夜紅譚

黒蝶

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第20章『近づく足音』

第174話

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先生に相談してみると、困惑した表情を浮かべていた。
「今の時点でそんな物騒な内容が書きこまれているとはな」
「余程世界が憎いんだろうな」
誰に読まれるか分からない場所で、みんないなくなればいいと書いてしまうほど精神的に追いつめられている。
どの生徒か特定するのは難しそうだがやるしかない。
「その短冊、持ってるか?」
「うん。流石に本気で叶うとまずいから…」
持ってきた短冊を見せると、先生は顔をしかめた。
「…まずいな」
「もう消えてるってことか?」
「こんなに文字がかすれていたわけじゃないだろう?」
見せてもらうと、最初に確認したときより文字が消えかかっている。
真っ黒とまではいかないが、持っているだけで悪寒がした。
「文字が消えると願いが叶うのか」
「…もし呪いの一種なら、願いが呪いになってかえってくる」
つまり、消えるのは書いた本人ということになる。
「先生ならこの学園の生徒たちの名簿を集められるよな?」
「やるしかないな。夕方また来い。手首の状態も確認したいしな」
「分かった」
大学生から手がかりを追うのは無理そうな案件だ。
リモート講義を受けながら噂の主を考えた。
──そうこうしているうちに、あっという間に日が沈む。
「後輩たちに確認したんですけど、短冊を書いた生徒は70人以上いるみたいで…」
「思ったより少ないんだな。…というより、どうやって聞き出したんだ?」
「統計をとりたいから、書いたことについては聞かないので書いたかどうかだけ教えてくれって言ったんです。結構教えてくれましたよ」
陽向の発想には驚かされる。
それなら相手に不信感を与えず、短冊を使った人物に迫れる…話し上手な陽向だからこそとれる戦術だ。
「岡副、今の話をもう少し詳しく聞かせてくれ」
「詳しくって言われても…。あ、けど質問してるときに睨んでる子がいたって桜良が教えてくれました。
…もしかして、その子だったりしますかね?」
「どんな子だったか分かるか?」
「桜良が写真を持ってるはずです」
送ってもらうようお願いしようとしていると、桜良から共有アプリにメッセージと写真が送られてきた。
【撮ったときはこんな状態ではありませんでした】
写真に写る人物の表情が確認できないほど、黒い靄がかかっている。
上半身全てを覆いつくすように何かが巻きついていて、長時間見ていると体調を崩しそうだった。
「これって心霊写真ですかね…」
「…遅かったか」
「遅かったってことは…」
山本という名札をつけているのだけは確認できたが、それ以上のことは分からない。
陽向の問いかけに、先生は静かに答えた。
「この生徒はもういない。…どこへ消えたか見当もつかない」
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