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第8章『ローレライの告白-異界への階段・壱-』
第55話『不死身の秘密』
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「早速で悪いけど、もう話してくれないかな?」
「…分かった」
「私がいない方がいいなら出ていくけど、どうした方がいい?」
「陽向がいいなら大丈夫です」
詩乃先輩も陽向も、どうして私を責めないんだろう。
特に陽向には責められても仕方ないのに、あくまで私が話すのを待っていてくれている。
「それでは、順を追って話します」
──それは、数年前の出来事でした
「陽向、やめて」
「大丈夫。俺がいなくても、この家は成り立っていくから」
家族に暴力をふるわれて体中傷だらけになっていく陽向を見ているだけの自分が嫌だった。
護られるだけじゃなくて、側にいて護れる私になりたいとずっと思っていたんです。
「もう、このまま…」
消えたいんだ。そんな言葉を聞く度に、私も死ぬときは一緒だと決めていました。
そんな日が続いたある日のこと…事件は早朝4時8分に起こりました。
「ここでなら誰にも怒られない。あの家の人たちも絶対に来られないでしょう?」
「放送室がこんなに居心地いいなんて知らなかった…。ありがとう桜良」
その頃から、私たちは抜け道を使って学園内で一夜を過ごすこともありました。
理不尽な人間から逃げるには、この方法しかなかったんです。
いつもなら明かりはふたつなのに、その日はもうひとつ明かりが近づいてきました。
廊下に確認しに出た私の目の前には、2挺の包丁を持った男がいて…いつもなら声の力でどうにかするのに、怖くて動けなかったんです。
「桜良!」
陽向はそんな私を突き飛ばして、胸とお腹を刺されました。
「陽向、どうして…」
「恋人を、護って死ねるなんて…最高でしょ?」
私はただ泣き叫んでいました。
後を追おうと思ったそのとき、当時流行っていた噂が脳裏をかすめたんです。
【代償と引き換えになんでも願いを叶えてくれるらしい】
私はただ、陽向に生きていてほしかった。
だけどあの日したことは、きっと間違いだったんです。
《君が俺を呼んだの?》
「お願い。彼を助けて」
《まさか他人の為に祈るなんて…変わった子だね》
「私に大切なことを教えてくれた人なの。命でもなんでもあげる」
《愛、ね…いいよ、叶えてあげる》
パーカーの少年がそう話した直後、陽向の体からは傷が綺麗に消えた。
「よかった…」
《代償は、今日願いを叶えたことを誰にも話さないこと。それだけで充分だよ》
「いいの?」
《うん!だってその子が死ぬのは、君が死ぬときだから》
その言葉の意味を理解するのに、随分時間がかかってしまった。
パーカーの内側の表情は確認できなかったけど、嬉しそうに笑っている気がする。
「どういう、こと?」
《それはね…》
少年は陽向の体から抜け落ちていた包丁を拾い、心臓に向かって刃をおろした。
「か、あ…」
「陽向!」
《心配しないでよ。この刃物を抜くと…ほら》
じわじわと傷口が塞がっていき、そこにあるはずの傷はなくなっていた。
《ね?これで君の望みは、》
「違う」
《え?》
「私はただ、陽向を助けたかっただけで、死なない体にしてほしかったわけじゃない…」
《彼を助けてって君が言ったんだよ、桜良ちゃん。自分の言葉には責任を持たないとね。
サービスとして、陽向君からここであったことの記憶を消してあげる。そうすれば生きやすいでしょ?》
くすくすと肩を揺らしながら、パーカーの少年は姿を消しました。
その日以降、陽向は死んでも死にきれない体質になってしまったのです。
私はただ、彼を助けたかったのに…
「…ごめんなさい」
私は陽向に頭を下げることしかできない。
ずっと怖くて言えなかったし、話さないのが条件だったから墓場まで持っていこうと決めていたの。
もし明日起きて陽向がいなくなっていたらどうしよう…そんなことを考えると眠りが浅くなっていた。
ずっと心が痛いはずなのに、私のせいで彼はぼろぼろになっていく。
「桜良」
流石に怒られると思った。
勝手なことをして、陽向を助けるつもりが余計に苦しめて…どうしてこんなことになってしまったんだろう。
