夜紅譚

黒蝶

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第18章『虚ろな瞳の先』

第156話

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「え、男の子?」
「私たちが視たのはそうだった」
「今は特に流行ってる噂はないみたいなんですけど、そういう子がいるんですね…。気をつけておきます」
流行っている噂がないというのも珍しい。
こういうときは何かしら話が出回っていることが多いのに、まだ知られていないだけなのか。
「私の方でももう少し調べてみる」
「俺も調べてみます。そういえば、先生が探してましたよ」
「…そうか。ありがとう」
怪我の治りが遅いのを心配してくれているのだろう。
…あるいはお説教かもしれない。
取り敢えず旧校舎をうろうろしていると、むすっとした先生の姿が目にはいった。
「先生」
「…保健室行くぞ」
「ああ」
相変わらず体のあちこちが痛む。
これでも回復してきた方だが、満月が近いこともあってか力が出ないしいつもより遅い。
「…体を見られるのに抵抗はないのか?」
「ないよ。先生は嫌がることはしないだろうから。…他のみんなには見せられないけど、先生には治療してもらっているわけだし」
「そうか」
心なしか先生の元気がない気がする。
「何かあったのか?」
「いや…」
「そんなふうには見えない」
先生は口ごもっていたが、重い口を開いた。
「…小さな子どもを見たか?」
「人間じゃない存在ってことか?」
「見たんだな」
何かあってはまずいと思い、瞬と視た男の子のことを正直に話す。
先生は時折ため息を吐きながら最後まで聞いてくれた。
「あいつは危険だ」
「危険?」
「毎年中等部に生徒会主催でこいのぼりを飾りつけているんだが、鰭が傷つけられた状態で見つかった」
「それがあの子と関係あるのか?」
「…そいつはこいのぼりの付喪神だ」
このあたりは、妖以外に精霊の類や付喪神が棲みついていることがある。
味方になってくれていたり人間に無干渉の間はいいが、怒らせるとその場所が滅ぼされてしまうという話があるくらい恐ろしい。
「先にこいのぼりをめちゃくちゃにした犯人を見つけないとまずいな」
「話が早くて助かる。…悪いが手を貸してくれ。頼む」
先生が弱気になるのも無理はない。
証拠がないなか、何人いるかも分からない犯人をひとりで探すのは困難だ。
「早速聞きこみしてみるよ」
「助かる。くれぐれも無茶はしないように」
「分かってる」
先生のことだから、中高生には伝達してあるのだろう。
可能性は低いが、念のため大学部でも聞きこみをしてみようか。
…なんて考えていると、一通のメッセージが届いた。
【話は聞かせてもらいました。大学に何人か弟妹がこの学園の中高生だって人がいるので聞いてみます】
「……陽向」
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