夜紅譚

黒蝶

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第21章『夜の学校』

第192話

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「やっぱりあとふたりいなくなったんですね」
「鏡の妖があの蔵に封じられていたんだとしたら厄介だな。勿論、着物の妖についても調べないといけないけどな」
一晩で決着をつけられれば良かったが、そう簡単な問題ではないらしい。
「そういえば、普段はどこに住んでいるんだ?」
《旧校舎の茶道室。あの場所なら色んなものが見られるから…》
「そうか」
ミカは陽向に向き直り、勢いよく頭を下げた。
「え、ちょ、え!?」
《ごめんなさい。悪い人なんじゃないかと思って警戒してしまって…。感じ悪い態度で不快な思いをさせてしまった》
「別に気にしてないよ。この見た目だし」
《何かあれば呼んで。力になるから》
鈴の音と同時にミコは姿を消した。
自分の部屋に戻ったならいいが、狙われないか心配だ。
「今夜は解散だな。これ以上収穫を得るのは難しい」
「ですね。お疲れ様です」
「桜良も遅くまでありがとう」
『少しでも役に立てたならよかったです』
そのまま瞬のところへ向かうと、結月のため息が聞こえた。
「あんた、まだ渡してなかったの?」
「タイミングが合わなくて…」
「入ってもいいか?」
扉をノックすると、結月が開けてくれた。
「もう行くわ。電話の近くに嫌な空気を感じるし」
「分かった。ちょっとまずいものが外をうろついてるから気をつけてくれ」
結月が部屋を去ると同時に、瞬が俯いたまま問いかけてきた。
「……僕、ここにいていいのかな」
「誰の許可もいらないと思う。あくまで持論だけど、おまえがいてくれると嬉しいよ」
暴走しかけたことを気にしているのだろう。
落ちこむ瞬の頭をそっと撫でる。
「あれにあてられたらしかたない。耐性は人それぞれだし、この前怪我しただろ?それで弱っているはずだ」
「そう、なのかな」
「そう思うよ」
瞬は力なく笑ってありがとうと言った。
「いいもの、になるか分からないけどやる」
「これ、石?パワーストーンっていうんだっけ」
「それに近いもの、かな。役に立つときがくるはずだ」
「詩乃ちゃんはいつも優しいね」
「瞬だって私に親切に接してくれるだろ?」
現状を話せば単独で調査すると言い出しかねない。
…私ならそうする気がする。
だから、事件については敢えて話さず瞬の話を聞いて終わりにした。
先生が帰ってきてから空き教室へ向かうと、先に陽向が来て資料をまとめてくれたらしい。
【何かあったら連絡してください】
メモ書きに感謝しつつ中を読む。
それによると、琵琶の名手と呼ばれた女性がいたらしい。
お付きの男と旅をしながら関係が深まり、男は彼女がある店で見ていた鏡を贈るつもりだったようだ。
その後事件がおきた。
「…だから鏡を割った人間を探しているのか」
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