201 / 302
第22章『呪いより恐ろしいもの』
番外篇『調査報告と新たな火種』
しおりを挟む
「ええ!?ということは、もう解決しちゃったんですか?」
「一応は。だから店主、この鍵は返すよ」
解決した翌日の昼すぎに幸運を呼ぶカフェに報告に行くと、そこでは南雲実雪が店員として働いていた。
大雑把に説明して、結界をくぐり抜けられる特別な鍵を店主に返却する。
《ありがとうございました。これでお客様が戻ってきてくれることを祈っています》
「僕、全然力になれませんでしたね…」
「そんなことないよ。色々教えてもらって助かった」
目の前の後輩はぱっと表情を明るくして、笑顔で奥の部屋へ走っていった。
《実雪さんが話していたのはあなたのことだったみたいです》
「私の?」
店主から聞かされたのは意外な言葉だった。
《かっこいい女性に憧れていて、その人がいる委員会のようなものに入れたって…あんなに嬉しそうにしていたのは初めてだったよ》
併修生たちと接する機会はほとんどないが、そんなふうに思ってもらえていたなら嬉しい。
「監査部の真面目に仕事に取り組んでもらえてとても助かってる」
《彼女は責任感が強い子です。これからも仲良くしてあげてください》
「私でよければいつでも話し相手になるくらいはできるよ」
会話が一区切りしたところで、言いづらそうにしながら尋ねられた。
《ところで、あなたにも抱えているものがおありなのではありませんか?》
「どうしてそんなことを訊くんだ?」
《見れば分かってしまうんです。…経験則かな》
店主は苦笑していたものの、その瞳は真剣だ。
嘘を吐くのも申し訳ない気がして、少しだけ話してみる。
「あるにはある。だけど、これは私が片づけないといけないことなんだ。
多分今回のノートの一件とも関わりがあるけど、確証がないしできれば調子がいいときに動きたい」
怪我の痛みは殆どなくなってきたが、先生からまだ激しい運動はできるだけ避けるよう言われている。
人間じゃないものを相手にしている時点で完璧にしないことができないのを察知されているようだった。
《その言い方だと、まるで意図的に操った人間がいるみたいですね》
「いるんだよ、そういう奴が」
《そうですか…。では、その方は何故この店を狙ってきたんでしょう?》
「幸せな人間が憎いから、だと思う。絶対とは言えないけど、その可能性が高い」
《どうして……》
他者の幸福を願うことが悪いことだとは私も思わない。
それでも、あの男からしてみれば幸せな人間を潰したいんだろう。
「あと、これも憶測だけど…あの男の力の源は負の感情だ。
怪異や妖たちのも含めて、みんな不幸になればいいって願っているんだと思う」
《成程、哀しい方ですね》
「そうだ、これってテイクアウトもできる?今回協力してくれた仲間たちに持っていきたいんだ…なんて、贅沢か」
席を立つと、店主に少しだけ待つよう引き止められる。
数人分の飲み物が入った紙コップを紙袋に入れてくれた。
《事件を解決してもらったお礼もしたいし、お代はいらないから持っていって》
「ありがとう。機会があればまた来るよ」
《いつかあなたが、あなた自身の幸福を考えられる日がきますように》
「…いつかそうなるのかな」
とにかく礼を言って店を出る。
南雲にも何かお礼をしよう…そんな事を考えながら険しい道を下った。
「店長さん、先輩帰っちゃいましたか?」
《うん。引き止めた方がよかった?》
「いえ。ただ、困り事があるなら僕も力になりたくて…」
《…近いうちに会うことになるかもしれない》
「え?」
《なんでもない。まかないを用意するから、そこに座って待ってて》
「ありがとうございます!」
ふたりの会話を偶然盗み見た影はひとつ息を吐き、そのまま扉を閉じる。
退屈そうに伸びをした後、誰に言うでもなく呟いた。
《……大変なのはここからだね、詩乃ちゃん》
その評定を確認することは、誰にも叶わない。
「一応は。だから店主、この鍵は返すよ」
解決した翌日の昼すぎに幸運を呼ぶカフェに報告に行くと、そこでは南雲実雪が店員として働いていた。
大雑把に説明して、結界をくぐり抜けられる特別な鍵を店主に返却する。
《ありがとうございました。これでお客様が戻ってきてくれることを祈っています》
「僕、全然力になれませんでしたね…」
「そんなことないよ。色々教えてもらって助かった」
目の前の後輩はぱっと表情を明るくして、笑顔で奥の部屋へ走っていった。
《実雪さんが話していたのはあなたのことだったみたいです》
「私の?」
店主から聞かされたのは意外な言葉だった。
《かっこいい女性に憧れていて、その人がいる委員会のようなものに入れたって…あんなに嬉しそうにしていたのは初めてだったよ》
併修生たちと接する機会はほとんどないが、そんなふうに思ってもらえていたなら嬉しい。
「監査部の真面目に仕事に取り組んでもらえてとても助かってる」
《彼女は責任感が強い子です。これからも仲良くしてあげてください》
「私でよければいつでも話し相手になるくらいはできるよ」
会話が一区切りしたところで、言いづらそうにしながら尋ねられた。
《ところで、あなたにも抱えているものがおありなのではありませんか?》
「どうしてそんなことを訊くんだ?」
《見れば分かってしまうんです。…経験則かな》
店主は苦笑していたものの、その瞳は真剣だ。
嘘を吐くのも申し訳ない気がして、少しだけ話してみる。
「あるにはある。だけど、これは私が片づけないといけないことなんだ。
多分今回のノートの一件とも関わりがあるけど、確証がないしできれば調子がいいときに動きたい」
怪我の痛みは殆どなくなってきたが、先生からまだ激しい運動はできるだけ避けるよう言われている。
人間じゃないものを相手にしている時点で完璧にしないことができないのを察知されているようだった。
《その言い方だと、まるで意図的に操った人間がいるみたいですね》
「いるんだよ、そういう奴が」
《そうですか…。では、その方は何故この店を狙ってきたんでしょう?》
「幸せな人間が憎いから、だと思う。絶対とは言えないけど、その可能性が高い」
《どうして……》
他者の幸福を願うことが悪いことだとは私も思わない。
それでも、あの男からしてみれば幸せな人間を潰したいんだろう。
「あと、これも憶測だけど…あの男の力の源は負の感情だ。
怪異や妖たちのも含めて、みんな不幸になればいいって願っているんだと思う」
《成程、哀しい方ですね》
「そうだ、これってテイクアウトもできる?今回協力してくれた仲間たちに持っていきたいんだ…なんて、贅沢か」
席を立つと、店主に少しだけ待つよう引き止められる。
数人分の飲み物が入った紙コップを紙袋に入れてくれた。
《事件を解決してもらったお礼もしたいし、お代はいらないから持っていって》
「ありがとう。機会があればまた来るよ」
《いつかあなたが、あなた自身の幸福を考えられる日がきますように》
「…いつかそうなるのかな」
とにかく礼を言って店を出る。
南雲にも何かお礼をしよう…そんな事を考えながら険しい道を下った。
「店長さん、先輩帰っちゃいましたか?」
《うん。引き止めた方がよかった?》
「いえ。ただ、困り事があるなら僕も力になりたくて…」
《…近いうちに会うことになるかもしれない》
「え?」
《なんでもない。まかないを用意するから、そこに座って待ってて》
「ありがとうございます!」
ふたりの会話を偶然盗み見た影はひとつ息を吐き、そのまま扉を閉じる。
退屈そうに伸びをした後、誰に言うでもなく呟いた。
《……大変なのはここからだね、詩乃ちゃん》
その評定を確認することは、誰にも叶わない。
0
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
孤児が皇后陛下と呼ばれるまで
香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。
目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸
3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。
「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる