夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第5章『先生の懺悔と透明人間』

第33話

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恐らく、未来予知日記が完璧なわけじゃない。
それでも、ほぼ確実におこってしまうのが噂だったはずだ。
「これ、調べた方がよくないか?」
「今日も遅くまで残っていくつもりか?」
「妹は友だちのところに泊まりに行ってるし、今日なら遅くても大丈夫だよ」
「俺、一人暮らしだし…誰も気にしないんで大丈夫です」
あれだけの家庭環境で育ってきて、何故陽向が曲がらなかったのか気になる。
そんなことを本人に言えるはずもないが、今笑っているならそれでいい。
「分かった。無茶しないようにな」
「先生はどこ行くんですか?」
「俺は元々戦闘ができるわけじゃない。だから、俺なりのやり方で調べに行くだけだ」
先生はゆっくり立ちあがると、壁に向かって手を思いきり当てる。
すると、その場所だけ変色して扉が現れた。
「監査室にそんな場所があるなんて…!先生の家ですか?」
「まあ、それに近いものだな。恋愛電話も特殊な場所にあっただろ?
これは未来予知日記の保管場所に繋がってる。持ち主以外は滅多なことでは入れないんだ」
先生はそう言って、闇に溶けるように消えていった。
「まさか学園一のモテ教師が人間じゃないなんて思ってませんでした」
「意外だったけど、いつも助けてくれる糸の謎は解けたな」
「ですね。先生が裏から手助けしてくれてたなんて、完全に予想外でした」
話しているうちに放送室に辿り着いたが、日記に書かれていたことを調べるにしてもまだまだ情報不足だ。
「桜良、起きてる?」
「思ったより早かったのね」
「ただいま!」
「近い」
勢いよく抱きつく陽向の姿に、桜良は困ったように笑っていた。
「ごめんなさい、詩乃先輩」
「いや、仲がいいんだなと思っただけなんだ。私はそろそろ、」
「待ってください。これ、役に立つかどうか分からないけど…猫、可愛くて持ち歩いています」
「それはよかった」
桜良は陽向の腕から抜け出して、まとめられた資料を渡してくれた。
いつの間にこんなものを用意してくれたんだろう。
「これで、聞いていたので…」
「小型ラジオか?」
「桜良は放送機器ならなんでも鑑賞できるんです!今回はこのラジオだったけど、ウォークマンからスマホまでなんでもいけるんですよ」
「すごいな」
声で干渉できる範囲は予想できない。
桜良の筆箱では猫が揺れていて、キーホルダーも喜んでもらえているようだと安心した。
「ありがとう。資料、全部読ませてもらう」
「よかったね、桜良!先輩と話すきっかけがほしいって言ってたもんな…」
「…次余計なことを言ったら、放送室立入禁止にする」
「すみませんもうしません」
照れている様子の桜良と楽しそうにしている陽向。
ふたりの近くで資料を読み漁っていると、気になる記事をいくつか見つけた。
「この辺りって、自殺とか事故とか多かったんだな」
「かなりあったみたいです。事故は道が舗装されるまでに、調べた限りでは100件を越えていました」
「自殺は17件か…」
「先輩?」
「どれだけ辛かったんだろうと想像してたんだ」
私には穂乃がいて、陽向と桜良がいて、たまたま楽しい職場でバイトができて…そして、たまたま夜紅が使えたから生きている。
希望がないというのはきっと私の想像以上に辛いことだろう。
「多分、今回の死霊は自殺ケースだ」
「どうしてそう思ったんですか?」
「事故死は成仏できる可能性が高いけど、自殺というのは死んだ場所に留まりやすい傾向がある」
「知らなかったです。次原稿を作る機会があったら知識を活用します」
桜良は私が言ったことをメモしているらしい。
「…この生徒、調べてみるか」
「え、なんでその子にしようって思ったんですか?」
「担当教諭の名前、見てみろ」
そこには、私たちが知った名前が綴られていた。
「先生の行動ってこの子の件があるからなんでしょうか?」
「断定はできないが、気のせいだとすませられることじゃない」
「私は、透明人間の噂について原稿を書いておこうと思います」
「ごめん。折角声が出るようになったのに…」
「先輩のせいじゃありません。私は探索ができるわけではないので、自分ができることをやりたいだけです」
桜良が書いている間に、私は一足先に生徒が亡くなったという場所に向かうことにした。
足を踏み入れた直後、近くで声がする。
《あれ、今日もよく見えないな…》
「何が見えないんだ?」
ぼろぼろの制服を着た包帯だらけの男子生徒に声をかけると、相手は何故か驚いていた。
《僕のこと、怖くないの?》
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