夜紅譚

黒蝶

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第9章『死者還り』

第71話

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「何か困ったことがあれば連絡してくれ」
「あ、ありがとうございます」
別れの挨拶をすませ、職員室へ向かう。
扉を開けた直後、いきなり体を押し倒される。
「お、おまえ、この前はよくも…」
「…痛いんですけど」
「この俺の誘いを断るのか!」
「何故私が誘いに乗らないといけないんですか?…この後関わりがないであろう相手に、わざわざ個人情報を晒そうとは思いません」
カッターで切りつけられ、首を絞められる。
そのままでいい。そうしていれば──
「渡辺先生、これは一体どういうことですか?」
「こ、校長先生?出張は?これは、その…」
「早く彼女から離れなさい!」
これが証拠になるなら、これ以上被害者を生み出すことはない。
パトカーのサイレンが近くで聞こえて、全部終わったんだと安堵する。
憑いているものがいなくなっているのも確認できたし、これからどうなるかは被害者次第だ。
「…無茶しすぎだ」
「ごめん。まさか切りつけてくるとは思ってなかったんだ」
先生に手当てしてもらっていると、白鷺学園の校長に頭を下げられた。
「折原さん、室星先生、本当に申し訳ありませんでした」
「大丈夫です。よく怪我するので…。それに、監査部で慣れてますから」
「被害者たちに知らせてください。無記名のアンケートで話を聞いて、カウンセリングを受けにくるよう呼びかけるのもいいかもしれません」
こうして、私たちの仕事は終わった。
これでもう、あの教員関連の新たな被害者が出ることはないだろう。
だが、まだ解決しきれていないことがある。
「瞬から聞いた」
切り出す前に、先生からはっきりそう告げられる。
「この事件、まだ裏で糸を引いてる奴がいる」
「まさか人形が複数存在するとはな」
「目的はなんだろう?」
「何故生者を狙わなかったのかも疑問だな」
帰りのバスはその話で持ちきりだった。
実験器具が入った鞄を抱え、久しぶりに烏合学園に足を踏み入れる。
「おかえりなさい」
「ただいま」
授業時間なはずなのに、陽向は当然のように監査部室で作業している。
「授業は行かなくていいのか?」
「自習だからクラスの半分くらいいません」
「あいつら…」
先生は苦笑していたものの、咎めるような発言はしない。
「それじゃあ、早速で悪いけど陽向が知っていることを教えてくれ」
「分かりました」
陽向が深刻そうな表情になったのは、きっと気のせいじゃない。
「変な形で噂になってることがあるんです。『ジャック・オ・ランタンの怨念が呪いの人形を動かしてるらしい』って」
ジャック・オ・ランタンに関する噂は毎年流れるが、このパターンは初めてだ。
これからやってくる相手はどういった人物なのだろうか。
少し考えただけで頭が痛くなった。
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