夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第22章『呪いより恐ろしいもの』

番外篇『調査報告と新たな火種』

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「ええ!?ということは、もう解決しちゃったんですか?」
「一応は。だから店主、この鍵は返すよ」
解決した翌日の昼すぎに幸運を呼ぶカフェに報告に行くと、そこでは南雲実雪が店員として働いていた。
大雑把に説明して、結界をくぐり抜けられる特別な鍵を店主に返却する。
《ありがとうございました。これでお客様が戻ってきてくれることを祈っています》
「僕、全然力になれませんでしたね…」
「そんなことないよ。色々教えてもらって助かった」
目の前の後輩はぱっと表情を明るくして、笑顔で奥の部屋へ走っていった。
《実雪さんが話していたのはあなたのことだったみたいです》
「私の?」
店主から聞かされたのは意外な言葉だった。
《かっこいい女性に憧れていて、その人がいる委員会のようなものに入れたって…あんなに嬉しそうにしていたのは初めてだったよ》
併修生たちと接する機会はほとんどないが、そんなふうに思ってもらえていたなら嬉しい。
「監査部の真面目に仕事に取り組んでもらえてとても助かってる」
《彼女は責任感が強い子です。これからも仲良くしてあげてください》
「私でよければいつでも話し相手になるくらいはできるよ」
会話が一区切りしたところで、言いづらそうにしながら尋ねられた。
《ところで、あなたにも抱えているものがおありなのではありませんか?》
「どうしてそんなことを訊くんだ?」
《見れば分かってしまうんです。…経験則かな》
店主は苦笑していたものの、その瞳は真剣だ。
嘘を吐くのも申し訳ない気がして、少しだけ話してみる。
「あるにはある。だけど、これは私が片づけないといけないことなんだ。
多分今回のノートの一件とも関わりがあるけど、確証がないしできれば調子がいいときに動きたい」
怪我の痛みは殆どなくなってきたが、先生からまだ激しい運動はできるだけ避けるよう言われている。
人間じゃないものを相手にしている時点で完璧にしないことができないのを察知されているようだった。
《その言い方だと、まるで意図的に操った人間がいるみたいですね》
「いるんだよ、そういう奴が」
《そうですか…。では、その方は何故この店を狙ってきたんでしょう?》
「幸せな人間が憎いから、だと思う。絶対とは言えないけど、その可能性が高い」
《どうして……》
他者の幸福を願うことが悪いことだとは私も思わない。
それでも、あの男からしてみれば幸せな人間を潰したいんだろう。
「あと、これも憶測だけど…あの男の力の源は負の感情だ。
怪異や妖たちのも含めて、みんな不幸になればいいって願っているんだと思う」
《成程、哀しい方ですね》
「そうだ、これってテイクアウトもできる?今回協力してくれた仲間たちに持っていきたいんだ…なんて、贅沢か」
席を立つと、店主に少しだけ待つよう引き止められる。
数人分の飲み物が入った紙コップを紙袋に入れてくれた。
《事件を解決してもらったお礼もしたいし、お代はいらないから持っていって》
「ありがとう。機会があればまた来るよ」
《いつかあなたが、あなた自身の幸福を考えられる日がきますように》
「…いつかそうなるのかな」
とにかく礼を言って店を出る。
南雲にも何かお礼をしよう…そんな事を考えながら険しい道を下った。


「店長さん、先輩帰っちゃいましたか?」
《うん。引き止めた方がよかった?》
「いえ。ただ、困り事があるなら僕も力になりたくて…」
《…近いうちに会うことになるかもしれない》
「え?」
《なんでもない。まかないを用意するから、そこに座って待ってて》
「ありがとうございます!」
ふたりの会話を偶然盗み見た影はひとつ息を吐き、そのまま扉を閉じる。
退屈そうに伸びをした後、誰に言うでもなく呟いた。
《……大変なのはここからだね、詩乃ちゃん》
その評定を確認することは、誰にも叶わない。
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