近づいてくる陽向を直視できなくて目を閉じると、体がぽかぽかした。
「重いもの背負わせてごめん」
「…分かった」
「私がいない方がいいなら出ていくけど、どうした方がいい?」
「陽向がいいなら大丈夫です」
詩乃先輩も陽向も、どうして私を責めないんだろう。
特に陽向には責められても仕方ないのに、あくまで私が話すのを待っていてくれている。
「それでは、順を追って話します」
──それは、数年前の出来事でした
「陽向、やめて」
「大丈夫。俺がいなくても、この家は成り立っていくから」
家族に暴力をふるわれて体中傷だらけになっていく陽向を見ているだけの自分が嫌だった。
護られるだけじゃなくて、側にいて護れる私になりたいとずっと思っていたんです。
「もう、このまま…」
消えたいんだ。そんな言葉を聞く度に、私も死ぬときは一緒だと決めていました。
そんな日が続いたある日のこと…事件は早朝4時8分に起こりました。
「ここでなら誰にも怒られない。あの家の人たちも絶対に来られないでしょう?」
「放送室がこんなに居心地いいなんて知らなかった…。ありがとう桜良」
その頃から、私たちは抜け道を使って学園内で一夜を過ごすこともありました。
理不尽な人間から逃げるには、この方法しかなかったんです。
いつもなら明かりはふたつなのに、その日はもうひとつ明かりが近づいてきました。
廊下に確認しに出た私の目の前には、2挺の包丁を持った男がいて…いつもなら声の力でどうにかするのに、怖くて動けなかったんです。
「桜良!」
陽向はそんな私を突き飛ばして、胸とお腹を刺されました。
「陽向、どうして…」
「恋人を、護って死ねるなんて…最高でしょ?」
私はただ泣き叫んでいました。
後を追おうと思ったそのとき、当時流行っていた噂が脳裏をかすめたんです。
【代償と引き換えになんでも願いを叶えてくれるらしい】
私はただ、陽向に生きていてほしかった。
だけどあの日したことは、きっと間違いだったんです。
《君が俺を呼んだの?》
「お願い。彼を助けて」
《まさか他人の為に祈るなんて…変わった子だね》
「私に大切なことを教えてくれた人なの。命でもなんでもあげる」
《愛、ね…いいよ、叶えてあげる》
パーカーの少年がそう話した直後、陽向の体からは傷が綺麗に消えた。
「よかった…」
《代償は、今日願いを叶えたことを誰にも話さないこと。それだけで充分だよ》
「いいの?」
《うん!だってその子が死ぬのは、君が死ぬときだから》
その言葉の意味を理解するのに、随分時間がかかってしまった。
パーカーの内側の表情は確認できなかったけど、嬉しそうに笑っている気がする。
「どういう、こと?」
《それはね…》
少年は陽向の体から抜け落ちていた包丁を拾い、心臓に向かって刃をおろした。
「か、あ…」
「陽向!」
《心配しないでよ。この刃物を抜くと…ほら》
じわじわと傷口が塞がっていき、そこにあるはずの傷はなくなっていた。
《ね?これで君の望みは、》
「違う」
《え?》
「私はただ、陽向を助けたかっただけで、死なない体にしてほしかったわけじゃない…」
《彼を助けてって君が言ったんだよ、桜良ちゃん。自分の言葉には責任を持たないとね。
サービスとして、陽向君からここであったことの記憶を消してあげる。そうすれば生きやすいでしょ?》
くすくすと肩を揺らしながら、パーカーの少年は姿を消しました。
その日以降、陽向は死んでも死にきれない体質になってしまったのです。
私はただ、彼を助けたかったのに…
「…ごめんなさい」
私は陽向に頭を下げることしかできない。
ずっと怖くて言えなかったし、話さないのが条件だったから墓場まで持っていこうと決めていたの。
もし明日起きて陽向がいなくなっていたらどうしよう…そんなことを考えると眠りが浅くなっていた。
ずっと心が痛いはずなのに、私のせいで彼はぼろぼろになっていく。
「桜良」
流石に怒られると思った。
勝手なことをして、陽向を助けるつもりが余計に苦しめて…どうしてこんなことになってしまったんだろう。
近づいてくる陽向を直視できなくて目を閉じると、体がぽかぽかした。
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