夜紅譚

黒蝶

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第14章『冬女咲きほこる』

第116話

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女子高生は首を傾げていたが、はっとしたように顔をあげた。
「もしかして、流行りの噂のことですか?」
「うん。前々から不思議な噂が流行りだしたときは生徒たちから情報を集めているんだ」
「私が聞いた話では、悲惨な死に方をした女性の願いを叶えられなければ氷漬けにされてしまう…というものでした」
「そうか。教えてくれてありがとう。バイトのこと、わからない所があればなんでも聞いてくれ」
「は、はい!」
おかしい。私が視たのは、少女と呼ぶには幼い女の子だった。
複数存在しているのか、似たような噂が混ざってきているのか…どのみち詳しく調べる必要がありそうだ。
バイトを終え旧校舎に向かい、先に来ていた穂乃に声をかける。
「冬女の噂について教えてくれないか?」
「私が知ってるのは、願い事を叶えないと凍らされるっていう内容のものだよ。他にもあるの?」
「ああ。それに酷使した内容の噂も出回りはじめているみたいなんだ」
先程バイト先で聞いた話をしていると、他のメンバーも入ってきてそれとなく聞いていたらしい。
「つまり、先輩が遭遇した子とは別に女性がいるってことですか?」
「私はそう考えてるけど、はっきり断言できる何かがあるわけじゃない。…先生はどう思う?」
詳しそうな人に訊くのが1番だろうと思っていたが、先生は首を横にふった。
「正直、これだけ酷似した噂が同時に流れるなんて初めてだ」
「そうか」
打つ手がないまま夜仕事がはじまる。
穂乃には白露と一緒に先生と行動するよう指示を出した。
「穂乃ちゃん、先輩と行きたがってましたよ」
「それは分かってる。けど、あまり怖い私を見せたくないんだ」
陽向がほぼ不死状態であることを知らない以上、穂乃と行動させるわけにはいかない。
だからといって白露とふたりだけでまわってもらうのも危険だし、毎回桜良と待機してもらえば間違いなく不満が噴出する。
「…瞬と先生に悪いことしたな」
「あのふたりなら分かってくれますよ。それより…」
陽向は一旦立ち止まり、私に向かって頭を下げた。
「先輩、この前は相談に乗ってくれてありがとうございました」
「頭を上げてくれ。そんな大層なことはしてない」
「いや、俺ひとりだったらずっともやもやしていたであろうことに答えが出てすごく助かったんです。
それに、真剣に話を聞いてもらえて嬉しかったし…。
俺、やっぱりあの人たちと会うつもりはありません。今を壊されたくないんです」
「そうか。陽向が考えて出した答えなら応援するよ」
血の繋がりがある人間との関わりというのはとても難しい。
大したことは言えなかったが、陽向のすっきりした顔を見て安堵する。
ふと視線を窓枠にやると、何かがきらりと光った。
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