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閑話『真夏の合宿』
特訓其の参…?
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夕食を済ませたところで、折原たちが何かを探すようにきょろきょろしている。
「流山なら屋上にいる」
「もしかして、次の授業ってことか?」
「そんなところだ」
あれだけはりきる瞬を見たことがない。
手伝うと申し出たが、ひとりでやらせてほしいと返されてしまった。
「……」
「木嶋、どうした?」
「…私、も、行きた……」
やはり噂を反転させるとなると相当響いているのか、まだ言葉が出づらそうだ。
「少し冷えるかもしれないから、羽織るもの1枚あるといいかもしれない」
「私は星について詳しくないんだ。どんな話が聞けるのか楽しみだな」
折原の言葉に木嶋は微笑みながら頷く。
俺に向かって頭を下げ、岡副と紙皿を片づけはじめた。
「折原、少し手伝ってくれないか?」
「私は構わないけど、何するんだ?」
「部屋に置いていたものを今夜だけここで使えるようにしたい」
俺も合宿という経験はないので、具体的にどうするのが正解だったか分からない。
…これがあれば瞬は笑ってくれるだろうか。
「先生の部屋って相変わらず本でいっぱいなんだな」
「他にすることがなかったから読み漁ってた。…よし、スイッチの確認もこれでいい。助かった」
「私は言われたとおりにやっただけだよ」
「そろそろ行くか。多分、先生がお待ちかねだ」
ふたりで屋上に向かうともう既に岡副たちが来ていた。
「ふたりとも、何してたんですか?先生がお待ちですよ」
「ごめん。遅くなった」
「時間ぴったりだよ。それじゃあ、えっと…僕の話で楽しくなるか分からないけど、星の話をしようと思います。
七夕の話にしようかな。織姫と彦星っているでしょ?ふたりのモデルになったという一節があるのは、」
「はい、先生!それって怠けたふたりが罰としてばらばらにされたってやつじゃないんですか?」
一般的に広く知られているのはそっちだろう。
だが、瞬の知識なら恐らく別の方だ。
「違うよ。それから、ロマンの欠片もない言い方しないで。それだけだと単純すぎて面白くない」
「え、違う話とかあるの?」
「諸説あるからね。地上に降り立った天女の羽衣を、彼女に恋をした男が隠しちゃうんだ。
帰ってほしくなくて…ずっと一緒にいたかったんだろうね。それで──」
そこから紡がれていく物語に、皆心を打たれているようだった。
瞬の語りは上手い。すっと心に入ってくる話し方は、他の誰にもできないだろう。
「……そうして男がうっかり瓜を縦に切ってしまったから、そこから溢れ出した水によってふたりは年に1度しか繋がれなくなったんだよ」
「なんか悲しい話なんだな」
「会いたい人に会えないのは、きっと寂しいよね」
瞬が空に浮かぶ星を見つめる。
そのまま手を星に伸ばし、掴むようにグーを作った。
「僕の授業はこれで終わり。七夕はもう終わっちゃったけど、もうちょっとあのふたりが会う回数を増やしてくれてもいいのにね」
「…【胸が締め付けられる】」
「初めて知ったとき、僕も吃驚したんだ。牛飼いの方の話しか知らなかったから」
「瞬は博識なんだな」
「他のみんなに比べたらまだまだだよ」
そう言いつつ、褒められたことを素直に受け取っている。
以前なら何か裏があるかもしれなあと感じていただろうが、今回はまっすぐ人の気持ちと向き合っているようだ。
まさかここまで変わる日がくるとは思っていなかった。
「先生?」
瞬が心配そうに近づいてきたのでそのまま頭を撫でる。
「わ、なに…」
「…いい授業だった」
「本当?」
「ああ。久しぶりに聞いたが、やっぱりおまえは人に教えるのが上手いな」
瞬の表情がぱっと明るくなったところで話を切り出す。
「もしまだ眠くないようなら、少しつきあってくれないか?」
「僕はいいけど、何するの?」
俺は今どんな顔をしているだろうか。
にやけてしまわないように気をつけながら用件を伝えると、瞬は驚いた顔をして笑った。
…だが、ずっと穏やかに過ごせるわけではないらしい。
「先生たちは先に行って。あとは私がなんとかするから」
「流山なら屋上にいる」
「もしかして、次の授業ってことか?」
「そんなところだ」
あれだけはりきる瞬を見たことがない。
手伝うと申し出たが、ひとりでやらせてほしいと返されてしまった。
「……」
「木嶋、どうした?」
「…私、も、行きた……」
やはり噂を反転させるとなると相当響いているのか、まだ言葉が出づらそうだ。
「少し冷えるかもしれないから、羽織るもの1枚あるといいかもしれない」
「私は星について詳しくないんだ。どんな話が聞けるのか楽しみだな」
折原の言葉に木嶋は微笑みながら頷く。
俺に向かって頭を下げ、岡副と紙皿を片づけはじめた。
「折原、少し手伝ってくれないか?」
「私は構わないけど、何するんだ?」
「部屋に置いていたものを今夜だけここで使えるようにしたい」
俺も合宿という経験はないので、具体的にどうするのが正解だったか分からない。
…これがあれば瞬は笑ってくれるだろうか。
「先生の部屋って相変わらず本でいっぱいなんだな」
「他にすることがなかったから読み漁ってた。…よし、スイッチの確認もこれでいい。助かった」
「私は言われたとおりにやっただけだよ」
「そろそろ行くか。多分、先生がお待ちかねだ」
ふたりで屋上に向かうともう既に岡副たちが来ていた。
「ふたりとも、何してたんですか?先生がお待ちですよ」
「ごめん。遅くなった」
「時間ぴったりだよ。それじゃあ、えっと…僕の話で楽しくなるか分からないけど、星の話をしようと思います。
七夕の話にしようかな。織姫と彦星っているでしょ?ふたりのモデルになったという一節があるのは、」
「はい、先生!それって怠けたふたりが罰としてばらばらにされたってやつじゃないんですか?」
一般的に広く知られているのはそっちだろう。
だが、瞬の知識なら恐らく別の方だ。
「違うよ。それから、ロマンの欠片もない言い方しないで。それだけだと単純すぎて面白くない」
「え、違う話とかあるの?」
「諸説あるからね。地上に降り立った天女の羽衣を、彼女に恋をした男が隠しちゃうんだ。
帰ってほしくなくて…ずっと一緒にいたかったんだろうね。それで──」
そこから紡がれていく物語に、皆心を打たれているようだった。
瞬の語りは上手い。すっと心に入ってくる話し方は、他の誰にもできないだろう。
「……そうして男がうっかり瓜を縦に切ってしまったから、そこから溢れ出した水によってふたりは年に1度しか繋がれなくなったんだよ」
「なんか悲しい話なんだな」
「会いたい人に会えないのは、きっと寂しいよね」
瞬が空に浮かぶ星を見つめる。
そのまま手を星に伸ばし、掴むようにグーを作った。
「僕の授業はこれで終わり。七夕はもう終わっちゃったけど、もうちょっとあのふたりが会う回数を増やしてくれてもいいのにね」
「…【胸が締め付けられる】」
「初めて知ったとき、僕も吃驚したんだ。牛飼いの方の話しか知らなかったから」
「瞬は博識なんだな」
「他のみんなに比べたらまだまだだよ」
そう言いつつ、褒められたことを素直に受け取っている。
以前なら何か裏があるかもしれなあと感じていただろうが、今回はまっすぐ人の気持ちと向き合っているようだ。
まさかここまで変わる日がくるとは思っていなかった。
「先生?」
瞬が心配そうに近づいてきたのでそのまま頭を撫でる。
「わ、なに…」
「…いい授業だった」
「本当?」
「ああ。久しぶりに聞いたが、やっぱりおまえは人に教えるのが上手いな」
瞬の表情がぱっと明るくなったところで話を切り出す。
「もしまだ眠くないようなら、少しつきあってくれないか?」
「僕はいいけど、何するの?」
俺は今どんな顔をしているだろうか。
にやけてしまわないように気をつけながら用件を伝えると、瞬は驚いた顔をして笑った。
…だが、ずっと穏やかに過ごせるわけではないらしい。
「先生たちは先に行って。あとは私がなんとかするから」
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