に思っていると、予想外の質問がきた。
「こんな訊き方をするのはあれだけど、彼女は何をやっているのかな?」
視線の先には、沢山メモを取っている七海の姿があった。
よほど集中しているのか、こちらの状況にも気づいていないらしい。
「もしかして新聞記者さんとか...それならもっと綺麗な洋服で来ればよかったかな」
そんな冗談を口にしている店長にどう答えればいいのか迷ってしまう。
「記者ではないです。ただ...本好きとして、彼女の仕事を心から尊敬しています」
迷いなくそう告げると、店長はそうかと優しく笑った。
怪我の理由も七海の仕事についても詮索しないでいてくれたことに感謝しかない。
「...七海、おまたせ」
「え、あ、ごめん。集中して全然気づいてなかった...」
そのメモには細かくびっしりと物語の欠片が散りばめられていて、頬が緩むのを止められなかった。
「どうしたの?」
「やっぱり楽しそうだなって思っただけだよ」
向けられた笑顔に見とれていると、後ろから肩をたたかれる。
「木葉」
「柊、お疲れ様。どうかしたの?」
「...仲がいいのはいいことだけど、もう少し場所を考えた方がいい」
周りを見てみると、他の従業員たちから微笑ましいという視線がおくられている。
...全然気づいていなかった。
「し、失礼しました...」
頭を下げる七海につられて僕も一礼する。
店長に和やかな目で見つめられ、だんだん恥ずかしさが増していくような気がした。
お疲れ様でしたと声をかけ、そのまま夜道を歩く。
「どうして突然見学に来たの?」
「えっと...」
「柊、いきなり訊かれたら七海が戸惑うよ」
ちょっとした段差につまずきそうになった七海を支えると、ほっとしたような表情でじっと見つめられる。
「ありがとう。すごく参考になったよ」
「それならいいんだけど...」
「僕は邪魔になるから失礼するよ。...木葉、また明後日」
柊とも途中の道でわかれて、そのままふたりで真っ直ぐ歩いていく。
月光が背中を照らすなか、ずっと疑問に思っていたことを口にする。
「七海はいつもああやってメモを取ってるの?」
「うん。参考になりそうなこととか、どういう物語にするかとか...本当に単純なんだけどね」
ひとつのものに愛情を注げる、それが七海の強さなのだろう。
物語を創ることは容易ではない。
それを毎日必死で紡いでいる姿を、やはり僕は心から尊敬する。
「帰ったら何か飲もう」
「いいね。どんなものがいい?」
「...コンビニで買おう」
「新しいの出てるかな?」
七海の仕事はかなり頭を使うはずだ。
何か甘いものはないか...そんなことを考えながらこみあげてくる欲求を誤魔化した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる