28 / 302
第3章『恋愛電話』
番外篇『葉桜散る頃』
しおりを挟む
俺の名前は岡副陽向。
高等部1年特進クラスのチャラ男だ。
不真面目そうな俺にも大切なものがある。
それは──
「桜良、全部終わった!」
桜良は五月蝿いという顔で俺をじっと見た。
「ごめんごめん。早く伝えたくて、つい」
「【廊下は走らない】」
「反省します、ちょっとだけ」
そうこうしているうちに、詩乃先輩が俺たちのところへやってきた。
「ごめん、遅くなった。ふたりともありがとう。今回もふたりのおかけで解決できた」
「いやいや、俺はただ死んだだけですよ。桜良のおかげです」
死ぬことにはだいぶ慣れてきた。
慣れちゃいけないって先輩には言われたけど、そうでもしないとやっていられないのだ。
「桜良は平気か?疲れてるんじゃないか?」
そう訊かれた桜良は頷くばかりで、先輩は不思議そうにしている。
「…もしかして、声が出ないのか?」
先輩の質問に桜良はゆっくり首を縦にふる。
ローレライのような能力がある俺の恋人には、どうしても反動がきてしまう。
「【大したおもてなしもできなくてごめんなさい】」
「なにも桜良が謝ることじゃない。私の方こそ何も知らなくてごめん」
さらさらとノートに言葉を紡いで話す恋人の姿は、いつ見ても可愛い。
「桜良は噂を変えたり相手の感情に干渉したりできるんですけど、その後反動で声が出なくなっちゃうんです」
「どれくらいの期間なんだ?」
「長くて1週間ってところですかね…。今回は3日くらいはかかるかもしれません」
「【どうしてそんなに詳しいの?】」
桜良は不思議そうに俺を見ながら、ノートの文字を指さした。
「そんなの、ずっと一緒にいるからに決まってるじゃん」
「……」
桜良は一瞬固まっていたけど、だんだん頬が赤くなってきた。
俺の恋人は世界で1番可愛い。
「ふたりは本当に仲がいいんだな」
「でしょう?俺たち世界一なんです」
「そうだな」
先輩はただ優しく微笑んで、桜良に何かを手渡した。
彼女は俺たちをただの人間として扱ってくれる。
桜良はともかく俺は化け物だって言われても仕方ないのに、酷い言葉を浴びせられたことがない。
「【また何かあったときは協力させてください】」
「けど、その度に声が出なくなるのは大変じゃないか?」
桜良は瞬きして、すらすらと何かを書いた。
「【周りの人の役に立ちたいんです。誰かが傷つけられるのを黙ってみているだけなんて、絶対に嫌なんです】」
「そうか。それなら桜良の気持ちを尊重する」
先輩が桜良の友だちになってくれてよかった。
今この瞬間、俺以外の前でも恋人が笑ってるならそれでいい。
「それじゃあ私はもう行くよ。他にやらないといけないこともあるしな」
先輩が帰っていった後、桜良は俺をぎろりとにらんだ。
「先輩に言ったこと、怒ってる?」
今度は首を横にふって、がしがしと音をたてながら言葉を書いて見せてくれる。
「【死んだなんて聞いてない】」
彼女は俺が死ぬといつも怒る。
不死身だって分かっているにも関わらず、だ。
「いやあ、ちょっと攻撃が避けきれなくて…ごめんごめん。今回もばらばらにはならなかったし、大丈夫だよ」
ため息を吐かれてしまうんだろうと思っていると、小さな拳が胸に軽くたたきつけられた。
その表情は歪められて、不安そうに瞳が揺れる。
「桜良?」
「【死なないからといって、心に痛みが蓄積されるわけじゃない】」
俺のことを心配してくれる人がいるってことを忘れるな…先輩に言われたことはあったけど、まだ自覚が足りてなかったみたいだ。
「ごめん。本当に気をつける。けど、まさか桜良がそこまで心配してくれてるとは思わなかったな…」
そう話すと、桜良は恥ずかしそうに目を逸らした。
見ているだけでなんだか微笑ましい。
「桜良」
「…?」
「俺は桜良が心配だよ」
いつか人魚姫のように声を完全に失ってしまうかもしれない…どうしてもそんなことを考えずにはいられないのだ。
まあ、そうなったからといって桜良との関係が変わることなんてないけどね。
「【私は平気。いつものことだから】」
「俺だって桜良に元気でいてほしい。俺たち相思相愛だね」
「……【馬鹿】」
「明日は俺が放送するから、原稿考えよう!放課後の放送、休みたくないんでしょ?」
桜良はゆっくり頷いて、いつもみたいに優しく笑う。
その笑顔は天使そのもので、愛しさを抑えられずに抱きしめた。
「愛してる」
そろそろ梅雨がやってくるだろうが、俺たちの関係は変わらない。
監査部としての仕事や夜仕事をこなしながら、恋人と過ごす時間も大切にする。
そうして、先輩たちや桜良との思い出を増やしていくのだ。
高等部1年特進クラスのチャラ男だ。
不真面目そうな俺にも大切なものがある。
それは──
「桜良、全部終わった!」
桜良は五月蝿いという顔で俺をじっと見た。
「ごめんごめん。早く伝えたくて、つい」
「【廊下は走らない】」
「反省します、ちょっとだけ」
そうこうしているうちに、詩乃先輩が俺たちのところへやってきた。
「ごめん、遅くなった。ふたりともありがとう。今回もふたりのおかけで解決できた」
「いやいや、俺はただ死んだだけですよ。桜良のおかげです」
死ぬことにはだいぶ慣れてきた。
慣れちゃいけないって先輩には言われたけど、そうでもしないとやっていられないのだ。
「桜良は平気か?疲れてるんじゃないか?」
そう訊かれた桜良は頷くばかりで、先輩は不思議そうにしている。
「…もしかして、声が出ないのか?」
先輩の質問に桜良はゆっくり首を縦にふる。
ローレライのような能力がある俺の恋人には、どうしても反動がきてしまう。
「【大したおもてなしもできなくてごめんなさい】」
「なにも桜良が謝ることじゃない。私の方こそ何も知らなくてごめん」
さらさらとノートに言葉を紡いで話す恋人の姿は、いつ見ても可愛い。
「桜良は噂を変えたり相手の感情に干渉したりできるんですけど、その後反動で声が出なくなっちゃうんです」
「どれくらいの期間なんだ?」
「長くて1週間ってところですかね…。今回は3日くらいはかかるかもしれません」
「【どうしてそんなに詳しいの?】」
桜良は不思議そうに俺を見ながら、ノートの文字を指さした。
「そんなの、ずっと一緒にいるからに決まってるじゃん」
「……」
桜良は一瞬固まっていたけど、だんだん頬が赤くなってきた。
俺の恋人は世界で1番可愛い。
「ふたりは本当に仲がいいんだな」
「でしょう?俺たち世界一なんです」
「そうだな」
先輩はただ優しく微笑んで、桜良に何かを手渡した。
彼女は俺たちをただの人間として扱ってくれる。
桜良はともかく俺は化け物だって言われても仕方ないのに、酷い言葉を浴びせられたことがない。
「【また何かあったときは協力させてください】」
「けど、その度に声が出なくなるのは大変じゃないか?」
桜良は瞬きして、すらすらと何かを書いた。
「【周りの人の役に立ちたいんです。誰かが傷つけられるのを黙ってみているだけなんて、絶対に嫌なんです】」
「そうか。それなら桜良の気持ちを尊重する」
先輩が桜良の友だちになってくれてよかった。
今この瞬間、俺以外の前でも恋人が笑ってるならそれでいい。
「それじゃあ私はもう行くよ。他にやらないといけないこともあるしな」
先輩が帰っていった後、桜良は俺をぎろりとにらんだ。
「先輩に言ったこと、怒ってる?」
今度は首を横にふって、がしがしと音をたてながら言葉を書いて見せてくれる。
「【死んだなんて聞いてない】」
彼女は俺が死ぬといつも怒る。
不死身だって分かっているにも関わらず、だ。
「いやあ、ちょっと攻撃が避けきれなくて…ごめんごめん。今回もばらばらにはならなかったし、大丈夫だよ」
ため息を吐かれてしまうんだろうと思っていると、小さな拳が胸に軽くたたきつけられた。
その表情は歪められて、不安そうに瞳が揺れる。
「桜良?」
「【死なないからといって、心に痛みが蓄積されるわけじゃない】」
俺のことを心配してくれる人がいるってことを忘れるな…先輩に言われたことはあったけど、まだ自覚が足りてなかったみたいだ。
「ごめん。本当に気をつける。けど、まさか桜良がそこまで心配してくれてるとは思わなかったな…」
そう話すと、桜良は恥ずかしそうに目を逸らした。
見ているだけでなんだか微笑ましい。
「桜良」
「…?」
「俺は桜良が心配だよ」
いつか人魚姫のように声を完全に失ってしまうかもしれない…どうしてもそんなことを考えずにはいられないのだ。
まあ、そうなったからといって桜良との関係が変わることなんてないけどね。
「【私は平気。いつものことだから】」
「俺だって桜良に元気でいてほしい。俺たち相思相愛だね」
「……【馬鹿】」
「明日は俺が放送するから、原稿考えよう!放課後の放送、休みたくないんでしょ?」
桜良はゆっくり頷いて、いつもみたいに優しく笑う。
その笑顔は天使そのもので、愛しさを抑えられずに抱きしめた。
「愛してる」
そろそろ梅雨がやってくるだろうが、俺たちの関係は変わらない。
監査部としての仕事や夜仕事をこなしながら、恋人と過ごす時間も大切にする。
そうして、先輩たちや桜良との思い出を増やしていくのだ。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
Zinnia‘s Miracle 〜25年目の奇跡
弘生
現代文学
なんだか優しいお話が書きたくなって、連載始めました。
保護猫「ジン」が、時間と空間を超えて見守り語り続けた「柊家」の人々。
「ジン」が天に昇ってから何度も季節は巡り、やがて25年目に奇跡が起こる。けれど、これは奇跡というよりも、「ジン」へのご褒美かもしれない。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる