244 / 302
閑話『寒空の合宿』
雪合戦
しおりを挟む
「…終わりだ」
「うう…」
おかげさんにもらった包丁もどきをふっていたら、先生が練習相手になってくれた。
ただ、1度も攻撃を当てられていない。
「先生、強いね」
「体の使い方を意識しろ」
「それってどうやるの?」
「…折原たちと遊んでみれば分かる」
先生にそう言われてやっているのは、雪玉を固める作業だ。
ひな君が桜良ちゃんと話している間に用意して、話が終わったところで投げてみようと思っている。
「それじゃあ桜良、また後で」
話し終わったのを確認して、ひな君の足に向かって投げつける。
「え、痛!?」
上手く命中したけど、どこから飛んできたのか分かっていないみたいだった。
ずっときょろきょろしているひな君に近づいてもう1回投げてみる。
「へえ、ちびがやってたのか」
「そうだよ」
次は避けられて、今度はひな君から雪玉が投げられる。
軽々避けて持っていた雪玉を投げると、今度はひな君の太ももに命中した。
「…よし、本気でいくぞ」
「え?」
何発も連続で飛んできた玉を全部は避けられなくて、体の何箇所かに当たってしまった。
「今のどうやったの?」
「勝敗がつくまでは秘密」
「なにそれ…」
お互いしばらく雪玉を投げあっていたけど、力尽きてその場に倒れた。
…というより、後ろから誰かに猛攻されていた気がする。
「せ、先輩?」
「別に雪遊びするのは構わない。けど、いつまで経っても片づかないからな…」
「いやいや、雪玉作りすぎ…わあ!?」
雪まみれになった詩乃ちゃんが、豪速球でひな君めがけて飛ばす。
僕にも何発か当たっていて、どうやって投げているのか不思議に思った。
「…こんなものか」
「ねえ、詩乃ちゃん。今の雪玉の投げ方教えて」
「投げ方?どう説明したらいいかな…」
詩乃ちゃんは真剣に考えてくれているみたいで、雪玉を作りながら教えてくれた。
「刃物とかもそうなんだけど、上手く体重をのせないと軽い一撃になるんだ。
雪玉の場合は握る手に力を入れながら、手首を思いきり動かすといけるんじゃないかな。刃物の場合は長さによる」
先生が言っていた全身を使ってというのはこのことなのかもしれない。
「ちょっとやってみてもいい?」
「攻撃の練習をするならいいものを持ってる」
そう言って詩乃ちゃんが置いてくれたのは、顔がすり減った案山子だった。
「いつもナイフの練習で使ってるんだけど、これならいけるんじゃないか?」
「ありがとう」
死んでいる僕が雪に足をとられるなんてことは滅多にない。
いつもみたいに助走をつけてそのままひと突きする。
「真っ直ぐ向かう戦法自体はいいけど、多分相手に読まれやすい。
それならもう少し体にひねりをつけた方が強く入りそうだ」
詩乃ちゃんはそう話した後、勢いよく走って体をひねる。
持っていた木の棒を横一文字に動かして、案山子の体に傷をつけた。
「す、すごい…」
「これがナイフだともうちょっと深く切れる。相手の邪気だけを切るには丁度いいんだ」
詩乃ちゃんはどれだけのことを積み重ねて今の強さを持っているんだろう。
今すぐには無理でも、詩乃ちゃんみたいになれるかな。
「瞬、それを思いきり案山子に刺してみろ。心配しなくてもすぐ直せるから」
とにかく言われたとおりにやってみようと、体を回転させながら思いきり案山子に突き刺す。
みしみしと音を立てていた案山子はそのまま倒れた。
「すごいな。もう習得してる」
「本当?」
「もし練習したくなったときは私がつきあうよ」
「迷惑じゃない?」
「寧ろ誰かと一緒に練習できる機会なんて滅多にないから助かる」
詩乃ちゃんの案山子を預かって端の方に寄せていると、先生に頭を撫でられた。
「わっ、何…」
「上出来」
「え?」
さっきの、見られてたんだ。
転びそうになったりいまひとつ刺さらなかったりすることもあったけど、先生に褒められるのは嬉しい。
もっと先生に近づきたい…なんて思ってもいいだろうか。
もっと強くなりたい。みんなを護れるくらいになったら、側にいてもいいんだって自信が持てる気がするから。
「うう…」
