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第22章『呪いより恐ろしいもの』
第159話
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南雲実雪が驚いているのも無理はない。
ここまで気配を消してついてくる奴なんて、なかなかいないだろうから。
「先輩がひとりで行こうとするから付き添っただけです。…あ、俺は監査部副部長の岡副陽向。よろしくね」
「は、はい」
相手が萎縮しているようにも見えるが、正直陽向が一緒にいてくれて助かった。
私だけでは上手く話を聞けなかったかもしれない。
「ごめんね。俺、こんななりだけど怖くないから!というか、人に暴力ふるう趣味なんてないし」
「あ、えっと…」
「ごめん。もしかして、こういうちゃらちゃらしてるタイプは苦手か?」
「いえ、そういうわけではなくて…ちゃらちゃらしている見た目の人が監査部にいるのが意外だったんです」
「お堅いイメージ持たれてそうだもんな、監査部って。けど、普通にとらわれるようなメンバーはいないはずだよ」
陽向の言葉に納得させられる。
授業の出席は単位を落とさないぎりぎりの私や、家庭事情が複雑な陽向…抱える事情はともかく、他のメンバーもマイノリティーばかりだ。
決して多数派ではない。
「今日は僕しかいないので、よければどうぞ」
「ありがとう」
扉が開かれた瞬間、若い男性に柔らかい視線を向けられた。
《こんにちは実雪さん。お客さんかな?》
「…こんにちは。あなたが店主なのか?」
「え、ええ…!?詩乃さんには店長さんが視えるんですね」
「陽向にも視えているよ」
驚いた様子を見せる少女の背後で陽向が小さく呟く。
「なんかすごい爽やかそうなお兄さんが立ってる…」
「この方が店長さんです」
《お好きな席にどうぞ》
店の気配を探ってみるが、今のところおかしなことはない。
店主に関しても、死んでいること以外は特に変わったことはなさそうだ。
《ようこそクラシオンへ。飲み物をお出ししますね》
そう話した店主は立ちあがった瞬間体が傾いていく。
「店長さん!」
南雲実雪より先に店主の近くにいた私は咄嗟に手を伸ばす。
カウンター越しではあったが、なんとか体を支えられた。
「もしかして、具合が悪いのか?」
《死んでいるのに、具合がいいも悪いも、》
「……嘘」
「えっと、実雪ちゃん?」
陽向の声が届いてないのか、少女はぬいぐるみを抱きしめたまま肩を震わせた。
「最近店長さんが薬を飲んでるのを見たって、他の人たちが教えてくれたんです。
僕も他のみんなも、また店長さんが苦しむ姿は見たくない…!」
少女の叫びに店主は静かに答える。
《実雪さん…ごめん。だけど、今回は薬でどうにかなるものじゃなさそうなんだ》
「どういうことですか?」
《上手く説明できないけど、いつもの息苦しさとは少し違っていて…》
「それは、噂が強引に捻じ曲げられようとしているからだと思う」
口を挟むか迷ったが、本気で分かっていないらしい店主には事実を知る権利がある。
《それは、巷でこの場所に呪いの力があると噂されていることと関係があるということかな?》
「人の噂が作用することがあるんだ。この町は良くも悪くも噂が広がりやすいし、悪い噂の影響を受け続ければどうなるか分からない」
「けど、俺たちならどうにかできるかもしれません。今までだってそうしてきましたから!」
陽向の笑顔を見ると大丈夫な気がしてくる。
ぬいくるみを抱きしめたままの少女は、驚いた様子で私たちを見つめていた。
「…それ、本当ですか?」
「ここで嘘なんて吐かないよ。すぐには無理でも信じてもらえないかな?」
「て、店長さん次第です」
少女が目に涙を浮かべたまま見つめた店主は、苦笑しながら私たちに座るよう促す。
《先代の頃から何度か噂を変えられそうになったことがあったけど、ここまで被害が深刻なのは初めてなんだ。
まさか噂が広まりすぎたせいだったなんて思わなかったよ》
「僕が思っていた以上に大変なことになっていたんですね」
「併修生たちの間では広まってないの?」
陽向の問いに対する答えはとんでもないものだった。
「聞いた話によると、ぼろぼろのノートに辿り着けなかったカフェなんていらないって書いた人がいたみたいです。
