カルム

黒蝶

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破壊

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「これは…」
現場に辿り着いたときには酷い有様だった。
瓦は崩れ、積み上げられていた石は砕けてしまっている。
「木霊、いないのか?」
『…ああ、八尋か…』
「大丈夫か?具合が悪いとか、そういうのはないか?」
『特にはない。ありがとう八尋』
木霊を見たところ怪我はなさそうで安心した。
ただ、祠がこの状態ではきっとまた消えそうになるに違いない。
「誰にやられたか分かるか?」
『いや、残念なことにそこまでは分からなかった。ただ、どうやら今流れている噂が関係しているようだ』
「…呪われた人形の噂?」
はじめは小鞠がそうなんじゃないかと思っていたけど、一緒に過ごしているのに何もしないのはおかしい。
それに、記憶が飛んでいて俺の家の前に置いた相手がいるなら噂に沿って行動するのはほぼ不可能だろう。
『あの噂には続きがあってな。…どうやらそれに祠が登場するらしい。
内容までは知らないが、社からどうこう言われているであろうことは理解した』
「そうか…」
犯人の手がかりだけでも見つけたいと思っていたが、残念ながらそれらしきものは見つからない。
石を積み直していると、木霊の目が小鞠に向けられる。
「そうだ。大変なところ申し訳ないんだけど、この子のこと知らない?」
『可愛らしいお嬢さんだ。しかし、その子には持ち主がいるのではないか?』
「ここの社を見たみたいなんだ。俺の家の前に置いていった人を探したいんだけど、彼女には記憶がなくて…」
『それは大変だな』
『大変』
「確かにちょっと大変だけど、もし落としていったならちゃんと帰したいんだ」
『…もし落としたわけではなかったらどうする?』
「うちにいてもらうことになるかもしれない。本人が嫌がるなら引き止めないけど、帰る場所がないなら寧ろいてくれると楽しい」
ばらばらになった木製の破片を集めて、なんとか少しずつ形にしていく。
『相変わらず八尋はお人好しですね』
「力が強いわけじゃないみたいだし、記憶がない相手に出ていけなんて言いたくない。
だけど、多分普通なら出ていくよう話すのが普通なんだと思う。…だから、俺はそんなにいい人じゃないよ」
少し崩れてはいるものの、なんとか見た目と中の一部だけは完成した。
「ごめん、これくらいしかできなくて…」
『俺にとってはこれくらいではない。ありがとう』
「今日は仕事があるからそろそろ行くよ。…今日も花を持ってきたんだ。受け取ってくれる?」
『ありがとう』
そんな会話をして、楽しそうに走り回っていた小鞠に止まるよう話しかける。
初めて会ったとき箱を包むのに使われていた布を取り出すと、木霊が何かに気づいたらしくはっとしたような表情で尋ねてきた。
『…その子は木箱に入っていたのか?』
「え?ああ、うん。家の前に置かれていたんだ」
『そうか…それなら、持ち主はいない可能性が高い』
「どういうことなんだ?」
意味が分からず訊き返すと、予想外の答えが返ってきた。
『恐らく、その風呂敷の持ち主は病に侵されていた。…もう長くはない状態だった』
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