夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
81 / 309
第9章『死者還り』

第67話

しおりを挟む
「…というわけらしいんだ」
「そうか。残りは明日にならないと追いきれないな」
「流石に今夜現れることはないだろうけど、警戒しておくよ」
「…今夜はもう帰れ。妹が心配するだろ」
「ごめん。そうさせてもらう」
学校で顔を合わさないだけでも不安がっていたのに、余計に恐怖を与えたくない。
「それじゃあ、また明日」
「…待て。俺も戻る」
先生も瞬がどうしているか気になるんだろう。
「ただいま」
「おかえりなさい!学校どうだった?」
「やっぱり落ち着かなかった」
家に帰りついた瞬間から、穂乃の質問が止まらない。
やっぱり他の学校がどういう場所なのか気になっているのだろう。
「流石にもう寝ないと明日に響くぞ」
「そうだね。おやすみなさい…」
「おやすみ」
穂乃が部屋に入ったのを確認して、白露に声をかける。
「今夜、学校で何があった?」
《…何の話だ》
「とぼけても無駄だ。穂乃が陽向の近くにいたことくらい分かってる」
本来であれば夜仕事に参加しないよう言ってある日だが、穂乃に押し切られてしまっては誰も止められなかったのだろう。
白露はしばらく黙っていたが、渋々といった様子で話しはじめた。
《……すすり泣く女の声がして、全員で見に行こうという話になった。そこで蠢いていたのが怨念がこもった人形だ。
見つからないことを祈ったが、目があって追いかけ回された》
「どれくらいの大きさだったんだ?」
《はじめは女の手におさまるほどだったが、灘を持っていたときは不死身男と同じくらいだった》
陽向くらいの背丈となると相当だ。
「ありがとう。こっちでも人形を持ってる怪異らしきものを見かけたから気をつけておく」
椅子から立ちあがったところで腕を掴まれる。
《夜紅》
「どうした?」
《あれは元より人ではない存在だ。気を抜くな》
「肝に銘じておくよ。ありがとう白露」
白露の方が背が高いのに、穂乃にやる癖でつい手を伸ばしてしまう。
結局、特に意味もなく手を繋ぐ。
《癖なのか?》
「なんとなくだ」
それから少し休んで家を出る。
白鷺学園まで行くのに、少し時間がかかることが分かったからだ。
それに、どうしてもやっておきたいことがあった。
『おはようございます、先輩』
「やっぱり起きてたか」
『監査部の仕事するついでです。先輩はもう白鷺学園ですか?』
「いや。近くのカフェにいる」
『昨日のこと、もうちょっと詳しく報告しますね』
「ありがとう。助かるよ」
『実は、その…』
「分かってる。狙われたのは穂乃だったんだろ?」
陽向が息を呑むのを感じながら、次の言葉を待つ。
少し沈黙が流れて、静かに答えが告げられた。
『チャッキーさん?に近い感じの人形が襲いかかってきたんです。
はじめは泣いてた女の子が追いかけてきているのかと思ってたけど、いきなり体が大きくなりました』
しおりを挟む

処理中です...