ちょうどその話を聞いた頃から、このお店の様子が少しずつ変わりはじめました」
ここまで気配を消してついてくる奴なんて、なかなかいないだろうから。
「先輩がひとりで行こうとするから付き添っただけです。…あ、俺は監査部副部長の岡副陽向。よろしくね」
「は、はい」
相手が萎縮しているようにも見えるが、正直陽向が一緒にいてくれて助かった。
私だけでは上手く話を聞けなかったかもしれない。
「ごめんね。俺、こんななりだけど怖くないから!というか、人に暴力ふるう趣味なんてないし」
「あ、えっと…」
「ごめん。もしかして、こういうちゃらちゃらしてるタイプは苦手か?」
「いえ、そういうわけではなくて…ちゃらちゃらしている見た目の人が監査部にいるのが意外だったんです」
「お堅いイメージ持たれてそうだもんな、監査部って。けど、普通にとらわれるようなメンバーはいないはずだよ」
陽向の言葉に納得させられる。
授業の出席は単位を落とさないぎりぎりの私や、家庭事情が複雑な陽向…抱える事情はともかく、他のメンバーもマイノリティーばかりだ。
決して多数派ではない。
「今日は僕しかいないので、よければどうぞ」
「ありがとう」
扉が開かれた瞬間、若い男性に柔らかい視線を向けられた。
《こんにちは実雪さん。お客さんかな?》
「…こんにちは。あなたが店主なのか?」
「え、ええ…!?詩乃さんには店長さんが視えるんですね」
「陽向にも視えているよ」
驚いた様子を見せる少女の背後で陽向が小さく呟く。
「なんかすごい爽やかそうなお兄さんが立ってる…」
「この方が店長さんです」
《お好きな席にどうぞ》
店の気配を探ってみるが、今のところおかしなことはない。
店主に関しても、死んでいること以外は特に変わったことはなさそうだ。
《ようこそクラシオンへ。飲み物をお出ししますね》
そう話した店主は立ちあがった瞬間体が傾いていく。
「店長さん!」
南雲実雪より先に店主の近くにいた私は咄嗟に手を伸ばす。
カウンター越しではあったが、なんとか体を支えられた。
「もしかして、具合が悪いのか?」
《死んでいるのに、具合がいいも悪いも、》
「……嘘」
「えっと、実雪ちゃん?」
陽向の声が届いてないのか、少女はぬいぐるみを抱きしめたまま肩を震わせた。
「最近店長さんが薬を飲んでるのを見たって、他の人たちが教えてくれたんです。
僕も他のみんなも、また店長さんが苦しむ姿は見たくない…!」
少女の叫びに店主は静かに答える。
《実雪さん…ごめん。だけど、今回は薬でどうにかなるものじゃなさそうなんだ》
「どういうことですか?」
《上手く説明できないけど、いつもの息苦しさとは少し違っていて…》
「それは、噂が強引に捻じ曲げられようとしているからだと思う」
口を挟むか迷ったが、本気で分かっていないらしい店主には事実を知る権利がある。
《それは、巷でこの場所に呪いの力があると噂されていることと関係があるということかな?》
「人の噂が作用することがあるんだ。この町は良くも悪くも噂が広がりやすいし、悪い噂の影響を受け続ければどうなるか分からない」
「けど、俺たちならどうにかできるかもしれません。今までだってそうしてきましたから!」
陽向の笑顔を見ると大丈夫な気がしてくる。
ぬいくるみを抱きしめたままの少女は、驚いた様子で私たちを見つめていた。
「…それ、本当ですか?」
「ここで嘘なんて吐かないよ。すぐには無理でも信じてもらえないかな?」
「て、店長さん次第です」
少女が目に涙を浮かべたまま見つめた店主は、苦笑しながら私たちに座るよう促す。
《先代の頃から何度か噂を変えられそうになったことがあったけど、ここまで被害が深刻なのは初めてなんだ。
まさか噂が広まりすぎたせいだったなんて思わなかったよ》
「僕が思っていた以上に大変なことになっていたんですね」
「併修生たちの間では広まってないの?」
陽向の問いに対する答えはとんでもないものだった。
「聞いた話によると、ぼろぼろのノートに辿り着けなかったカフェなんていらないって書いた人がいたみたいです。
ちょうどその話を聞いた頃から、このお店の様子が少しずつ変わりはじめました」
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