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第29章『決戦前夜』
第219話
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ひとつひとつ確認して進んでいると、ふたつ目のポイントの地蔵が倒されていた。
《成程、自然現象ではなさそうだ》
「悪意を持った人間だろうな」
《そうだ、直すついでにこの町のことを教えてくれないかな?》
「この町に住んでたわけじゃないのか?」
記事はこの町でおきた悲劇について書かれていたので、怪盗自身のことをそこまで深く知らない。
《ただ1度、仕事のために来たんだ。だからろくに町をまわってなくてね…》
「この町は噂が広がりやすいんだ。それに影響された妖や死霊が怪異として現れることが多い。
人が沢山集まる場所もあるんだろうけど、人間嫌いの私が紹介できるのは海が綺麗な場所だ」
《そうか。これだけ星が綺麗なのもいいところだと思ったんだけど、海が見える場所もあるのか…》
地蔵の飛ばされた首を戻し、そのまま別の地蔵の場所へ向かう。
歩きながら話していても、やはり狂気を感じることはなかった。
「これは…酷いな」
頭が潰された地蔵を前に呆然と立ち尽くす。
これを治すのは無理だ…そう考えた瞬間、怪盗が持っていた杖をひとふりする。
不思議なことに、地蔵は元の形に戻っていた。
《ほう、こんなこともできるのか》
「元々は手品師だったんだよな?こんなときに言うのはおかしいと思うけど、色々な技が見られて楽しい」
《そう感じてもらえたならありがたい》
最後の地蔵の頭を戻したところで、怪盗は不思議そうに尋ねてきた。
《そういえば、どうして君たちは私のことを咎めないんだい?》
「たしかに事情を知らない人間からすれば犯罪だろう。けど、盗まれたものを盗みかえすのが悪いとは思えない。
おまえがどういう人物だったのか知らないけど、それで救われた人たちだってきっといたはずだ。それに…知り合いの怪異に似た奴がいるからな」
盗賊団たちは元気にしているだろうか。
おかしな事件に巻きこまれていないことを祈りつつ、地蔵の頭をなんとか戻すことができた。
「みんな、聞こえるか?一応地蔵の頭は全部戻した」
『本当?よかった…』
「陽向、何が聞こえる?」
『え?先輩の声とちびの声がしましたけど…あとは、炎の外に何かいるのは分かります』
「地蔵を全部戻したのにまだいるのか」
予想外の出来事だ。
だが、八尺様の力は抑えこめているだろう。
「もう少し踏ん張ってくれ。…悪いが急いで戻らないといけなくなった」
《ここまできたら私も最後まで手伝わせてもらおう》
ふたりで小走りで陽向のところへ戻ると、そこにはたしかに異形の者が立っていた。
《ぐお、ガア…》
「悪いが何を言っているかさっぱり分からないな」
札を巻きつけたナイフで一気に決める。
相手の体は脆かったのか、力が弱まっている私でも引き裂くことができた。
「陽向」
「すみません、先輩。ありがとうございます」
「その言葉はそっちの怪盗紳士に言ってくれ。私ひとりじゃ全部は直せなかった」
「え、直してくれたの?」
《少し手伝っただけさ》
「ありがとな。今夜はこのまま外で過ごすことになると思ってたから助かったよ」
なんだか微笑ましい光景を見られて安堵する。
だが、このとき油断しなければこんなことにはならなかっただろう。
「陽向!」
「噂に毒されてるなら…ちゃんと、言ってくれよ……」
その言葉を最後に陽向は事切れた。
怪盗の杖は血で濡れている。
《あ、レ…私は、何ヲ、何故…》
そこに響き渡る、高らかな嘲笑い声。
「見ろ、やッパり俺はスゴいんダ!」
「おまえ…」
《体、止めラレな…殺しテクれ》
怪盗はかろうじで耐えているようだった。
息も絶え絶えに殺せと何度も懇願してくる。
「大丈夫だヨ。おまエハ終わリだ」
槍が勢いよく怪盗めがけて放たれる。
私は力いっぱい心優しい紳士の体を突き飛ばした。
「……っ、ごほ!」
腹部から溢れる血の涙は間違いなく私のものだ。
『折原、何がおきている?』
先生の焦った声が耳に届いたものの、答える余裕がない。
「俺ハ偉大だ!俺が最強ダ!」
狂ったように宣言するそいつを尻目に怪盗の周囲を炎で覆う。
《ドうしテ…》
「少し、待っててくれ」
牧師からもらった真紅の瓶。
飲むか飲むまいかずっと迷っていた。
何もしなければ失血死するだろう。自分のことはなんとなく分かる。
私が独りならそれでもよかった。命がけであの男からみんなを護れるならそれも悪くない。
だが、私には帰りたい場所がある。
「…ここで死んだら、祝ってやれないもんな」
人間なんて大嫌いだ。
そんな私にとってこの薬は救いになるだろう。
伴田やバイト先の人間たちみたいにいい人もいる。
だが、この世界の大半は私にとって息苦しいものでしかない。
嘲笑が聞こえるなか、思いきり瓶を傾けた。
《成程、自然現象ではなさそうだ》
「悪意を持った人間だろうな」
《そうだ、直すついでにこの町のことを教えてくれないかな?》
「この町に住んでたわけじゃないのか?」
記事はこの町でおきた悲劇について書かれていたので、怪盗自身のことをそこまで深く知らない。
《ただ1度、仕事のために来たんだ。だからろくに町をまわってなくてね…》
「この町は噂が広がりやすいんだ。それに影響された妖や死霊が怪異として現れることが多い。
人が沢山集まる場所もあるんだろうけど、人間嫌いの私が紹介できるのは海が綺麗な場所だ」
《そうか。これだけ星が綺麗なのもいいところだと思ったんだけど、海が見える場所もあるのか…》
地蔵の飛ばされた首を戻し、そのまま別の地蔵の場所へ向かう。
歩きながら話していても、やはり狂気を感じることはなかった。
「これは…酷いな」
頭が潰された地蔵を前に呆然と立ち尽くす。
これを治すのは無理だ…そう考えた瞬間、怪盗が持っていた杖をひとふりする。
不思議なことに、地蔵は元の形に戻っていた。
《ほう、こんなこともできるのか》
「元々は手品師だったんだよな?こんなときに言うのはおかしいと思うけど、色々な技が見られて楽しい」
《そう感じてもらえたならありがたい》
最後の地蔵の頭を戻したところで、怪盗は不思議そうに尋ねてきた。
《そういえば、どうして君たちは私のことを咎めないんだい?》
「たしかに事情を知らない人間からすれば犯罪だろう。けど、盗まれたものを盗みかえすのが悪いとは思えない。
おまえがどういう人物だったのか知らないけど、それで救われた人たちだってきっといたはずだ。それに…知り合いの怪異に似た奴がいるからな」
盗賊団たちは元気にしているだろうか。
おかしな事件に巻きこまれていないことを祈りつつ、地蔵の頭をなんとか戻すことができた。
「みんな、聞こえるか?一応地蔵の頭は全部戻した」
『本当?よかった…』
「陽向、何が聞こえる?」
『え?先輩の声とちびの声がしましたけど…あとは、炎の外に何かいるのは分かります』
「地蔵を全部戻したのにまだいるのか」
予想外の出来事だ。
だが、八尺様の力は抑えこめているだろう。
「もう少し踏ん張ってくれ。…悪いが急いで戻らないといけなくなった」
《ここまできたら私も最後まで手伝わせてもらおう》
ふたりで小走りで陽向のところへ戻ると、そこにはたしかに異形の者が立っていた。
《ぐお、ガア…》
「悪いが何を言っているかさっぱり分からないな」
札を巻きつけたナイフで一気に決める。
相手の体は脆かったのか、力が弱まっている私でも引き裂くことができた。
「陽向」
「すみません、先輩。ありがとうございます」
「その言葉はそっちの怪盗紳士に言ってくれ。私ひとりじゃ全部は直せなかった」
「え、直してくれたの?」
《少し手伝っただけさ》
「ありがとな。今夜はこのまま外で過ごすことになると思ってたから助かったよ」
なんだか微笑ましい光景を見られて安堵する。
だが、このとき油断しなければこんなことにはならなかっただろう。
「陽向!」
「噂に毒されてるなら…ちゃんと、言ってくれよ……」
その言葉を最後に陽向は事切れた。
怪盗の杖は血で濡れている。
《あ、レ…私は、何ヲ、何故…》
そこに響き渡る、高らかな嘲笑い声。
「見ろ、やッパり俺はスゴいんダ!」
「おまえ…」
《体、止めラレな…殺しテクれ》
怪盗はかろうじで耐えているようだった。
息も絶え絶えに殺せと何度も懇願してくる。
「大丈夫だヨ。おまエハ終わリだ」
槍が勢いよく怪盗めがけて放たれる。
私は力いっぱい心優しい紳士の体を突き飛ばした。
「……っ、ごほ!」
腹部から溢れる血の涙は間違いなく私のものだ。
『折原、何がおきている?』
先生の焦った声が耳に届いたものの、答える余裕がない。
「俺ハ偉大だ!俺が最強ダ!」
狂ったように宣言するそいつを尻目に怪盗の周囲を炎で覆う。
《ドうしテ…》
「少し、待っててくれ」
牧師からもらった真紅の瓶。
飲むか飲むまいかずっと迷っていた。
何もしなければ失血死するだろう。自分のことはなんとなく分かる。
私が独りならそれでもよかった。命がけであの男からみんなを護れるならそれも悪くない。
だが、私には帰りたい場所がある。
「…ここで死んだら、祝ってやれないもんな」
人間なんて大嫌いだ。
そんな私にとってこの薬は救いになるだろう。
伴田やバイト先の人間たちみたいにいい人もいる。
だが、この世界の大半は私にとって息苦しいものでしかない。
嘲笑が聞こえるなか、思いきり瓶を傾けた。
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