おかげさんにもらった包丁もどきをふっていたら、先生が練習相手になってくれた。
ただ、1度も攻撃を当てられていない。
「先生、強いね」
「体の使い方を意識しろ」
「それってどうやるの?」
「…折原たちと遊んでみれば分かる」
先生にそう言われてやっているのは、雪玉を固める作業だ。
ひな君が桜良ちゃんと話している間に用意して、話が終わったところで投げてみようと思っている。
「それじゃあ桜良、また後で」
話し終わったのを確認して、ひな君の足に向かって投げつける。
「え、痛!?」
上手く命中したけど、どこから飛んできたのか分かっていないみたいだった。
ずっときょろきょろしているひな君に近づいてもう1回投げてみる。
「へえ、ちびがやってたのか」
「そうだよ」
次は避けられて、今度はひな君から雪玉が投げられる。
軽々避けて持っていた雪玉を投げると、今度はひな君の太ももに命中した。
「…よし、本気でいくぞ」
「え?」
何発も連続で飛んできた玉を全部は避けられなくて、体の何箇所かに当たってしまった。
「今のどうやったの?」
「勝敗がつくまでは秘密」
「なにそれ…」
お互いしばらく雪玉を投げあっていたけど、力尽きてその場に倒れた。
…というより、後ろから誰かに猛攻されていた気がする。
「せ、先輩?」
「別に雪遊びするのは構わない。けど、いつまで経っても片づかないからな…」
「いやいや、雪玉作りすぎ…わあ!?」
雪まみれになった詩乃ちゃんが、豪速球でひな君めがけて飛ばす。
僕にも何発か当たっていて、どうやって投げているのか不思議に思った。
「…こんなものか」
「ねえ、詩乃ちゃん。今の雪玉の投げ方教えて」
「投げ方?どう説明したらいいかな…」
詩乃ちゃんは真剣に考えてくれているみたいで、雪玉を作りながら教えてくれた。
「刃物とかもそうなんだけど、上手く体重をのせないと軽い一撃になるんだ。
雪玉の場合は握る手に力を入れながら、手首を思いきり動かすといけるんじゃないかな。刃物の場合は長さによる」
先生が言っていた全身を使ってというのはこのことなのかもしれない。
「ちょっとやってみてもいい?」
「攻撃の練習をするならいいものを持ってる」
そう言って詩乃ちゃんが置いてくれたのは、顔がすり減った案山子だった。
「いつもナイフの練習で使ってるんだけど、これならいけるんじゃないか?」
「ありがとう」
死んでいる僕が雪に足をとられるなんてことは滅多にない。
いつもみたいに助走をつけてそのままひと突きする。
「真っ直ぐ向かう戦法自体はいいけど、多分相手に読まれやすい。
それならもう少し体にひねりをつけた方が強く入りそうだ」
詩乃ちゃんはそう話した後、勢いよく走って体をひねる。
持っていた木の棒を横一文字に動かして、案山子の体に傷をつけた。
「す、すごい…」
「これがナイフだともうちょっと深く切れる。相手の邪気だけを切るには丁度いいんだ」
詩乃ちゃんはどれだけのことを積み重ねて今の強さを持っているんだろう。
今すぐには無理でも、詩乃ちゃんみたいになれるかな。
「瞬、それを思いきり案山子に刺してみろ。心配しなくてもすぐ直せるから」
とにかく言われたとおりにやってみようと、体を回転させながら思いきり案山子に突き刺す。
みしみしと音を立てていた案山子はそのまま倒れた。
「すごいな。もう習得してる」
「本当?」
「もし練習したくなったときは私がつきあうよ」
「迷惑じゃない?」
「寧ろ誰かと一緒に練習できる機会なんて滅多にないから助かる」
詩乃ちゃんの案山子を預かって端の方に寄せていると、先生に頭を撫でられた。
「わっ、何…」
「上出来」
「え?」
さっきの、見られてたんだ。
転びそうになったりいまひとつ刺さらなかったりすることもあったけど、先生に褒められるのは嬉しい。
もっと先生に近づきたい…なんて思ってもいいだろうか。
もっと強くなりたい。みんなを護れるくらいになったら、側にいてもいいんだって自信が持てる気がするから。
0
あなたにおすすめの小説
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる