258 / 302
第28章『再び訪れる悪夢』
第207話
しおりを挟む
「今夜やることは決まったな」
丁度半月が近づいてきていて、私が1番実力を発揮できる時期だ。
「血塗られた方だろうな」
『ですね。あのジャック・オ・ランタンは俺たちが完璧に倒したので、復活させることはできないと思います』
「あのときもあの男が絡んでいたが、今度は別の噂を巻きこんでまでやろうとしているのか」
予想以上に動きが早いのは、何か事情があるのだろうか。
いまひとつあの男の真意を汲みとれないでいる。
『どのみち、夜までは待機ということですね』
「そういうことになるかな。桜良はできるだけ力を使わないように。陽向はできるだけ桜良の側を離れるな」
「詩乃ちゃんはどうするの?」
瞬の問いかけに素直に答える。
「あの男の狙いは私だ。隠れていたらこの場所が壊されてしまうかもしれない」
「ひとりで行っちゃうの…?」
「今回は私が単独で動いた方がいい。ふたりには結月を護ってほしいんだ。またおかしな噂を流さないとも限らないから」
「おまえはどうするんだ?」
先生からの質問にも迷わずはっきり告げた。
「あの男とジャック・オ・ランタンを体育館まで引きつける。上手くいったらドアを閉めてほしい」
『ひとりで戦う気なんですか!?』
「まあ、一応そういうことになるな。けど、私が本気で攻撃したらみんなごと吹き飛ばしてしまうだろうから」
『どういうことですか?』
「もうすぐ半月なんだ。上弦の月とはいえ、無条件で力が引き出される。あの男はそれを知らないんだ」
穂乃と義政さんにだけは見られたことがあるが、他の人たちには話したことしかない。
どれだけの威力か説明しようにも表現が難しく断念した。
『…詩乃先輩がピンチになったと判断したら、そのときは扉を開けます』
「分かった。その方向でいこう」
先生たちから向けられる視線には不安が入り混じっていて、どう言葉を発すればいいのか分からない。
だからただ曖昧に笑ってみせた。
「バイトに行ってくる。猫カフェ、そろそろ混みだすんだ」
「気をつけて行け」
「ありがとう」
一旦校外で脳内を整理する。
あの男と鉢合わせたら、なんてことを考えずにはいられなかった。
「お疲れ様でした」
「折原さん、今ちょっといい?」
で紹介されたのは、新しく入ったばかりだという少女。
年は私より少ししたくらいだろうか。おどおどした様子でぺこりと頭を下げる。
「八坂さんは声が出なくて…。慣れるまで折原さんにもサポートをお願いしたいの。いいかな?」
「勿論です。…よろしく、八坂」
やんわり手を握られ、小動物みたいだと感じた。
声が出ない相手というのは会話を我慢しやすい。
桜良を見てきたからよく分かる。
今日は顔合わせだけということだったので、一先ず学校まで早足で向かう。
「おまたせ」
「詩乃ちゃん、早かったね。猫さんがお菓子持ってきてくれたよ」
「結月が?」
沢山のお菓子が敷きつめられている箱からマドレーヌを取り出し、一口食べてみる。
「…美味しい。穂乃が喜びそうな味だ」
「穂乃ちゃんって甘いものが好きなの?」
「昔からショートケーキとかミルクチョコが好きなんだ。パンケーキには蜂蜜を大量にかけるし」
「そうなんだ…」
他愛ない会話を楽しんでいると、陽向が焦った様子で監査室に入ってきた。
「どうした?」
「なんか別棟にいました!めちゃくちゃ追いかけられて…最悪です」
「どういう奴だった?」
「よく分からないんです。なんかでかぶつで、人間とか死霊って感じじゃありませんでした」
マドレーヌを一気に頬張り、紅をさして立ちあがる。
「早速お出ましってわけか。それじゃあいってくる」
「気をつけてね」
「ありがとう。陽向は一応武器を用意しておいてくれ」
「了解です」
別棟まで走ると、巨大な何かが迫ってきている。
校舎を破壊するつもりはないらしく、真っ直ぐこちらに向かってきた。
伸びてきた触手のようなものを、札でぐるぐる巻きにしたナイフで斬り裂く。
《ぐ、おお…》
「そのままついてこい。おまえの狙いは私だろう」
丁度半月が近づいてきていて、私が1番実力を発揮できる時期だ。
「血塗られた方だろうな」
『ですね。あのジャック・オ・ランタンは俺たちが完璧に倒したので、復活させることはできないと思います』
「あのときもあの男が絡んでいたが、今度は別の噂を巻きこんでまでやろうとしているのか」
