夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第14章『生死の花嫁』

第100話

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いつもは私たちが助けてもらっているのだから、今回は私が力になる番だ。
「あの…」
起きあがろうとする桜良を止め、枕元に手をつく。
「どうした?」
「あの人、あなたにしか頼めないって言ったんです。どういう意味だったんでしょうか」
「桜良にしか伝えられないってことが、見つけられない何かってことか…。どちらにせよ、意味がないことは言わないだろうな」
他人の夢に入るのはやったことがないが、方法だけは資料で読んだ。
先生なら詳しく知っているだろうか。
「後で先生に聞いてみるよ」
「ありがとうございます。このこと、陽向には、」
「俺だけ仲間はずれは勘弁なんだけど?」
タイミングを図ったように監査室の扉が開かれ、両手で箱を抱えた陽向が不機嫌そうに桜良を見つめた。
「なんで俺だけはずそうとするかな…」
「ごめんなさい」
「儀式とか詳しくないけど、桜良のことなら1番分かってるつもりなんだけど」
「……クラスの女の子たちと、忙しそうだった」
桜良は横になったまま陽向を真っ直ぐ見つめる。
陽向はもやもやしている様子の桜良に呆然とした後、堪えきれなかったように小さく笑い声をあげた。
「あれは美化委員会の女子たちがノートの話をしてたから、聞き取り調査してただけだよ。
それにしても、まさか嫉妬されてるとは…やっぱり俺、愛されてる?」
「……そう」
桜良はほっとしたように呟いて頬を赤らめた。
なんだか邪魔になっているような気がして陽向を見ると、何故か苦笑している。
「先輩、そんなつもりないっていうのは分かってるんですけど…桜良を解放してもらえませんか?」
まるで桜良を押し倒したように手をついたままだったことに気づき、そのまま杖を片手に立ちあがる。
「ごめん。嫌だったろ」
「いいえ。一緒にいてくれて、ありがとうございました」
陽向がいてくれるなら桜良は大丈夫だろう。
「所用があるからここでゆっくりしててくれ」
「了解です」
特に深く訊かれなくてよかった…そんなことを考えながら、先生のところへ向かおうとした。
「折原さん、少しいいですか?」
呼び止めてきたのはいつも差別用語をぶつけてくる人間だ。
ただ、ここで逃げると更に面倒なことになる。
「監査部の仕事でばたばたしているので、少しだけなら」
「何故教師に対してそんな態度をとるんですか?これだから高入は…」
また始まった。心を閉じて落ち着いているふりをする。
「日本人のくせに国語ができないなんて、どうするつもりですか?あなたみたいな生徒が学園の質を…」
学園内が綺麗だなんて、どれだけ周りが見えていないんだ。
耐えて、耐えて、耐えて…もう少し我慢しないと。
「親がいないからそんな態度をとるんでしょうね。教えてもらえなかったなら私がみっちり、」
「……煩いセクハラ野郎」
「なっ…」
「複数の生徒から相談がきてます。指導と言いながら嫌がる人間の体を触ったそうですね。
本来であればないはずの権力を振りかざしていると聞きました。これから死ぬ気で調べて必ず白日のもとへ晒すので覚悟してください。…失礼します」
まだ使いこなせていない杖を動かしていると、理科準備室に引き込まれる。
他の生徒がいることを確認して表面で対応した。
「室星先生、やっぱりここにいたんですね」
「え、憲兵姫!?」
「こんにちは」
「少しそこで待っててくれ」
「分かりました」
用意されていた椅子に腰をおろすと、瞬が心配そうな顔で駆け寄ってきた。
「詩乃ちゃん、顔色があんまりよくないよ」
「…ちょっと嫌なことがあっただけだよ」
久しぶりに人間の嫌な部分に触れたせいか、もやもやしたものがおさまってくれない。
先程までいたはずの生徒はいつの間にかいなくなっていて、先生が眉間に皺を寄せていた。
「…何があった?」
「桜良に色々話を聞いてきたから、先生にも情報共有しておこうと思ったんだ。
…先生がどのくらい風習に詳しいか知らないから一応訊くけど、死花の儀って分かるか?」
「娘を投げ入れるとかいう最低なやつか」
「うん。…今回の桜良の体調不良にはそれが関係しているみたいなんだ」
そう話すと、先生はますます深刻そうな顔をした。
「先生が知ってることを教えてほしい。…特に、最後の贄について詳しく知りたい」
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