夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
7 / 309
第1章『はじまりの拾物』

番外篇『夜紅の頼みごと』

しおりを挟む
穂乃が突然倒れてしまい、若干困惑した。
《やはりその娘は…》
「おまえのせいじゃない。それに、この子が自分で選んだなら私はそれを否定しないよ」
それにしても、穂乃が霊力不足で倒れるということは白露は本当に強い力があるということだ。
それを彼のせいにした元の持ち主は、おそらくさほど強くなかったのだろう。
「向き不向きがあるし、式神と契約するのが初めてだとこうなることは少なくないらしい」
《…俺が技を使ったからかもしれない》
「技?」
《ちょっとしたものだが、契約した相手の霊力を削ってしまうことがある。
俺という存在だけでも莫大な量を喰っているのに、更に負担をかけることになる》
白露は絶望したように呟いた。
ただ、今の話を聞いて確信したことがある。
「頼みがある」
《なんだ?契約破棄させたいならその娘を…》
「穂乃が困ったとき、手伝ってやってほしい。…私だけじゃ護りきれないから」
これだけはっきり嘘偽りなく話すなら、白露という人を信じたい。
「穂乃の霊力は莫大だ。本人が自覚してないが、時々爆発しそうになるくらい」
《…やはりそうなのか》
「おまえは利用しようなんて考えてないだろうし、穂乃を見捨てず助けてくれた。だから頼みたいんだ」
いつ私に何かあってもいいように、護りを固めておきたい。
《頼まれなくても、それが式の役目だ》
「ありがとう。私は他の仲間と話をしてくるから、そのまま穂乃についててくれ」
足早にその場を離れ、痛みだした心臓を押さえる。
最近、負担をかけすぎると痛みだすのは何故だろう。
あの薬を飲んだせいとは考えづらいが、このまま放っておいていいのか分からない。
「妹はどうした?」
「式神と契約して、霊力切れで寝てる」
前から歩いてきた先生は眉をひそめる。
「痛むのか」
「そんなんじゃないよ」
室星先生は見た目は普通の人間だが、実は数百年生きてきた妖だ。
そして今は、未来予知日記の管理者になっているため半怪異状態である。
そんな先生を支えているのが、ある元・生徒だ。
「先生、お疲れ様!」
「随分汚したな」
「ちょっと転んじゃって…」
流山瞬は泥をはらいながらにっこり笑う。
彼は見た目こそただの人間だが、ある事情から今は地縛霊としてここにいる。
インカム越しに陽向の申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
『すみません、まさか途中で死ぬとは思わなくて…』
「気をつけろ。死なないからいいわけじゃない」
岡副陽向は私とよく夜の見回りをしている仲間だ。
ある条件を満たさない限り死ねないほぼ不死の体質は変わっていない。
陽向の恋人である木嶋桜良は、少しずつ使える術を増やしている最中だ。
夜見回る通称夜仕事を始めて4年目に入ったが、まだ慣れないことも多い。
それに、できるだけ穂乃を巻きこみたくなかった。
他のみんなも含めて、トラブルに見舞われない日がくることを祈っている。
──そのためにできることがあるなら惜しまない。
しおりを挟む

処理中です...