予想以上に動きが早いのは、何か事情があるのだろうか。
いまひとつあの男の真意を汲みとれないでいる。
『どのみち、夜までは待機ということですね』
「そういうことになるかな。桜良はできるだけ力を使わないように。陽向はできるだけ桜良の側を離れるな」
「詩乃ちゃんはどうするの?」
瞬の問いかけに素直に答える。
「あの男の狙いは私だ。隠れていたらこの場所が壊されてしまうかもしれない」
「ひとりで行っちゃうの…?」
「今回は私が単独で動いた方がいい。ふたりには結月を護ってほしいんだ。またおかしな噂を流さないとも限らないから」
「おまえはどうするんだ?」
先生からの質問にも迷わずはっきり告げた。
「あの男とジャック・オ・ランタンを体育館まで引きつける。上手くいったらドアを閉めてほしい」
『ひとりで戦う気なんですか!?』
「まあ、一応そういうことになるな。けど、私が本気で攻撃したらみんなごと吹き飛ばしてしまうだろうから」
『どういうことですか?』
「もうすぐ半月なんだ。上弦の月とはいえ、無条件で力が引き出される。あの男はそれを知らないんだ」
穂乃と義政さんにだけは見られたことがあるが、他の人たちには話したことしかない。
どれだけの威力か説明しようにも表現が難しく断念した。
『…詩乃先輩がピンチになったと判断したら、そのときは扉を開けます』
「分かった。その方向でいこう」
先生たちから向けられる視線には不安が入り混じっていて、どう言葉を発すればいいのか分からない。
だからただ曖昧に笑ってみせた。
「バイトに行ってくる。猫カフェ、そろそろ混みだすんだ」
「気をつけて行け」
「ありがとう」
一旦校外で脳内を整理する。
あの男と鉢合わせたら、なんてことを考えずにはいられなかった。
「お疲れ様でした」
「折原さん、今ちょっといい?」
で紹介されたのは、新しく入ったばかりだという少女。
年は私より少ししたくらいだろうか。おどおどした様子でぺこりと頭を下げる。
「八坂さんは声が出なくて…。慣れるまで折原さんにもサポートをお願いしたいの。いいかな?」
「勿論です。…よろしく、八坂」
やんわり手を握られ、小動物みたいだと感じた。
声が出ない相手というのは会話を我慢しやすい。
桜良を見てきたからよく分かる。
今日は顔合わせだけということだったので、一先ず学校まで早足で向かう。
「おまたせ」
「詩乃ちゃん、早かったね。猫さんがお菓子持ってきてくれたよ」
「結月が?」
沢山のお菓子が敷きつめられている箱からマドレーヌを取り出し、一口食べてみる。
「…美味しい。穂乃が喜びそうな味だ」
「穂乃ちゃんって甘いものが好きなの?」
「昔からショートケーキとかミルクチョコが好きなんだ。パンケーキには蜂蜜を大量にかけるし」
「そうなんだ…」
他愛ない会話を楽しんでいると、陽向が焦った様子で監査室に入ってきた。
「どうした?」
「なんか別棟にいました!めちゃくちゃ追いかけられて…最悪です」
「どういう奴だった?」
「よく分からないんです。なんかでかぶつで、人間とか死霊って感じじゃありませんでした」
マドレーヌを一気に頬張り、紅をさして立ちあがる。
「早速お出ましってわけか。それじゃあいってくる」
「気をつけてね」
「ありがとう。陽向は一応武器を用意しておいてくれ」
「了解です」
別棟まで走ると、巨大な何かが迫ってきている。
校舎を破壊するつもりはないらしく、真っ直ぐこちらに向かってきた。
伸びてきた触手のようなものを、札でぐるぐる巻きにしたナイフで斬り裂く。
《ぐ、おお…》
「そのままついてこい。おまえの狙いは私だろう」
0
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
孤児が皇后陛下と呼ばれるまで
香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。
目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸
3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。
「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる