夜紅譚

黒蝶

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第4章『操り糸』

第21話

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「遅くなってごめん」
「それは全然いいんですけど…先輩、大丈夫ですか?」
「ああ。点滴はもう終わったし、先生からも動いていいって言われた」
全力を出したら死ぬぞ、とは言われたが、調査を中止するつもりはない。
「お姉ちゃん、無理そうなら言ってね」
「ありがとう。…さて、みんなが集めた噂を総合して考えたいんだが…」
体に操り糸がくっつけられ、四肢を折られるというもの、糸がついている間寿命を吸われながら欲望のまま動くというもの…とにかくバリエーションが多かった。
「どの噂も操り糸の先にいる人物について説明がない。あとは糸が体に巻きつくことくらいか。…場所を絞るのは難しいな」
目撃情報が数件あったものの、場所がばらばらすぎる。
「こういうときってどうやって探してるの?」
「校内探索だな。今日はまだ先生忙しくて来られないし、どうチーム分けしようか」
「僕もいるよ」
ふと扉に視線をやると、瞬がにっこり微笑んでいる。
「ちび、なんでここに…」
「先生が忙しそうだから、体育の授業代わりに原因を突き止めてこいって」
瞬は室星先生の生徒だった。
悲惨ないじめに遭い自ら命を絶った後、色々あって今は友人のひとりだ。
夜仕事もよく手伝ってもらっていて、頼りにさせてもらっている。
「んじゃ、穂乃ちゃんは先輩かちびと組んだ方が、」
「…いや。穂乃、悪いけど今夜は陽向と一緒にいてくれないか?」
「私はいいけど…陽向君、嫌じゃない?」
「嫌じゃないよ」
「ありがとう。なら決まりだな」
陽向が私に向かってやってくれましたねと口パクで話したのを完全スルーして、先に瞬と外へ出た。
「ひな君に無茶させないようにするため?」
「ああ。流石に穂乃の前で死ぬわけにはいかないたろ?」
陽向は穂乃の前では死なない程度に調査してくれる。
いくらほぼ不死の体とはいえ、もっと自分を大切にしてほしい。
「それに、目星がついているから」
「え、そうなの?」
「うん。多分だけど、このあたりにいる」
目撃情報の内容は姿形も場所もばらばらだが、ある特徴が見られた。
「マリオネットの目撃情報は、大きな姿見がある階段が近くにある。…あと出没していないのは2ヶ所あるけど、片方は今修繕工事で通れない。
旧校舎だから人通りも少ない。…だからこそ、ひとりくらい糸に繋いでもばれないんだ」
「そっか、だからひな君たちを新校舎に行かせたんだね」
「…瞬、悪いが手伝ってくれるか?」
「勿論!」
旧校舎3階の階段下に、大きな姿見がある。
そこにマリオネットがぽつんと置かれていた。
「…行こう」
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