夜紅譚

黒蝶

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第10章『かぼちゃの森』

第74話

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そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎ去り、夜になっていた。
「お姉ちゃん」
「穂乃?まだ残ってたのか」
「お願い、今日だけ夜仕事させて」
「…理由を聞こうか」
頭ごなしに駄目だと否定するのはきっとよくない。
「私、この前全然役に立てなかったの。でも、クラスの子が怖がってるのを見てなんとかしたいって思ったんだ。
…足手まといになると思うけど、少しでもできることをやりたい」
穂乃の真剣な表情を見ると、嫌だとは言えなかった。
「ひとりにならないこと。できれば先生と一緒にいてほしい。それが条件だ」
「いてもいいの?」
「解決したいんだろ?その気持ちを無視することはできない」
「ありがとう!」
穂乃の力は強大だ。
そこに目をつけている相手なら帰るよう説得するが、今回は違う。
寧ろ、何故白露を狙っているのか知りたい。
「先生、頼んでもいいか?」
「分かった。…折原妹、こっちだ」
「は、はい」
その後ろをついていこうとした白露に声をかけ引き止める。
「…穂乃とどれくらいなら離れられる?」
《満月が近いから、学園内をうろつく程度なら大丈夫だろう》
「それなら今夜は私と一緒に来てほしい」
《何故だ?》
「時間がないから歩きながら話す」
《…分かった》
先生たちと話すのに夢中になっている穂乃を残して、白露と陽向と旧校舎をまわる。
《それで、何故俺を止めた?》
「狙われてるのがおまえっぽいから。この前狙われてたのは穂乃ちゃんじゃなくて、おまえとちびだった」
《囮を二手に分かれさせてどうする?》
「囮だと思ってない。ただ、確かめたいんだ。私はそのときここにいなかったから…」
陽向が言ったことを信じていないわけじゃない。
ただ、力が目的ではないなら相手の考えを探る必要がある。
「こうして歩き回っている方が期限になる、という意味では囮と捉えられても仕方ないかもしれない。ごめん」
白露は心底不思議そうに首をかしげる。
《…式に頭を下げる人間など初めて見たぞ。本当に分からない奴等だな》
「それが俺たちのやり方だからな…。いつか慣れてくれ」
「できれば、白露から見た穂乃の生活を教えてくれ」
《…友人と楽しんでいるが、時々人間ではないものにまで話しかけようとするから苦労しているようだ》
「やっぱりそうなったか。いつもありがとう」
穂乃の視える力はあまりに強大すぎて、生死の境があやふやになっていることが多い。
別の怪異を相手したときもそうだったが、純粋に人間相手に話しかけるように危険な存在にも声をかけてしまう。
だからこそ、今回のように狙われないのは不思議なことなのだ。
「先輩」
「分かってる」
空気が変わった旧校舎で札をかまえる。
ごろんと音をたてて、目の前から生首が転がってきた。
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